それから2日ほどして、遊んでいると又おばさんに呼ばれます。
「やっぱりお友達に成りたいんだって。」
とおばさんが言うので、次にLさんに会った時にまた自己紹介のやり直しをしました。
今度はちゃんとLさんも挨拶してくれて、名前も教えてもらいました。
私が如何して最初の時に何も言わなかったのかと聞くと、
初めて会う人と話をしてはいけないと家の人に言われたのだそうでした。
そうなんだ、そんな子もいるのだなと思いました。
私は園でにっこり笑ってこんにちは、初めましてと自己紹介するのだと教わっていましたから、
初対面では皆そうだと思っていたのです。
園の違いもありましたが、他にもお家の職業の違いがありました。
そうです。Lさんはとても硬いお家のお子さんだったのです。
その後遊びに行ってみると、宗教の絵本が一杯ありました。
所謂、道徳教育用に置いてあったようです。本の内容はお釈迦様の教えです。
4コマ漫画から始まって、ストーリー漫画へと絵本は続き、
私はよくLさんの家に通ってこれらを読みふけった物です。
普通の物語の本に物足りなさを感じていた頃だったので、こういう倫理を説く本は、
私の場合ですが、人生の指針としての倫理感や人生観を得るのに非常にぴったりと来ました。
「こんな本が読みたかったの。」
Lさんのお母さんにつまらない本でしょうと言われて、いいえと私はこう答えたものです。
どう生きたらよいか、そんな事を教えてくれる本が読みたいと思っていたところだったからと、
これは嘘ではなく、本当にこの頃の私はそう感じていました。
今まで読んでいた童話や昔話にも教訓はありましたが、大きな倫理、細かい倫理、人としてどう生きるか、
そんな事が知りたい年齢だったのですね、私の希望にまさにピッタリの本だった訳です。
以降このシリーズの本に、私はすっかりはまり込んだと言ってよいでしょう。
遊びに行くとその本のシリーズを読み継いで、夢中で読んでいたのでとうとうおばさんから、
「その本通りに生きると人は生きていけなくなるから。」
と、諭されて本は全て目の届かない所へ片付けられてしまいました。
私にすると、とても残念でしたが、後日、同じシリーズ本がある場所に行きあい、
私はまたそこで読んでいない本を読み漁る事が出来ました。そこも又途中で途切れてしまいましたが、
結構はまり込んで読んだ宗教の子供向けの本でした。
このような、私の人生観に大きな影響を与えた本に最初に出会ったのがLさんのお家でした。
また、遊びに行くと、夕飯時間まで居ることが多く、一緒に夕飯をとお呼ばれする事もあり、
そんな時は御前にずらっと料理が並び、私はもの凄く目を見張った物でした。
1テーブルの座卓なのですが、テーブルの上に鉢が何鉢も並べられ、
好みの料理を思い思いに取って食べられるようになっていました。
家の一汁一菜とは大違いの豪華な食事に、最初の時には畏まってしまい、
他人の経費と思うと、勿体なくておかずを口に運ぶ事が出来なった物です。
おかげで好き嫌いの好みを聞かれてしまいました。
嫌いな食べ物ばかりで食べられなかったのだろう、
大人の料理ばかりで子供向けじゃなかったのだろうと、
Lさんの家族に食事の間中取り沙汰されていました。
子供が遠慮しているとは誰も思われなかったようです。
私にすると、結構針の筵に居た訳です。
思いがけず助け船、迎えに来た母の姿にほっと胸をなでおろすと、
漸く腰を上げて帰宅することが出来ました。
豪華だったわ、凄いご馳走だったわ、
帰り道でも家に帰っても、私は夢うつつでした。
Lさん宅の夕飯のご馳走が目の前をちらついて、上の空でこの言葉を繰り返していたのを覚えています。