「経労委報告」を読む④ 正規雇用の流動化狙う
労働総研事務局長 藤田実さん
以前の「経労委報告」では、新卒一括採用、長期勤続雇用、OJT(職場内訓練)を中心とする企業内人材育成などからなる日本の雇用システムを「人間尊重の経営」として、高く評価し、維持すべきとしてきました。
「日本型」を攻撃
しかし「2020年版経労委報告」では「転換期を迎えている日本型雇用システム」として、「Society5・0」の時代では問題点が顕在化し、その見直しが求められているとしました。「2021年版経労委報告」では「『自社型』雇用システムの検討」を求めるとして、従来の日本型雇用システムからの転換を打ち出しました。
21年版では、日本型雇用システムについて、より批判的になっています。
例えば、新卒一括採用が中途採用や再チャレンジを困難にし、中小企業やスタートアップ企業の振興を阻害していると述べています。新卒一括採用には、「経労委報告」が指摘するような問題点があるのは確かですが、他方で若年層の失業率を低くさせ、社会を安定させる効果をもたらしています。企業も採用コストや研修コストを抑えることができるというメリットがあります。
長期勤続雇用に関しては、働き手の多くが定年までの勤続を当然と認識しているので、主体的なスキルアップや自己啓発への意欲を阻害している可能性があると断じています。
自己啓発に取り組む労働者が日本では少ないというのは、各種調査でも指摘されていることですが、それは企業や社会のあり方に原因があります。日本企業の人的投資はOJT中心で、Off-JT(職場外訓練)への投資は少ないことが国際比較調査から明らかになっています。企業外部で、リカレント(学び直し)教育やリスキング(再教育)する基盤が整備されていないこともあります。さらに仕事に直結する資格などが少なく、例え資格を取っても評価や賃金に結びつかないという企業の人事管理上の問題もあります。
このような実態からすれば、自己啓発やスキルアップに取り組む労働者が少ないのは、長期勤続雇用に安住しているからだというのは一面的な議論です。
電機リストラをやめさせろと訴える人たち=2021年3月26日、経産省前
ジョブ型の狙い
年功型賃金に関して、「経労委報告」は実際に発揮した職能や賃金水準の間に乖離(かいり)が生じやすいと主張しています。
しかし現実の賃金制度では、年齢・勤続年数が決定要因となる年功型の要素は、若年層以外では少なく、役割・成果給の割合が高くなっており、単純な年功型の賃金体系ではなくなっています。
このように「経労委報告」の主張は、事実を曲解したり、都合よく解釈したりして、日本的雇用システムを「攻撃」しているように見えます。
日本経団連が日本型雇用の問題点を指摘し、見直しを掲げる理由はどこにあるのでしょうか。それは「4.円滑な労働移動の推進」で述べているように、企業戦略や事業構造の変化に応じて自由に正規労働者も入れ替えたいということです。
「ジョブ型雇用」の導入も、ジョブ(職務)の変化に合わせて自由に労働者の入れ替えを進めることがねらいです。「経労委報告」が想定する雇用システムは、長期勤続の労働者は経営幹部層など一部に限定し、労働者の多数は企業戦略や事業構造の変化に対応して流動的にするというものです。
非正規労働者が増加していることと合わせて考えると、正規労働者も含めて、日本の労働市場を企業の都合に合わせて流動的なものにしていくというのが狙いだといってよいと思います。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月22日付掲載
「経労委報告」は、長期勤続雇用に関して、働き手の多くが定年までの勤続を当然と認識しているので、主体的なスキルアップや自己啓発への意欲を阻害している可能性があると断じている。
しかし、スキルアップしたとしても、それが評価や賃金に結びつかないという企業の人事管理上の問題が。
「ジョブ型雇用」の導入も、ジョブ(職務)の変化に合わせて自由に労働者の入れ替えを進めることがねらい。
正規労働者も含めて、日本の労働市場を企業の都合に合わせて流動的なものにしていくというのが狙い。
労働総研事務局長 藤田実さん
以前の「経労委報告」では、新卒一括採用、長期勤続雇用、OJT(職場内訓練)を中心とする企業内人材育成などからなる日本の雇用システムを「人間尊重の経営」として、高く評価し、維持すべきとしてきました。
「日本型」を攻撃
しかし「2020年版経労委報告」では「転換期を迎えている日本型雇用システム」として、「Society5・0」の時代では問題点が顕在化し、その見直しが求められているとしました。「2021年版経労委報告」では「『自社型』雇用システムの検討」を求めるとして、従来の日本型雇用システムからの転換を打ち出しました。
21年版では、日本型雇用システムについて、より批判的になっています。
例えば、新卒一括採用が中途採用や再チャレンジを困難にし、中小企業やスタートアップ企業の振興を阻害していると述べています。新卒一括採用には、「経労委報告」が指摘するような問題点があるのは確かですが、他方で若年層の失業率を低くさせ、社会を安定させる効果をもたらしています。企業も採用コストや研修コストを抑えることができるというメリットがあります。
長期勤続雇用に関しては、働き手の多くが定年までの勤続を当然と認識しているので、主体的なスキルアップや自己啓発への意欲を阻害している可能性があると断じています。
自己啓発に取り組む労働者が日本では少ないというのは、各種調査でも指摘されていることですが、それは企業や社会のあり方に原因があります。日本企業の人的投資はOJT中心で、Off-JT(職場外訓練)への投資は少ないことが国際比較調査から明らかになっています。企業外部で、リカレント(学び直し)教育やリスキング(再教育)する基盤が整備されていないこともあります。さらに仕事に直結する資格などが少なく、例え資格を取っても評価や賃金に結びつかないという企業の人事管理上の問題もあります。
このような実態からすれば、自己啓発やスキルアップに取り組む労働者が少ないのは、長期勤続雇用に安住しているからだというのは一面的な議論です。
電機リストラをやめさせろと訴える人たち=2021年3月26日、経産省前
ジョブ型の狙い
年功型賃金に関して、「経労委報告」は実際に発揮した職能や賃金水準の間に乖離(かいり)が生じやすいと主張しています。
しかし現実の賃金制度では、年齢・勤続年数が決定要因となる年功型の要素は、若年層以外では少なく、役割・成果給の割合が高くなっており、単純な年功型の賃金体系ではなくなっています。
このように「経労委報告」の主張は、事実を曲解したり、都合よく解釈したりして、日本的雇用システムを「攻撃」しているように見えます。
日本経団連が日本型雇用の問題点を指摘し、見直しを掲げる理由はどこにあるのでしょうか。それは「4.円滑な労働移動の推進」で述べているように、企業戦略や事業構造の変化に応じて自由に正規労働者も入れ替えたいということです。
「ジョブ型雇用」の導入も、ジョブ(職務)の変化に合わせて自由に労働者の入れ替えを進めることがねらいです。「経労委報告」が想定する雇用システムは、長期勤続の労働者は経営幹部層など一部に限定し、労働者の多数は企業戦略や事業構造の変化に対応して流動的にするというものです。
非正規労働者が増加していることと合わせて考えると、正規労働者も含めて、日本の労働市場を企業の都合に合わせて流動的なものにしていくというのが狙いだといってよいと思います。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月22日付掲載
「経労委報告」は、長期勤続雇用に関して、働き手の多くが定年までの勤続を当然と認識しているので、主体的なスキルアップや自己啓発への意欲を阻害している可能性があると断じている。
しかし、スキルアップしたとしても、それが評価や賃金に結びつかないという企業の人事管理上の問題が。
「ジョブ型雇用」の導入も、ジョブ(職務)の変化に合わせて自由に労働者の入れ替えを進めることがねらい。
正規労働者も含めて、日本の労働市場を企業の都合に合わせて流動的なものにしていくというのが狙い。