bowyow cine-archives vol.700
ひと昔前に一夜だけ契った男女が、巴里で再会して旧闊を叙す、というただそれだけの話といったらそうなんじゃが、どこか昔のヌーヴェルヴァーグの記憶もよみがえり、見ていて懐かしく、切なくなってくる。つまり私のとても好きなタイプの映画なんである。
その一夜の思い出を書いて作家になった男が、書店のサイン会で運命の女に会い、そこから巴里の街を歩き、セーヌの観光船に乗り、最後は女のアパルトマンにたどり着くまでの、ある日の夕暮までの全篇を、2人の会話(思い出噺)だけでノンストップでつないでゆくドキュメンタリー的な手法が、妙に新鮮に映る。
アパルトマンの外では、作家を空港まで運ぶハイヤーが待っているというのに、男は女の自作自演のワルツを寝そべって聴いている。さあこれから二人はどうするのか? それとも何もしないで別れてしまうのか?
といういいところで、1時間20分のいまどき珍しいショートフィルムは終わってしまい、深い余韻が漂う。私が監督なら男女とも別の役者を使うのだが、それだけがちょっと残念。
さあ、みなさん、ここいらで、
「ほんに別れたあの女、いまごろどうしているのやら」
という、中原中也の一節をくちずさんでみませう。
なにゆえに今日はペンキ塗りをしないのかもうすぐ台風がやって来るのに 蝶人