映画「八犬伝」を観た。
滝沢馬琴1767-1848
葛飾北斎1760-1849
四代目鶴屋南北1755-1829
年代的には同時代の人たちと言っていいようだ。ちなみに原作の山田風太郎は1922-2001で、代表作の「くノ一忍法帖」のタイトルからも分かるように、いわゆる大衆小説の作家だった。
武士の「家」や「家督」という概念がないと、理解しにくい作品だと思う。といっても、現代でも家父長主義の親や教師はたくさんいて、その被害(?)に遭ったことのある若い人もたくさんいるだろうから、現状で言えば、大抵の人にわかりやすいエンタテインメントに仕上がっていると思う。とても面白かった。
江戸時代の識字率は世界各国の中でもトップクラスの高さだったという話もあって、寺子屋の普及などの効果だろうが、町人たちが字を勉強したのは、滝沢馬琴の著作をはじめとする話題作が読みたいという動機があったのではないかと思う。黒木華のお路が晩年の馬琴の手伝いをしたのも、続きが読みたかったという気持ちが、少しはあったに違いない。
役所広司が演じた滝沢馬琴は物理的な現実を「実」として、精神世界を「虚」と呼んでいた。馬琴は「実」を有為として「虚」を無為のように論じていたが、文化を「虚」とするなら、馬琴の「虚」も十分に有為である。しかし現代のように「虚」が「実」のように大きくなってしまって、弱い人をSNSで自殺に追い込むような社会は、どこか間違っている。それに比べれば、馬琴先生の世界観は、よほどまともだった気がする。