闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.550
若き日のアイリスにケイト・ウィンスレットが出ている2001年製作の英国映画。ヒロインとヒーローのカッコ良さげな悲劇よりも、彼らの傍にいて彼らをもっと愛していたはずの男女の哀しみに想いを致したくなる作品だった。
アイリスというから、あやめやカキツバタなど紫色の植物を想像していたら、いきなり裸のおばあちゃんとおじいちゃんが水の中を泳いでいて、お互いに「アイ・ラブ・ユー」と水を飲みながら呼びかわしているので驚いたが、しばらく見ていると英国の女流作家アイリス・マードックを主人公とする夫婦の愛の物語なのであった。
あれほど頭脳明晰で素晴らしい小説を書いた人が、自分のことも夫のこともどんどんどんどん忘れて、ただの動物のような存在に戻ってゆく。その世の中のどこにでもある悲劇を映画は彼らの若き日の愉しい回想をインサートしながら淡々と描いてゆく。
きっと私たちもあんな風になってしまうのだろうが、それも含めてのわれらの人世なのだ。
愛したること愛されしことも忘れ果てなお歩むべしこの薄明の道 蝶人