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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

金融と新自由主義① 破壊された防壁

2022-02-15 07:09:45 | 経済・産業・中小企業対策など
金融と新自由主義① 破壊された防壁
世界各国の金融市場を支配し、新自由主義の政策を企業と国家の双方に押し付けているのが巨大金融資本です。群馬大学名誉教授の山田博文さんに聞きました。
(杉本恒如)
群馬大学名誉教授 山田博文さん

規制緩和の嵐

―新自由主義は金融分野でどんな改革を推し進めてきましたか。
個人の自由でなく資本の自由を最優先する新自由主義のイデオロギーが各国の政策に取り込まれたのは1980年代以降です。金融分野における新自由主義は、金融資本の利益追求の障害となる規制を緩和・撤廃する「金融の自由化・国際化」の嵐となって世界を席巻しました。主な柱は三つあります。
第一は資本の国際移動を自由化することです。日本では▽外国投資の事前許可制を廃止する▽外国の証券会社に口座を開設して外国の株式や債券に投資できるようにする▽外国資本に国内投資の門戸を開く―などの規制緩和が行われました。
第二は独占禁止法を緩和して金融持ち株会社を解禁し、銀行業・証券業・保険業の垣根を取り払うことです。
第三は証券売買手数料を自由化し、デリバティブ(金融派生商品)や各種投資信託などの金融商品を全面解禁することです。
―資本の国際移動や銀行・証券の兼業が規制されていたのはなぜでしょうか。
マネーは経済の血液なので、日本で稼いだマネーは国内で循環させ、日本経済の成長に使うという考え方でした。外国投資で出血させるなんてとんでもないというわけです。



みずほファイナンシャルグループ本社(みずほ銀行本店)が入る大手町タワー=東京都千代田区

大恐慌の教訓
銀行の倒産が続出した1930年代の世界大恐慌の教訓も重要でした。銀行業務と証券業務の兼業禁止は最大の焦点でした。
世界大恐慌は米国の株式・不動産バブルの崩壊から始まりました。なぜバブルが生まれたかといえば、不特定多数の企業と個人から預金を集める銀行が金もうけに走って株や不動産を買いまくり、投資したいという個人や企業にもどんどん資金を貸したからです。
膨れ上がったバブルが崩壊し、銀行取り付け騒ぎが起こって金融システムが破綻し、世界に恐慌が波及しました。
銀行は決済業務を担います。個人や企業の経済取引に伴う金銭上の債権債務関係を清算する業務です。決済業務が機能しないと個人も企業も金銭の受け払いができず、商品売買などの経済活動が停止します。公的な性格を持つそんな大切な業務を、利益優先の民間銀行に委ねるのが資本主義体制の矛盾です。銀行が価格変動リスクのある株式投資に走って株価の下落で倒産し、預金者の預金引き出しや決済業務に支障を来すと、経済社会全体が大恐慌に陥ります。
そこで預金者を保護し、銀行の健全性を保証するために、銀行業務と証券業務の間に防壁が築かれました。銀行・証券の兼業禁止規制は世界大恐慌の渦中の33年にアメリカの連邦法(グラス・ステイーガル法)として制定され、戦後世界に影響を与えました。銀行と証券の間にチャイニーズウォール(万里の長城)を築くべきだといわれました。
―その防壁を新自由主義は台無しにしてしまったのですね。
金融資本は70年代以降、低成長経済への移行で利益の薄くなった銀行の貸し出し業務より、株式・債券などの超高速売買で巨額の利益を稼ぐ証券業務に傾注します。米国は金融資本の要求に沿った規制緩和を繰り返し、99年には銀行・証券分離規制を事実上撤廃するグラム・リーチ・ブライリー法を成立させます。
その結果、銀行・証券・保険・為替などすべての金融業務を自由に遂行し、国境を超えた金融ビジネスから利益を得る金融コングロマリット(複合企業)が登場しました。現在では日本の3メガバンク(三菱UFJ・三井住友・みずほ)を含む「大きすぎて潰せない」約30社が世界中から利益を吸い上げて独り占めしています。
金融コングロマリットは全世界の大手企業の資金繰りを支配する圧倒的な力を持っています。企業には新自由主義的な経営を、政府には新自由主義的な政策を迫る、主権者のごとく振る舞っています。巨額の資金を動かして投機的取引を主導し、バブルの発生・崩壊の元凶ともなっています。これが、金融分野における新自由主義のグローバルな帰結です。
(つづく)(5回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月1日付掲載


銀行は決済業務を担います。個人や企業の経済取引に伴う金銭上の債権債務関係を清算する業務。
公的な性格を持つそんな大切な業務を、利益優先の民間銀行に委ねるのが資本主義体制の矛盾。
そこで預金者を保護し、銀行の健全性を保証するために、銀行業務と証券業務の間に防壁が築かれた。
新自由主義は、銀行・証券・保険・為替などすべての金融業務を自由に遂行へ。