「やあ、こんにちは。」
私が道を歩いていると、見知らぬおじさんに声をかけられます。
「あなた○○町のJunさんの所のお子さんでしょう。」
ここは、こー君の家の近くの通りです。
ははぁん、と私。
「こーさんですか。」
と尋ねます。
いえ違いますという返事なので、なんだ、違うのかと思います。
てっきり、父の知り合いのこーさんという人だと思っていました。
人違いしてすみません。と、私は謝ります。
違うんですけど、ちょっと話を聞いて興味が出たので、とその人は何だかニコニコしています。
「それで、こーさんの所の息子さんをどう思います、正直なところ。」
と、問いかけられます。
聞かれて初めて、私は真面目に考えてみます。
「朗らかな人ですよ、明るい人。」
と、私は答えます。
うん、とそのおじさんはにこやかに頷くと、家の子もそんな事を言っていたと微笑ましそうです。
それで、その、こー君の事は好きですか?
と言われると、とても単刀直入な質問でしたから、
え、っと私は絶句します。
まさか、嫌いな訳は無いし、かといって大っぴらに好きと言う訳にもいかないし、
見ず知らずの人の質問に大いに困ってしまいます。
その時の私には、好き嫌いの前に、何と答えてよいのかが分かりませんでした。
現在進行形のクラスメートのことです。言ったその一言でパッシング、
もしかすると、また1年の時のように、明日からの暗い日々をもたらすかもしれないのです。
そうかといって、何時までも黙っている訳にもいかないしと、
私は何とか言葉をひねり出そうと焦るのですが、出ません。
こんな時は冷静に、冷静にとほっと息をつきます。
「では、嫌いですか?」
と、聞かれると、いいえ!と、即答!
これは確かにそうなので、自分の答えを反芻するまでもなくそうなのでした。
本当に困ってしまいます。
かといって、好きだとも答えられないのでした。
嫌いではないけれど、好きかと聞かれるとやっぱり困ります。
嫌いかと聞かれて直ぐにいいえと答えたのですから、嫌いであるはずがない、それは確かです。
でも、一寸、好きというにはまだ早すぎていました。それで、率直に正直に言います。
最近話し始めたところなので、…分かりません。自分でも。
おじさんにそこまで言って、
そうか、あの言葉です、迷った時に使う言葉を思い出します。久しく忘れていました。
「好きかどうか、考えてみます。」
ははぁん、おじさんも面白そうに納得して漸く私は解放されて帰宅しました。
それにしても、いろんな人に会う通りだなと、あの通りをあまり通らない方がよいだろうと考えます。
答えられない質問を、またされたら困りますからね。