吉本隆明の発言は、常に一貫しており、その点では評価できる。去る8月5日付日経新聞に載ったインタビュー記事について、自称サヨクから攻撃されているようだが、マルクス主義を拠り所とすれば、吉本に分があるのではなかろうか。近代主義の一亜流であるマルクス主義は、未来に関してはなはだしく楽観的だ。歴史の発展の法則を云々するのも、そのせいだ。それと比べると、どことなくペシミストなのが保守派である。吉本が「発達してしまった科学を後戻りさせるという選択はあり得ない。それは人類をやめろ、というのと同じです」と述べたために、ネット上でもブーイングが起きたようだが、その大半はサヨク側の人間で、裏切られた気がしたからだろう。しかし、吉本は以前からそう主張していたのであり、今さら驚くほどのことではない。もっとも子供たちを巻き込んだ原発事故の悲劇について、目をふさいでいるわけではない。完璧な防禦装置の必要性を訴えてはいるからだ。今回、私たちに吉本が教えてくれたのは、サヨクの反原発運動の限界である。世界中を見渡しても、サヨクが政権を担っている国々では、かえって原発を推進している。時計の針を逆に回すというのは、本来であれば、サヨクよりも保守派の主張なのである。私からすれば、吉本隆明は理論的に粉砕すべき巨人であるが、原発に関して一歩も動じないあたりは、敵ながら天晴れだ。
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