闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.920、921、922、923
○相米慎二監督の「ションベン・ライダー」をみて
いたずら中学生の周辺でヤクザがでてきて誘拐事件だの追跡事件だの殺人事件だのがなんの必然性もなく次々に惹起するスクリュウボール無茶苦茶回転映画ずら。
ここでは登場人物やプロットなどはどうでもよくて、映画における表現とは徹底的に自由であることを貫徹した世にもアナーキーな快作ずら。
横浜の運河ずたいを何人もの男女が画面の左から右に疾走するところを長い長い移動撮影でとらえた映像は見る者を圧倒する。
これが映画の快楽である。
○荻上博子監督の「レンタネコ」をみて
ネコにやたら愛され、数多くのネコを一軒屋で飼っている若い女性(市川実日子)扮する
主人公なのですが、時々数匹のネコをリヤカーに積んで、大川端の一本道をハンドマイクで「ネコ、ネコ、ネコ」と呼びかけながら趣味の移動レンタルネコ屋をやっている。
という出発点が決まれば、もうこの映画は出来たようなもの。才能豊かな荻上監督の傑作です。
○伊藤匡史監督の「カラスの親指」をみて
道尾秀介の原作がよくできていて、いくたびもドンデン返される快感を味わうことができる。欠点は主人公が「詐欺師」であることだろう。村上ショージ、石原さとみ、能年玲奈などの配役に意外感あり。
○溝口健二監督の「赤線地帯」をみて
赤線廃止法が国会で審議されている頃の吉原の「夢の里」を舞台に娼婦たちのさまざまな生き方を描く女性群像劇で、若尾文子、京マチ子、木暮実千代、沢村貞子、三益愛子、渡辺粂子などの実力派女優が、溝口の「反射してください」の声に誘導されて、存分に反射して見せる。
もちろん進藤英太郎、加東大介、多々良純、十朱久雄などの男優も脇を締めてはいるのだが、これはあくまでも色と欲と苦の境涯を生きる哀しくもしたたかな女たちの物語なのである。
不幸にもこれが溝口の遺作となってしまったが、その遺作のラストカットで初めて客を取ることになった川上順子が楼の入口に顔半分隠しながら、「ちょっと、ちょっと」と恥ずかしそうに声を掛ける。
その可憐さの底に潜む女のしたたかさ! これこそ溝口生涯最高のショットでありましょう。
「犯人はアジア系」というときに日本人は入っているのかいないのか 蝶人