眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

QUEEN

2012-03-06 23:03:52 | 夢追い
 明かりをつけると部屋の真ん中に見知らぬ暖房器具が置いてある。どうして隅ではなく真ん中に位置しているのか、そしてそんなものを自分で買った覚えはない。それでも堂々とした存在は、自分の記憶を幾度となくたどり直すことを求めずにはいられないのだ。果たしてそれは僕のものだったか、あるいは誰かに借りたり、預かったりしたものだったか。見慣れない褐色をまとって部屋の真ん中に居座るそれはチェンバロ、トロンボーンそのような名前のついた何か特別な形をした暖房器具だった。それを部屋の真ん中に置いて今まさに必要とするならば、今は冬でなければならない。今は冬、あるいは冬に向かう途中、または冬の終わりかけ……。冬の匂いや人恋しさを探しかけるがそれは気を失うほどとても遠く、今は夏のちょうど真ん中辺りに過ぎなかった。だとすれば、どうしてそれは今ここに現れたのか。自分のものともわからないそれに、手を触れるべきか手を触れてもよいのかどうか、けれども今こうして自分の部屋の中にある以上それはこの手で触れないわけにはならない厄介なものだった。慎重に両手を差し出して抱え込む。両手両腕だけではまだ抱え切れず、腰を落として脚の力を借りなければならない。顎を近づけ全身と一体となって引きずるようにして部屋の隅っこに片付けた。誰のものかわからないそれを容易く傷つけることはできなかった。シャンプーする間、長く目を閉じていたのでそれは消えてくれたかもしれないと思ったが、部屋の隅っこに留まっていた。それより長く閉じた眠りから覚めた朝になっても、それは消えず、幻でないことを決定付けた。そして、それは日々繰り返されるようになった。家に帰り、明かりをつけると部屋の真ん中に見知らぬ暖房器具が置いてある。誰が忘れていったのか。人の部屋の真ん中に、忘れ物をする方法を僕は知らなかった。毎日のようにそれは繰り返され、時には日を置きながら、また繰り返された。恐ろしいのは、今が夏だということ。

 体育館の真ん中でコーチは大きく肩を開き、自分は185センチはあると言った。腕を広げて、腰を落として身体の周辺に自身の領地を作った。
「大切なのは体の大きさでなく使い方の方だ」笛が鳴り、時計が動き始めると女が僕のボールを奪いに駆けてきた。両足の間で転がして、その軌道が怪しくなると足の裏で止めた。少しタッチが大きくなったところで、女は猛然と突っ込んでくるので慌てて足裏で止めてそのまま引きずるように後ずさりする。もう後がないというところで、笛が鳴って救われた。攻守が切り替わると彼女はいきなりシュートを打ってきた。攻めるは守るなりというわけだ。至近距離から放たれたシュートは僕のお腹に当たり、僕はその場で眠りに落ちた。

 目覚めて、PCを起動するとデスクトップは様変わりしており、突然QUEENが大音量で流れ始めるが、ボリュームアイコンはどこにも見当たらない。歪なキャラクターが妖しい光を放ちながら杖を振っているので、まずはそれを消去することにする。肉体が消えても頭脳がしぶとく抵抗し、それを消すには更に時間がかかった。消えたはずの杖が瞬いたり、光の粒がその輪郭を追いかけていたりしてもやもやとする。部屋の隅っこには繰り返し片付けた暖房器具がまとめて置いてあったが、その数は昨日よりも随分と増えているような気がした。疑わしいのは昨日の記憶だ。ようやく、2体を消去して、3体目を消そうとすると突然今までにないメッセージが現れた。

「彼は多大な功績を上げて信頼を集める英雄のため消せません。
それでも消しますか?」
 はい。を選ぶ。消去失敗。
「消せませんでした」

 何度トライしても消せず、再起動してやり直すことにする。明滅とともに黒く穏やかな時が訪れたものの、すぐに彼らは戻ってきた。再び明るみに出たデスクトップでは、消したはずのキャラクターも堂々と復活しており、更に装備を高めて完全な支配力を持ち得たように見えた。ここはもはや他人の庭だ。荘厳な演奏が立ち上がる、それは部屋の奥の方から響いてくるようでもあり、その時、誰かがドアをノックする音がしたが僕はそれに答えることができなかった。ノックの音は、それでも続いた。

「私……、……、私よ」

 名を呼ばれたような気がする。ドアに跳ね返って零れ落ちた名に引っ張られて体が動き出す。その声は、きっと僕のことをよく知っている人に違いない。僕は、確信を持ってドアを開けた。誰もいない。けれども、ドアから1メートル程離れた場所に置かれた小包みを見つけた。見覚えのある字。母が来たのだ。


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広場

2012-03-06 01:18:40 | 忘れものがかり
広場の真ん中で
熱心にオブジェを見つめる
人を見ていた

何か面白いことがあるのかもしれない
そう思っていると向こうからも人がやってきて
やはり同じ場所に向かって視線を投げている

その何かに憧れながら

見つめる人の
横顔を見ていた

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