金融と新自由主義③ 資本逃避で国を脅迫
群馬大学名誉教授 山田博文さん
―日本企業を新自由主義の考え方で染めたのが、外国人投資家を中心とする大株主だったわけですね。
「企業の使命は株主に報いることだ。雇用や国のあり方に経営者が責任を負う必要はない」というのが大株主の論理です。野蛮な資本の論理であり、新自由主義のイデオロギーです。この資本の論理が日本の企業経営のあり方を変えました。
過去10年の法人企業統計を比較すれば変化は明白です。(表)
日本企業の経営内容の変化(単位 億円・人)
*金融・保険を含む285万社。法人企業統計から作成
配当金が最優先
新自由主義の企業経営が最優先するのは、高額の配当金の支払いで株主に報いることです。実際に、企業の純利益や株主への配当金は2倍以上に増えました。内部留保金といわれる利益剰余金も大幅に増えました。他方で、減ったのは従業員給与と従業員数です。雇用や地域経済に責任を持たず、労働者からの搾取を強めて株主配当を増やす、野蛮な経営姿勢が現れています。
バブル崩壊後、日本企業の売上高や本業からの営業利益は長期間にわたり低迷しています。それなのに純利益や利益剰余金が増大する「減収増益」という事態が生じています。
その要因の第一は従業員給与を大幅に削減したことです。第二は自公政権が法人税減税を繰り返したことです。第三は大企業が金融ビジネスに傾注し、有価証券投資による金融収益(営業外収益)を増やしたことです。第四は海外投資から還流する利子・配当金などの金融収益が円安下で増大したことです。
日本企業は正社員を減らして非正規雇用を拡大し、効率よく利益を増やす「新時代の『日本的経営』」(日本経営者団体連盟・1995年)を実現しました。ため込まれた利益は国内の設備投資や給与支払いではなく、グローバルな直接・間接投資へ向けられました。
経営権の取得を伴う直接投資は圧倒的に人件費の安い中国やアジア諸国での工場の建設に向けられました。大企業が海外に投資先と生産拠点を移したことで、日本国内の製造業と雇用は空洞化していきました。対外進出した日本の企業数は2019年度現在、2万5693社、現地で雇用する従業員数は564万人に達します。
利子や配当の獲得を目的とする間接投資(有価証券投資)は欧米の株式・債券など、高利回りの金融商品に向けられました。企業は本業に打ち込むよりも、手持ちの資金をグローバルに運用して稼ぐようになりました。
三井住友フィナンシャルグループ本社(三井住友銀行本店)=東京都千代田区
わが亡き後に…
―金融収益の増大と労働者の貧困化は表裏一体なのですね。
マルクスが『資本論』で解明したように、資本主義経済の目的は飽くことなき利益追求であり、労働者が生み出す剰余価値の搾取と収奪です。しかし剰余価値を実現する工程は、原材料の調達・生産・販売のすべての場面で時間と空間に制限され、生活向上を求める労働者のたたかいと衝突して非効率になっていきます。そこで資本の論理は、海外移転・外部委託・雇用の非正規化などで生産工程の搾取率を高める一方、巨額のマネーを地球的規模で高速に運用し、世界中から効率的に利益を収奪する金融ビジネスを活性化させました。
インターネットなどの情報通信技術の発展が時間と空間を超越した金融ビジネスに道を開きました。それに加えて、資本の自由な運動を拘束する国内外のあらゆる規制を緩和・撤廃する新自由主義の政策を各国で普及させたことにより、巨大金融資本は24時間いつでもどこでも、自由に巨額の利益を収奪できるようになりました。
巨大金融資本は投資先の雇用や経済に責任を負いません。景気後退や相場の悪化が見込まれるやいなや、「わが亡き後に洪水よ来たれ」とばかり、一瞬で安全圏の国外に逃避します。資本に逃避された国ではバブルが崩壊し、工事現場は放置され、企業倒産と失業の嵐が吹きまくります。資本逃避の可能性は企業と国家への強い脅しとなり、大株主の利益を最優先する新自由主義的な経営・政策の推進力として働きます。
「金融の自由化・国際化」は、こうして巨大金融資本の権力を著しく強め、英米の投資家や大株主の下に世界の富を手っ取り早く集める「カジノ型金融独占資本主義」となって、人々の暮らしや地域経済を衰退させてしまいました。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月3日付掲載
新自由主義の企業経営が最優先するのは、高額の配当金の支払いで株主に報いること。
バブル崩壊後、日本企業の売上高や本業からの営業利益は長期間にわたり低迷しています。それなのに純利益や利益剰余金が増大する「減収増益」という事態。
巨大金融資本は投資先の雇用や経済に責任を負いません。景気後退や相場の悪化が見込まれるやいなや、「わが亡き後に洪水よ来たれ」とばかり、一瞬で安全圏の国外に逃避。
一国の規制では追いつかない、国際的な規制が必要だよ。
群馬大学名誉教授 山田博文さん
―日本企業を新自由主義の考え方で染めたのが、外国人投資家を中心とする大株主だったわけですね。
「企業の使命は株主に報いることだ。雇用や国のあり方に経営者が責任を負う必要はない」というのが大株主の論理です。野蛮な資本の論理であり、新自由主義のイデオロギーです。この資本の論理が日本の企業経営のあり方を変えました。
過去10年の法人企業統計を比較すれば変化は明白です。(表)
日本企業の経営内容の変化(単位 億円・人)
2011年度 | 2020年度 | |
従業員給与 | 136兆622 | 131兆6022 |
従業員数 | 4256万8442 | 4114万4138 |
当期純利益 | 22兆8662 | 45兆7048 |
配当金 | 10兆4731 | 20兆9597 |
利益剰余金 | 315兆5555 | 550兆7192 |
配当金が最優先
新自由主義の企業経営が最優先するのは、高額の配当金の支払いで株主に報いることです。実際に、企業の純利益や株主への配当金は2倍以上に増えました。内部留保金といわれる利益剰余金も大幅に増えました。他方で、減ったのは従業員給与と従業員数です。雇用や地域経済に責任を持たず、労働者からの搾取を強めて株主配当を増やす、野蛮な経営姿勢が現れています。
バブル崩壊後、日本企業の売上高や本業からの営業利益は長期間にわたり低迷しています。それなのに純利益や利益剰余金が増大する「減収増益」という事態が生じています。
その要因の第一は従業員給与を大幅に削減したことです。第二は自公政権が法人税減税を繰り返したことです。第三は大企業が金融ビジネスに傾注し、有価証券投資による金融収益(営業外収益)を増やしたことです。第四は海外投資から還流する利子・配当金などの金融収益が円安下で増大したことです。
日本企業は正社員を減らして非正規雇用を拡大し、効率よく利益を増やす「新時代の『日本的経営』」(日本経営者団体連盟・1995年)を実現しました。ため込まれた利益は国内の設備投資や給与支払いではなく、グローバルな直接・間接投資へ向けられました。
経営権の取得を伴う直接投資は圧倒的に人件費の安い中国やアジア諸国での工場の建設に向けられました。大企業が海外に投資先と生産拠点を移したことで、日本国内の製造業と雇用は空洞化していきました。対外進出した日本の企業数は2019年度現在、2万5693社、現地で雇用する従業員数は564万人に達します。
利子や配当の獲得を目的とする間接投資(有価証券投資)は欧米の株式・債券など、高利回りの金融商品に向けられました。企業は本業に打ち込むよりも、手持ちの資金をグローバルに運用して稼ぐようになりました。
三井住友フィナンシャルグループ本社(三井住友銀行本店)=東京都千代田区
わが亡き後に…
―金融収益の増大と労働者の貧困化は表裏一体なのですね。
マルクスが『資本論』で解明したように、資本主義経済の目的は飽くことなき利益追求であり、労働者が生み出す剰余価値の搾取と収奪です。しかし剰余価値を実現する工程は、原材料の調達・生産・販売のすべての場面で時間と空間に制限され、生活向上を求める労働者のたたかいと衝突して非効率になっていきます。そこで資本の論理は、海外移転・外部委託・雇用の非正規化などで生産工程の搾取率を高める一方、巨額のマネーを地球的規模で高速に運用し、世界中から効率的に利益を収奪する金融ビジネスを活性化させました。
インターネットなどの情報通信技術の発展が時間と空間を超越した金融ビジネスに道を開きました。それに加えて、資本の自由な運動を拘束する国内外のあらゆる規制を緩和・撤廃する新自由主義の政策を各国で普及させたことにより、巨大金融資本は24時間いつでもどこでも、自由に巨額の利益を収奪できるようになりました。
巨大金融資本は投資先の雇用や経済に責任を負いません。景気後退や相場の悪化が見込まれるやいなや、「わが亡き後に洪水よ来たれ」とばかり、一瞬で安全圏の国外に逃避します。資本に逃避された国ではバブルが崩壊し、工事現場は放置され、企業倒産と失業の嵐が吹きまくります。資本逃避の可能性は企業と国家への強い脅しとなり、大株主の利益を最優先する新自由主義的な経営・政策の推進力として働きます。
「金融の自由化・国際化」は、こうして巨大金融資本の権力を著しく強め、英米の投資家や大株主の下に世界の富を手っ取り早く集める「カジノ型金融独占資本主義」となって、人々の暮らしや地域経済を衰退させてしまいました。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月3日付掲載
新自由主義の企業経営が最優先するのは、高額の配当金の支払いで株主に報いること。
バブル崩壊後、日本企業の売上高や本業からの営業利益は長期間にわたり低迷しています。それなのに純利益や利益剰余金が増大する「減収増益」という事態。
巨大金融資本は投資先の雇用や経済に責任を負いません。景気後退や相場の悪化が見込まれるやいなや、「わが亡き後に洪水よ来たれ」とばかり、一瞬で安全圏の国外に逃避。
一国の規制では追いつかない、国際的な規制が必要だよ。