福島第一原発の事故によって、多くの日本人が被曝しているにもかかわらず、誰も暴動を起こすわけでもなく、うなだれて日々の生活にいそしんでいる。それはまさしく、吉本隆明が記述した敗戦の光景と同じではなかろうか。「戦争で疲労し、うちのめされた日本の大衆は、支配者の敗戦を眼のあたりにし、食うに食物がなく、家がなくなった状態で、何をするだろうか?暴動によって支配層をうちのめして、みずからの力で立つだろうか?」(『丸山真男論』)という吉本の期待を裏切ったように、今回もまた、日本人は怒りを爆発させることなく、じっと耐えている。それを吉本は「絶望的な大衆のイメージ」と位置づけたが、本当にそれでいいのだろうか。福島県に限っても、浜通りや中通りでは子供たちが次々と逃げ出している。第一次産業がほぼ壊滅状態であり、100キロ以上はなれた会津であっても、今後どうなるか戦々恐々である。今日、たまたま電話で話した福島市の友人は、コメは熊本産のを購入する予定だという。農産物は福島産だけは絶対食べない、とも公言していた。白血病などの病気になってからでは遅いのに、どうして立ち上がらないのだろうか。怒りの拳を振り上げなければ、権力者の悪政を許すことになり、とばっちりを受けるのは、いつも私たち国民なのである。
会津地方は米作地帯であるだけに、コメへの放射能の影響が深刻な問題になっている。福島県はコメの放射線汚染の検査を実施することにしているが、すでに静岡県などでは県内の農家から採取したコメのサンプルを検査機関に送っており、近いうちにその結果が公表される予定だ。またいつもの通りで、民主党政権がおたおたしているうちに、各自治体がそれぞれに取り組んでいるのだ。早場米などは収穫を迎えようとしている。のんびり構えているわけにはいかないのだ。とくに、福島第一原発に近い福島県の農産物については、消費者の不安感が高まっている。早川由紀夫群馬大学教授などは、公然とブログで「福島県産の農産物は一生口にしない」とまで書いている。農産物のなかでもコメは、土壌にある放射性物質の10パーセントを吸収するといわれる。キャベツやじゃがいもとは比較にならないほど、土壌からの吸収率が高いのである。福島県内では、南会津以外のコメであれば、放射性セシウムが検出されるのはほぼ明らかであり、風評被害とかいう言葉ではもはや対応できなくなっている。しかも、コメというのは日本人の主食であり、健康への影響も大きいものがある。無理をしてコメを出荷させることがよいのかどうか、真剣に考える必要がある。もはや実害なわけだから、福島県の米作農家は国や東京電力を訴えた方が得策ではなかろうか。