ゲルツェン著・金子幸彦&長縄光男訳「過去と思索5」を読んで
照る日曇る日 第2150回
1851年、ルイ・ポレオンがクーデターで皇帝に成り上がると、フランスをはじめ自由と革命を目指す全欧州の進歩主義者は、自らの橋頭保や活動拠点を失って続々と英京ロンドンに亡命してくる。
本書の著者もその一人だが、それに加えてゲルツェンの場合は、不慮の海難事故で母と長男を失い、最愛の妻ナターリアの不倫と死別という大きな悲嘆と痛手が付随していたから、普通の人間なら絶望のあまり自死に至るも無理からぬ試練と苦難の時代を迎えるのである。
本巻に収録されたのは、第5部パリ、イタリア、パリ(1847―1852)と第6部イギリス(1852―1864)の途中までであるが、どのページを開いても1848年のパリ・コンミューンを輝かしいアルプスの山巓を仰ぎ見ながら、非生産的なセクト各派の消耗戦に耐え偲ぶだけの苦難の日々の記録が延々と記されているのみ。
とりわけ自由なフランスで活躍したルドリュ・ロランやバルベス、ルイ・ブラン、若きイタリアを領導したマッツィーニや、ハンガリーのコシュート、ポーランドのヴォルツェルやベルナツキなどの悲劇的群像は、テムズ河の残照の中でその落剝の無残な姿を露わにするのである。
ゆとりなきユトリロひとりモヘンジョダロもう一筆も描けんかった 蝶人