今回は前回のたー君とチャンバラごっこをしていた男の子について書こうと思います。
この人はもう既に出てきた人です。聞くとびっくりするかもしれません。
2人でおふざけをしていたのは、クラス委員のせー君でした。
遠目に見ていると、幼く子供っぽい遊びをしていると見えたのは、
何と、近くで見るとクラスで1、2の秀才の2人組だったのです。
この2人は如何もライバル関係にあったようでした。
少なくとも、学年の初めはそうでした。
たー君は1学年の時のクラス委員でした。が、3年でまた同じクラスになったのだ、と私が思っていると、
先生に指名されクラス委員になったのはせー君でした。
私はおやっと思いました。
ここでたー君を凌ぐ秀才の登場にへーええと思いました。
1年時のたー君の秀才ぶりはニギニギしかったですからね、当然私は3学年のクラス委員はたー君と思っていました。
行き成りの見慣れないせー君という秀才の登場に、新鮮な驚きを持ったわけです。
それで、興味深く2人を見ていると、本当にこの2人は仲が悪そうでした。
並んで話をしていたのを見た事がありません。
どちらかというと、牽制し合っていた感じでした。
君とは気が合わないから寄って来ないでと、言っていた気がします。
僕もそうと、振り返りもしないで返事を返していた気がします。
クラスの皆は気にも留めていないようで、囃子立てる声もしませんでした。
私は後ろの席だったので、この2人がよく観察できました。
以下、私の観察です。
観察1学期。当初
2人とも一定の距離を置いて離れている。ある程度の距離には踏み込まないようにしているらしい。
教室を半分に分けて前よりの廊下側が、たー君のテリトリーらしい。
教室を半分に分けて、窓側の前後が確り、せー君のテリトリーらしい。
こう色分けしても、今から思うとせー君が優勢だったようですね。
私の席は後ろの真ん中、廊下側寄りだったので、確り中立地帯だった訳です。
凄い!今気が付きました。教室の席順にもこんな権力争いが反映されていたなんて、知りませんでした。
(私の思い過ごしです。笑い)
その後、私は真ん中の前側、廊下寄りの席になったので、後ろに下がった2人が何をしていたか迄は分かりません。
時折先生の、せー、またはたー、止めろ
という声が前から
聞こえていました。
観察2学期
後ろの席になったので、また2人の姿がよく分かります。
男子の塊が2分されています。黒山の一方はせー君、黒山の一方はたー君です。
何をしているのかは不明。(この時期は前半夏服
なので、そう黒々とはしていませんでした。
衣替えをすると、如何にも黒山の人だかりです。)
一番前に少数派の3人の集いが居ました。
暇な時、私はこの男子の山の塊を見て、中心では何をしているのだろうと不思議に思っていました。
ゲームかな?難問を解いているのかな?そんな風に想像して青少年の群れる巣を見ていました。
この黒い塊に変化が起きたのはやはり2学期だったと思います。
私は、塊が同時に出来なくなった事に気付きました。
一方に固まると、せー君やたー君は1人になって外れているのです。
1人になった方は何だか寂しそうに固まっている男子を眺めています。
私にすると可愛そうなくらいでした。
その内、気が付くと塊の外側、一番外の周りをうろうろと、覗き込む隙間を探す人影が1人、
隙間を見つけてこっそり中を覗き込んでいるのはせー君、
または同じ動きをして最終的に隙間から中を覗き込んでいる、たー君の姿が見られるようになりました。
皆夢中で中を覗き込んでいるので、
外でせー君やたー君がうろついている事など気付いていないようでした。
中心なら尚更気付かないだろうな、と、私はこの2人の密やかな動きに苦笑して眺めていました。
如何してもお互いに相手の事が気になって仕様が無かったのでしょうね。
しかも、行動するパターンが2人お互いに全く同じ動きです。
こう見てくると、当初ライバルと思っていた2人が、
本当は似た者同士なのではないかと私には思えてきました。
『似た者同士は気が合わない。』
それで、気が合わないのだなぁと私は1人合点していました。
そして、また変化が起きました。
ある日の教室で、せー君とたー君が2人で並んで話をしていました。
周りには誰もいない2人だけで話をしている姿を私は初めて見ました。
私はやはりびっくりしましたね。驚きました。
お互いにあんなに毛嫌いしていた感じだったのに、どうしたのでしょう。
思わずまじまじと2人の姿を眺めて見たものです。
絶句でした。
その後、それを機に2人はよくにこやかに話をしているようになりました。
黒い大きな塊は解散し2人の周りにはあまり形成されなくなりました。
少数の集団、3、4人が寄って、時折彼等のどちらかに問題を訊いている姿は目にしました。
人垣が薄くなってみると、やはり難しい問題を2人に訊いていたのだなと分かったものです。
さて、せー君の話でしたね、何を書こうと思っていたのか忘れていました。
2学期後半から、学校祭過ぎ頃からでしょうか、私の席の周りにせー君がよく座っているようになりました。
席順が私の横や斜め前
になり、並んでいる事が多かったのです。
こう周りでよく姿を見ると、何だかこの雰囲気、席の位置取りですが、過去の誰かと似ている事に気付きました。
ましてやせー君はクラス委員です。1学期の絵の件もありました。
クラス委員然として、クラスメートの事を考えてくれた、そんな姿が過去の誰かとリンクします。
『あまり親しくならないようにしよう。気を付けないと。』
と、私は思います。
公的場面迄の付き合いでないと、個人的に知り合うとあまり良い事は無いように思います。
まさか商店のお金持ちの坊ちゃんではないと思いましたが、
クラス委員である事や、私の周りの席の取り方が本当に昔とよく似ていました。
席順の回り具合が、過去に行われたそれと全く同じ動きと言ってよいくらいでした。
この事に気付くと私は嫌な予感がしました。
こんな偶然あるはずないと思うと、誰かが陰で糸を引いているように思いました。
1学期からの問題集盗難の嫌がらせの件もあります。
せー君の親切な態度は態度として、小学校時代を知っている誰がこんな雰囲気を作り出しているのかと怪しまれます。
若しせー君と親しくなったとして、その後誰かと親しくしてくれ
などと言われた日には
、目も当てられません
。
そんな予想が頭にちらついて、ここはしっかりガードしなければ、
と、失礼にならない程度にせー君には余所余所しくしていました。
幸い、せー君はそれ以上私には構ってきませんでした。
そんなある3学期の日の事です。
午後の授業中の事でした。私は机の上の本に目を落としていました。
すると、突然先生の声が聞こえます。
「おい、たー、いい加減に目を覚ませよ!」
その声にたー君を見ると、多分先生の言う通り寝ていたのでしょう、おずおずと頭をもたげているような雰囲気でした。
続いてまた先生が、机の上のよだれを拭いておけよと言われるので、皆爆笑です。
私も大笑いしてしまいました。
すると、今まで黙っていたせー君が
「あいつあんなになるまで昨夜勉強したんだ。僕も頑張らなくっちゃ!」
と言いました。
あーなるほど、私はせー君の言葉に笑いを忘れ、通り一遍の見方しか出来なくて笑った自分を愚かしく感じました。
そして、それとなくたー君を庇ったせー君の態度に感服しました。
私って駄目だな、表面しか見ていないんだ、確かにあのたー君が授業中に居眠りするなんて事あり得ないものね。
何故そうしたかという理由にまで気が回らないなんて、何時までも未熟で駄目だなと反省しました。
もう中学3年生なんだから、物事の裏まで気付くようじゃないとだめね。
そんな点、きちんと見通して、たー君を庇護したせー君の態度は立派だったと感動しました。
ここまで、せー君のお話でした。せー君も故人になりました。ご冥福をお祈りいたします。
共に安らかにと願っています。