小型の飛行物体が大挙して押し寄せて僕だけの空を侵してしまう。絶対に安全だと思っていた、けれども薄々は気になっていた、必勝パターンの崩壊とピンチの到来……。この先どうなってしまうのだろう。バビルは負けてしまうのだろうか。
「バビルとデビルは戦うんでしょ?」
「違う」
姉は自信満々に言い切った。
「……いいよね。……知ってる?」
バビルの弟を演じていたという役者の名前を、僕は知らなかった。
「見せたーい」
見ればわかると姉は言った。
徐々に音は近づいてくる。こちらの方に向かって近づいてくる。テレビの音も、鳥の私語も、誰かの会話もすっかり聞こえなくなってしまう。降りてくるのか、落ちてくるのか、こちらの方に向かって。そうではなく、この場所を目掛けて窓の外が巨大な影によって黒く包まれた。不時着し開かれた扉からは、人参、椎茸、豆腐が続いて降りてきた。
町外れの廃墟に身を潜めていたデビルを捕まえようとデジルは近寄ったが、デビルは容易に従わなかった。デビルは痩せ細っていたが剣を抜いて抵抗した。仕方なく、デジルも剣を抜いて彼を追った。剣を交える内に、デビルの剣は分裂して四つに増えた。追っているはずがいつしか追われている方はデジルの方だった。「本当に俺を捕らえられると思ったのか?」デビルは凶暴に伸びた剣を振りながらデジルに迫る。深い傷を負いながら、もはや逃げることが精一杯だったが、ついに追い詰められてしまう。八つに増えたデビルの剣にデジルの命運も尽きてしまった。デジルが討たれたという一報は瞬く間に街を駆け抜けた。みんな、追い詰められたデビルのことを甘く見ていたのだ。
「攻めてくるぞ!」
そんな声が、あちらこちらで飛び交っていた。
玄関先、傘立ての中には溢れんばかりの剣が納まっている。逸る気持ちの中で僕は早く本物の剣を手にしたかった。
「どれが本物だ?」レプリカか?
問い詰めたが玄関先の女は何も答えずに、僕は勘を頼りにその中の一本を抜き取った。艶だけを見れば、それは本物の条件を満たしているように思われ、僕は剣を空に向かって突き刺した。けれども、次の瞬間、その先端は打ちひしがれたチューリップのように、力なく萎れてしまった。こんばんは。
台所では風呂に入ったのは誰だクイズが催されていた。
「***!」
姉が僕の名前を叫ぶ。
一、黒Tシャツがかかっているから
一、真っ先に入ったから
一、今ここにいないから
僕はクイズに参加できずに寂しかったけれど、正解されたので少しうれしかった。
「お父さん、雨は大丈夫だったかな?」
「雨なんて……、」
いつ、デビルが攻めてくるかもわからないのに、雨なんて……、
姉が、そう言って責めた。
「大丈夫なことが大事なのよ」
大事なんだから、と母は何かに言い聞かせるように繰り返し、言った。
「いつも心配しながら戸締りをしている」
言いながら、母は戸を全開にして空模様を見た。
「お母さん! 戸を閉めて!」
声を張り上げて、姉が言った。
「用心するの」
用心することが大事と姉は繰り返した。その手の中に、短刀が握られているのを、僕は見た。
「バビルとデビルは戦うんでしょ?」
「違う」
姉は自信満々に言い切った。
「……いいよね。……知ってる?」
バビルの弟を演じていたという役者の名前を、僕は知らなかった。
「見せたーい」
見ればわかると姉は言った。
徐々に音は近づいてくる。こちらの方に向かって近づいてくる。テレビの音も、鳥の私語も、誰かの会話もすっかり聞こえなくなってしまう。降りてくるのか、落ちてくるのか、こちらの方に向かって。そうではなく、この場所を目掛けて窓の外が巨大な影によって黒く包まれた。不時着し開かれた扉からは、人参、椎茸、豆腐が続いて降りてきた。
町外れの廃墟に身を潜めていたデビルを捕まえようとデジルは近寄ったが、デビルは容易に従わなかった。デビルは痩せ細っていたが剣を抜いて抵抗した。仕方なく、デジルも剣を抜いて彼を追った。剣を交える内に、デビルの剣は分裂して四つに増えた。追っているはずがいつしか追われている方はデジルの方だった。「本当に俺を捕らえられると思ったのか?」デビルは凶暴に伸びた剣を振りながらデジルに迫る。深い傷を負いながら、もはや逃げることが精一杯だったが、ついに追い詰められてしまう。八つに増えたデビルの剣にデジルの命運も尽きてしまった。デジルが討たれたという一報は瞬く間に街を駆け抜けた。みんな、追い詰められたデビルのことを甘く見ていたのだ。
「攻めてくるぞ!」
そんな声が、あちらこちらで飛び交っていた。
玄関先、傘立ての中には溢れんばかりの剣が納まっている。逸る気持ちの中で僕は早く本物の剣を手にしたかった。
「どれが本物だ?」レプリカか?
問い詰めたが玄関先の女は何も答えずに、僕は勘を頼りにその中の一本を抜き取った。艶だけを見れば、それは本物の条件を満たしているように思われ、僕は剣を空に向かって突き刺した。けれども、次の瞬間、その先端は打ちひしがれたチューリップのように、力なく萎れてしまった。こんばんは。
台所では風呂に入ったのは誰だクイズが催されていた。
「***!」
姉が僕の名前を叫ぶ。
一、黒Tシャツがかかっているから
一、真っ先に入ったから
一、今ここにいないから
僕はクイズに参加できずに寂しかったけれど、正解されたので少しうれしかった。
「お父さん、雨は大丈夫だったかな?」
「雨なんて……、」
いつ、デビルが攻めてくるかもわからないのに、雨なんて……、
姉が、そう言って責めた。
「大丈夫なことが大事なのよ」
大事なんだから、と母は何かに言い聞かせるように繰り返し、言った。
「いつも心配しながら戸締りをしている」
言いながら、母は戸を全開にして空模様を見た。
「お母さん! 戸を閉めて!」
声を張り上げて、姉が言った。
「用心するの」
用心することが大事と姉は繰り返した。その手の中に、短刀が握られているのを、僕は見た。