Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

並木道、5

2016-11-10 18:21:26 | 日記

 5月は修学旅行の季節です。

私達は関西の方へ出かけました。私は初めて新幹線に乗りました。

嬉しくてドキドキしたものです。白い光の超特急ですからね。

車内で同行のカメラマンの人が写真を撮っていましたから、私も記念に撮ってもらいたいなと思いました。

卒業アルバムに載せるという事で、写真に写りたい希望者は沢山いました。

そのせいか車内撮影での私の希望は叶いませんでしたが、

新幹線の車内で写真を撮ると変に写るから、写らない方がよかったよと囁かれて、

半信半疑、これでよかったのかもとも思いました。

それで、,友人と見る車窓からの光景の方に心を奪われていました。

私が関西へ行くのは大阪万博以来初めての事でした。

 2泊3日程の行程でしたがそれなりに思い出はあります。

要所要所の観光名所巡りはもちろん、カメラ片手に各地で沢山の写真撮影をしたのは初めてでした。

とうとうフイルムが終わり、交換する事になりました。

一応交換の仕方は習っていたのですが、小学校の5年生の時の事です。

4年も経つとすっかり忘れていて、どうやってカメラを開けるのか分からなくなってしまいました。

 友人も先生に見てもらったらと勧めるので、担任の先生を探します。

3学年の担任は男の先生でしたから、カメラの扱いも慣れておられるだろうと心丈夫でした。

漸く姿を見つけて事情を話し、カメラを見てもらいます。

 流石です、ぱかっとカメラが開きました。

フイルムの巻取りだけは私にも分かり、もう巻き取ってありましたから、今までのフイルムをもらいます。

私は新しいフイルムを先生に手渡します。 

先生はフイルムを中の突起に合わせてはめ込み、あれこれと操作されるのですが、

何故か新しいフイルムは巻き取られて行きません。

上手くセットできない内に集合の掛け声がかかり、如何しようと思いましたが、

目の前に担任の先生がおられるので、集合場所に遅れてもこの事情が分かり大丈夫だと思います。

何しろ、点呼を取るはずの先生がまだ集合場所にいないという事が一目瞭然です。

集合時間から少し過ぎたので、私と友人、先生だけとなりました。

周りに同級生の生徒はもちろん他の先生もいなくなってしまいました。

 「いやあ、君たち、先生が待っておられるから行きなさい。」

と言われ、いえ、大丈夫ですと言いながら、私達は一寸怪訝には思います。

 知らないカメラだと勝手が違うから分からない、他の先生に見てもらうよと言われます。

それで、クラスと名前は?と尋ねられて

私達は絶句です。

「それで、君は何組の何という名前かね。

黙っていてもしょうがないので、私は正直にぽそりと

「○組のJunです。」

と、答えます。

 それまではカメラと私達に交互に視線を移しておられた先生でしたが、

改めて確りと私の顔を見て、

いやぁ、○組と言えば私のクラスだね、と仰います。

いやぁ、はは…君、君は大人しいから、覚えていなかったよ。

そう言われて、

…それで私の所へカメラを持ってきたのか、と、そうか、と何だか納得しておられました。

 その時、

あっ、と小さく声に出して、Fさんは身を翻すと私とJさんを残して先に行ってしまいました。

私はどうしたのかなと一瞬思いましたが、Jさんと2人で先生の前にいました。

 それなら後からカメラも持って行きやすいと先生

とりあえずもう行きなさいと言われ、私達は急いで集合場所へ向かいます。

私達はバタバタと駆け足です。

先生はその場に残られました。

 私達が集合場所についてみると、クラスの皆は担任の先生が遅いと文句を言っていました。

他の皆が、先生まだ来ないんだよ、見つからなくてよかったねと私達に言ってくれました。

事情が分かっている私達は、もう少ししたら来られると思うよと、したり顔をしていました。

まだ5分くらいかかるかもね。

そういうと皆、えーっ、何で、どうして分かるの?

このクラスだけ…という感じで、

何分待ったと思っているんだ、等々、男子の苛ついた声が上がっていました。

私達、いえ、私のせい、先生のせいかな?なんて、言ったかもしれません。

 

 

 

 

 


並木道、4

2016-11-10 17:02:24 | 日記

 これなんだけど、…やっぱり返すって、

2日程して、Jさんが丸めた画用紙を持って後ろの入り口から入って来ました。

ああ、私の絵なんだなと思います。

1度上げた物を返されるというのはやはり嫌なものです。

でも、顔に出さずにそうと画用紙の筒を受け取って、少し古びた感じになった白い紙の裏を眺めながら、

くるくると画用紙を広げてみます。

「その絵なんだけど、Junの絵?」

Jさんにそう言われて、えっ、と描かれた絵を見てみます。

私の絵だと思うけど、と、裏の署名を確かめるとちゃんとJunと書いてあります。

ほらね、私の名前が書いてあるし、と表に返して画をよく眺めてみます。

パッと見て、ちょっと違うような気もします。

あれっ、

自分でも不安になり本当に私の物かなと半信半疑になりました。

 もう1度裏の名前を見てみます。筆跡や書かれている位置は確かに見覚えのあるものでした。

筆跡はそうよ、この位置でこの書体、この形、見覚えのある私の字よ。と言って、

再び表に返すと絵の方を確かめます。

 漫然と絵を眺めてみます、違うかな?私の絵ではないのかな?

疑心暗鬼に陥りそうでそんな事を思いながら、何処をどう確認したらよいかと思案に暮れます。

きょろきょろ目を動かして画面の視点の定め所に困ってしまいました。

 ほらね、本当にJunの絵?これは違うんじゃなかっていうのよ。

繰り返し傍らのJさんに言われて、私は小首を傾げながら如何絵を見たものかと全く考え込んでしまいました。

 ほんとにその絵Junが描いたの?

えー

彼女にそう言われて、私の絵じゃないと思うの?如何かな、違う絵なのかな?

えーっと、と、まずこの木の幹を描いて、と、…

描いた順番に絵筆の軌跡を追って行きます。

ここで色がはみ出しそうになり注意して筆を動かしたんだった。

ここで色を工夫して、木の葉の所でこう塗って、この色を気に入って重ねずに残して、…等々

自分のタッチや筆運び、留意点を確認していきます。

どの個所も自分の記憶とぴったり一致していました。

 「私の絵よ、間違いないわ。」

私は確信を持ってそう答えると、もう1度絵の全体像を眺めてみます。

全体的に眺めると、やはり何となく少し違うような気もしてくるのですが、

細かい記憶にある要所要所は確かにぴったり一致しています。

やはり間違いなく私の絵でした。

 「Junにこんな絵描けないんじゃないかっていう人がいて…」

と、バツの悪そうな笑顔でJさんが言います。

私はえーっとしかめっ面をしてJさんを見返してしまいました。

 そんな事を言われるなんて、というか、疑われてたのは私の方だったの?

絵がすり替えられたのかと言われているんだと思っていた。と言うと、

絵も、最初の印象と違うっていう話があって、とJさん。

 何だか嫌な感じです。

絵は確かに私の描いた物よ、それは確か。

私がこの絵を描いたかどうかっていうなら、Jさんずっーと横で描いていたから知っているじゃない。

私この絵を描いていたでしょ。

そうなんだけど、覚えがなくて、というJさんに、

2人共トイレだってほとんど行かずに描いていたし、

時々どこまで描いた?って、お互いに見合っていたじゃないの。

最後に描き上げた時にも、出来上がりって、私こうやって見せたでしょう。

と、丁度公園で完成の絵を見せた時と同じような位置関係に、教室の2人は立っていましたから、

同じような手元の角度で彼女に絵を見せました。

あっ、とJさんは驚いたようにハッとすると、

「Junの絵!」

と、確信したように真顔になり、Junの絵だわこれと確かにそうだと頷いてくれました。

 そうと分かればという風に、かしてねと私の手から絵を受け取ると、くるくると丸めて、

画用紙は再び教室の後ろの戸口からJさんと共に運び出されて行きました。

 間違いなく私自身が描いた私の絵だという事が相当大切な事だったようです。

でも、それだけ入念に肝入りしてもらった私の絵ですが、

本当に私にこんな絵が描けるのか、なんて誰が言ったのか知りませんが、

その言葉は相当私の癇に障りました。

誰?そんな事言った唐変木は、私は内心ぷりぷりでした。

 

 


並木道、3

2016-11-10 00:36:55 | 日記

 結局、絵の評価はそのままとなって、もう少し掛け合ってみるというせー君の申し出に、

私の方はもういいのだと辞退する事にしました。

 「よく見ると、絵の具を重ね過ぎたようで、暗く重たい感じがする絵でもあるから。」

私はそんなところが受賞できなかった理由かもしれないと言います。

写生大会は春でしたから、重い色の葉は似つかわしくない季節です。

燃え立つ若葉の明るい色調にすべきだったかもしれません。私も年を取りました。

などと、中3で言っていては仕様がありません。

中学校での最終学年です、やはり年齢を感じる区切りの頃でもありました。

 急いで描いて、30分以上も時間があまり、ベタベタ余計に筆を加えたのが失敗の下と苦笑いして、

そんな風に君の方で言うのならと、せー君も諦めてくれたようでした。

 その後、私の絵は気に入った人が他にもいたらしく、欲しいという事でした。

Jさんから申し出があり、彼女経由で誰かにもらわれて行きました。

描いた私はもらってくれないんだ、とJさんと冗談を言って笑いながら、

結局誰が欲しいと言ったのか名前を言われず、しつこくも聞かずに終わってしまいました。

私の描いた絵を気に入ってくれる人がいたというのが、1番のご褒美だった気がします。

 これが絵についての、私にとってのとても嬉しい思い出となっているものです。