わずか一刻で亀山城を攻め落として中川清秀は凱旋してきた
敵の武田元明は、京極高次に従って明智光秀の謀反に加担、安土城、長浜城を攻めたあと光秀に従って亀山城に来た
そこで明智光秀が福知山に行くときに京極高次と共に亀山城の守備を任された
それは光秀の時間稼ぎの盾でしかなかった、そもそも光秀がおいて行った兵数は300しかなく、秀吉の大軍にはひとたまりもない
しかも今度は、京極高次が、妹で武田元明の妻の竜子を伴って柴田勝家を頼って落ちていくからと元明に城の守備を任せて50騎引き連れて行ってしまった
中川清秀らは元明が逃げ出して間もなく城攻めにかかった、わずか250では守れるわけもなく1時間足らずで降伏した
しかし大将の中川が処置に迷っているうちに福島正則が「秀吉様の長浜城を襲ったくせに命乞いもあるものか」と武田元明を鑓で一突き殺してしまった
誰も暴れ者で有名な正則を止めることも叱ることもできず茫然としていたが
加藤清正が「さすが正則じゃが、わしがやろうと思ったが先を越されたがや」と褒めた
そして京極高次が越前目指して逃げ出して間もないことを知り、百騎ほどで後を追った、そして追いついて戦闘が始まった
しかし高次の家来の奮戦で取り逃がしてしまった、ところが高次を討ち取る以上の手柄を立てた
それは武田元明の妻、竜子が逃げ遅れていたのを捕らえたのだ、三人の子を産んだ竜子はまだ20歳をいくつか過ぎたばかり、名門京極家の娘だけにその品の良い美貌は貴族好みの秀吉に最高の贈り物だ
案の定、秀吉は満面の笑みで手柄を立てた中川清秀に亀山城主の地位を与えた、そして竜子を本妻のおねに内緒で自分の側室にしてしまった
そして事後報告で、織田信孝に中川清秀に亀山城を与えたことを話した
「主に断りなく拙者独断でこのようなことをしました、どうか処罰をお与えください。
中川のような剛の武士が城もなく彷徨っているのは誠に惜しいと日頃より思っておりましたところ、此度は亀山城を激戦で落とし武田元明の首を取る手柄を挙げました
この城を信孝様からの褒美だと申して与えましたが、感激に打ち震え生涯信孝様にお仕えすると申しました
清秀のような実直な武士は使えば必ず信孝様のお役に立つと思ってしたことです、どうか秀吉の首と入れ替えて清秀をお使い下されませ」
下手に出られて信孝は悪い気がしない、自分の兵が尾張から来るまでは2000しか直属がいない、秀吉は15000に加えて近江の家臣も続々とやってきた
ここで秀吉の機嫌を損ねては損だと思った
「いや秀吉、あっぱれなる采配じゃ、その方を罰するなどとんでもない感謝するばかりじゃ、まだ光秀も生きておる励んでくれ!」
秀吉の思ったとおりの展開になった
また中川は中川で自分の手柄を信孝に話して亀山城の主として認めさせてくれた秀吉に感激した
秀吉の軍師、黒田官兵衛が秀吉に小声で言った
「信孝様を亀山にやるのではなかったのでは?」
「官兵衛よ、信孝様があんな田舎の小城に行くというわけなどないであろう、なにゆえあのようなことを申したのだ」
「信孝様は随分長いこと大坂の仮住まいでお疲れかと思いました故申したまでで他意はございませぬ」
「ではこの先は?」
「まずは殿が手柄を立てぬ事にはどうにもなりませぬ、武田を討ち取りましたが所詮は光秀配下の小身、さほどの手柄にはなりませぬ
中川を信頼させて味方につけるのには役立ちましたがな。 やはり一番の大手柄は明智を討ち取ることでございます
しかし討ち取っても殿は信孝様の手柄とするのがよろしかろうと、あくまでも信孝様の自尊心を煽って、信忠様に対抗させる
これでござるよ、しかも信孝様は殿が立てた手柄だと知っている、それで殿の言うことはたいがいお認めになるはず
信忠様は安土造営された仮御殿におられますが、我らが播磨で光秀を討ち取った後、岐阜でご一門と諸将が揃って今後の織田家の運営を話し合うことになりましょう
光秀討伐には信孝様にも形だけの御出陣をしていただきます
光秀を討てば信孝様は、信忠様と五分のお立場で会議の主導権を争うことになりましょう
信雄様は、信忠様に脅されて伊勢から出ることも出来ないとか、こちらの側に引き込んでおけば少しは何かの足しになるかと」
「それだけでは足りまい、もう一手必要だな」
「殿、越前の柴田勝家様は、信忠様の重要な腹心となりましょう、これは侮れませぬ、なるべく遠ざけておかねばなりません」
「官兵衛!それでおぬしはわざと京極を柴田の元に走らせたのであろう」
「まさか」
「とぼけるな官兵衛、竜子をわしへの供え物とする、さらに柴田の懐に飛び込んで時を待てなどと申して京極高次を逃がしたのであろう
安土を攻めた敵を柴田が匿えば信忠様にとって敵を匿った者となる・・・柴田の汚点よ、だが高次を懐に入れなければならぬ理由が柴田にはある、
あのじじいめ!年甲斐も無くお市様に恋慕しておる、笑止な事よ、それで道を誤るのよ、ははは」
「さようでござる、高次と竜子殿と市様は浅井家で姉弟のように育ちましたからなあ、柴田様としては恩を売っておきたいところゆえに匿って当然」
「見よ!、吐いてしもうたぞ古狸が」