緊急メッセージ
「遠い町のどこかであなたのIDを使いログインを試みた人がいます。それはあなたですか? もしもあなたである場合、このメッセージは無視してください。もしもあなたでない場合、直ちにパスワードを新しく……」
煙草の自販機が赤く光った。
(しまった! IoTだ!)
自転車にまたがったままメッセージを開いてしまった。今すぐこの場を離れなければ……。イオンタウンまで行けば、群衆に紛れ込める。サイレンの音が近づいてきた。踏切の向こうから猛スピードでパトカーがやってきた。一直線に僕の前に迫ってくる。駄目だ! 避けることはできず、自転車に乗ったまま横倒しになった。新しいサイレンの音。立て直す間もなく背後からパトカーがやってきて急停車した。容赦なし。傷んだ膝を気にかける間にも、横から徒歩警官が押し寄せる。すっかり囲まれてしまった。
「観念しろ!」
最初に到着したパトカーから降りてきた警官が言った。
「3時間に渡ってつきまとったそうだな」
「……」
その瞬間、僕は巻き込まれたことを悟った。(やばい)これは全くの別件だ。僕はただ自転車に乗ったままスマホのメッセージを読んだだけなのに……。(アリバイ、アリバイ、アリバイ)確かに証明できるアリバイがどこにも見当たらない。
「もう逃げられないからな!」
「違う。僕じゃない!」
「このストーカー野郎が!」
「それじゃない!」
容疑の次元がまるで違うことが歯がゆかった。
「何だ? 余罪がいっぱいか。余罪ごろごろか」
「人違いです」
「今にわかるよ。この場ですべて明かしてやるからな」
「何もしてないし」
「何? お前の自転車か?」
「僕のです」
「いつからお前のなんだ?」
「ずっと前からです」
「ずっと? そんなわけないだろ。甘くみるなよ、お前……」
「盗んでないって」
「これは何だ? イヤホンか。ブルートゥース? ハリウッドか?」
「無線で聞ける奴です」
「無線だ? ちゃんと許可取ってんのか?」
「何がですか」
「これは? スマホか。iPhoneかアンドロイドか。どっちだ?」
「そうです。これですよ。これが僕の罪です」
ようやく核心に向いた目をどうにか捕らえたかった。
「認めるんだな」
「でも、これだけです。この自転車とこのスマホを合わせて僕の罪はすべてです」
「はあ? そんなわけないだろう」
「ちゃんと調べてくださいよ」
「調べはついてるんだよ!」
警官は倒れた自転車のタイヤを踏みつけながら言った。
「わらんない人だな」
遠い町のどこかで僕の代わりに笑っている奴がいる。