眠れない夜の言葉遊び

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【将棋ウォーズ自戦記】おまじないの歩

2022-01-04 03:48:00 | 将棋ウォーズ自戦記
 ごきげん中飛車を目指す出だしから相手はいきなり角を換えてきた。これに対して銀で取るのも立派な一手。以下中飛車を目指すのも有力だろう。飛車で取って向かい飛車とするのも自然な一着だ。真ん中に角を打ち込む手には合わせ角で受かる。あるいは馬を作らせて指す指し方も考えられる。馬の力は偉大だが、角を使ってもらったことで駒組みの制約から解放されるメリットもある。一方的に角を手持ちにし、馬を圧迫するような陣を敷ければ面白い戦いとなるだろう。

 銀か飛車か。しかし、3分切れ負けでは、それしきのことで深く迷っている暇はない。僕はおよそ4秒ほど考え込んで飛車で取った。
 角交換向かい飛車だ。相手は玉側の端歩を突いてきた。対して受けずに玉を囲う。すると端歩を突き越してきたので穴熊に囲った。バランスは取りにくいが、3分切れ負けでは王手のかからない穴熊が力を発揮することも多い。

 相手は銀を繰り出し桂を跳ねてきた。どうやら穴熊の玉頭に向いている気がする。もしや飛車まで……。その時、相手の飛車先はまだ一つ突いただけで止まっていた。僕は玉頭攻めを警戒して桂取りに自陣角を打った。向かい飛車の歩をこちらから伸ばすと、左桂を跳ね低い陣形から決戦に打って出た。歩を謝れば長い展開になるが、相手は堂々と飛車交換に応じ元の位置に飛車を打った。
 自陣飛車だ。こちらの穴熊に対して、相手はバランス型の中住まい。堅さではかなわない。しかし、自陣飛車によって打ち込みの傷を消し、浮いた桂を取り切れば徐々によくなっていくとの大局観だろう。そこで僕はなけなしの一歩を使い、飛車の頭に歩を垂らした。

 おまじないの歩だ。指した瞬間、何の確信もなかった。ただ間接的に自陣角の角筋に入っているので、何かよさげな手だと思ったのだ。相手はまじないの歩を堂々と飛車で取った。対して単に歩を伸ばし角道を通すと、飛車で桂を食われてしまう。それではおまじないの意味がない。

 飛車を呼び込んだ効果が現れるためには……。僕は歩を食いながら銀の腹に桂を成り捨てた。(きっとどこかで目にした筋が記憶の片隅にでも残っていたのだろう)そうしておいてから歩を突き出して角道を通す。成り捨ての効果で飛車桂の両取りだ! 伸ばされた歩を飛車で取ることがこれに対する唯一の受けだ。やはり桂損にはなるが、真の狙いは飛車の筋を変えて自陣の守備を無力化することだった。

 僕はすかさず元は桂のいた位置に飛車を打ち込んだ。これで香を取り返すことが確定した。そして、より大きいと言えるのは、敵陣での竜の活躍がほぼ約束されたことだった。中住まい玉はバランスに優れた形。全体的に隙を与えなければ、穴熊相手にも十分戦うことができる。逆に1カ所でも破られてしまえば大変だ。自陣に竜ができてしまうダメージは、並の囲いとは比較にならないこともある。
(実は自陣飛車に構わず右辺の桂を角で食いちぎって飛車を打ち込むという単純な強襲が有力だったと後で気がついた)

 相手はふらふらと飛車を成り込んできた。しかし、金銀が低く構えていて空成りだ。僕は下段に歩を打って竜を追ってから悠々と香を拾った。駒損を回復すると玉形の差と竜の働きの差が歴然とした。相手は竜の尻から桂を打った。気の利いた攻めがないことが苦戦を物語っていた。(実戦的には穴熊の端を攻めれば難しい面もあったようだ)

 将棋というのは一旦よくなってしまえば、いい手ばかりが回ってくることがある。(それは勝ち将棋の醍醐味だ)

 僕は竜を狙って下段から香を打った。田楽刺しだ。相手は本来桂が成りたいところに泣く泣く竜を突っ込んできた。それに対して最善手は、強く竜を取り寄せにいく手だった。(穴熊の堅陣なのに、何を恐れることがあるだろう。そこは自分の弱さだと反省する)僕はあえて竜を取らずに、角をかわしながら先ほど打たれた桂を取った。これで竜取りだけが残り攻めの継続がない。

 合理的ではあるが、勝ち味としては遅い。(3分切れ負けの将棋で勝ち切るためには、踏み込めるところではシンプルに踏み込むという積極性も大事だと思う)形勢は振り飛車大優勢。相手は潔く投了を選択された。その時、僕の残り時間は1分で、相手はより多く残していたと思う。飛車を取り切らなかったために寄り筋までは遠く、寄せがグダグダになって時間で負けるという可能性も考えられた。将棋の作りがなってないとみての判断かもしれない。(指す手がないのに指し続ける将棋はつまらないものだ)3分切れ負けで指しているのは時間を大切にしている人たちだと考えられる。気持ちを切り替えて先へ先へと進む姿勢もよいではないか。

 将棋の強さには、大局観や構想力など色々な要素があるが、1つの手筋を知っているかどうかが勝敗を分かつ場合もある。短い将棋では狙いを消し合うよりも我が道を行き合うことが多いため、派手な大技も決まりやすい。そこも3分切れ負けの魅力だろうか。左桂の活躍が印象に残る一局となった。

コメント
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