
音楽千夜一夜第339回
ルーマニア生まれのピアニスト、ディヌ・リパッティのショパンやシューマン、バッハ、モザール、ブラームス、スカルラッテイ、ギリーグ、バルトークそれに自作を10枚にまとめた選集ですが、やはり白眉は1950年9月16日に仏ブザンソンで行った最後のコンサートのライヴ2枚でしょう。
この日彼はバッハのパルティータ1番、モザールの8番に加えてシューベルトの即興曲、そしてショパンのワルツを演奏してこの世の別れ(悪性リンパ腫で12月2日に死去)を告げたのですが、そのタッチは(御師匠さんのコルトーとは似ても似つかぬ)あくまでも切れ味よく、気品に満ち、常に変わらぬ精確で清冽な演奏を繰り広げています。
さりながら若冠33歳での夭折はあまりにも早すぎた。あの美人の奥さんはどのような後半生を生きたのだろうか、と時々思うのです。
そしてこの天才にあと20年、いな10年の寿命が与えられたら、ミケランジェリを超える偉大なピアニストになっていたに違いありません。
いないな、ここに収められた歴史的演奏がそのことをすでに十分明かしているわけですが。
薄幸の佳人が今日も歌ってるドデカフォニーな現代短歌 蝶人