きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

金融と新自由主義⑤ 99%のための経済に

2022-02-19 07:12:25 | 経済・産業・中小企業対策など
金融と新自由主義⑤ 99%のための経済に
群馬大学名誉教授 山田博文さん

―新型コロナウイルス危機の下で貧富の格差が拡大しました。
3・8億人の感染者と571万人の死者を出したコロナ禍は、生活関連の中小零細企業を中心に、大規模な企業倒産と失業を誘発しました。国際労働機関(ILO)によれば、世界中で2億2000万人が失業し、約1億人が極度の貧困に陥りました。人類の生存権が脅かされ、生活破壊が進行しています。
他方で、約2750人の超富裕層がコロナ禍の間に増やした富は3兆6000億ユーロ(約470兆円)に達した、と世界不平等研究所の調査は指摘します。2021年に世界の上位1%の超富裕層が個人資産の37・8%を独占する一方、下位50%は2%程度の資産を所有するにすぎませんでした。貧困と資産格差は一層深刻になっています。

驚異的株高記録
これは、コロナ禍の2年間に主要国の株価や債券価格が驚くほど上昇したからです。アメリカのダウ平均株価は2万3000ドル台から3万6000ドル台へ、日本の日経平均株価は2万3000円台から2万9000円台へと、驚異的な株高を記録しました。
実体経済指標である世界の名目GDP(国内総生産)合計額は87・39兆ドルから94・94兆ドルへと、ほぼ横ばいの1・08倍にとどまったのに、金融経済指標の株価や債券価格はそれをはるかに上回って上昇しました。株式や債券投資に縁のない99%の国民諸階層が失業や一層の貧困に陥る中、富裕層は金融資産を増大させました。
株価や債券価格が上昇したのは、コロナ禍対策で各国中央銀行が歴史的に例を見ない超金融緩和政策を発動したことで、株式や債券に買い向かう投資用マネーが膨張したからです。目先の利益を追求する金融経済が、人類の生存に不可欠なモノやサービスを生産・販売する実体経済から乖離(かいり)し、世界のGDPの3~4倍も肥大化する事態に陥っています。
金融規制緩和を推進した各国の新自由主義政策が、目先の利益を求めるマネーの暴走をもたらしました。
―どんな政策転換が求められますか。
金融の自由化・国際化、雇用破壊、法人税の減税競争、社会保障の切り捨てといった新自由主義政策がつくり出したのは、「1%の富裕層や株主のための経済」です。国民生活は貧困化し、国民経済と地域経済は疲弊し、貧富の格差が拡大しました。弱肉強食の新自由主義と決別し、「1%のための経済」から「99%のための経済」に転換することが火急の課題です。



米ワシントンにある連邦準備制度理事会(FRB)本部ビル(ロイター)

投機には課税を
金融分野では、自由化・国際化の見直しが欠かせません。
第一に、モノの取引を伴わない投機的な金融取引には課税し、実体経済から乖離したマネーの暴走を抑え込むことです。国境を越えた投機目的の国際通貨取引にも課税(トービン税)し、円・ドル・ユーロなどの為替相場の変動を抑え込み、安定化させることです。
低率の課税でも投機抑制効果は大きく、巨額の税源が生まれるうえ、新自由主義的な政策を押し付ける金融資本の権力を削減することにもつながります。
第二に、国や地域の経済活動の中で稼いだマネーの一定割合はその国や地域の発展と安定のために再投資し、循環させる仕組みを成立させることです。金融機関に集中したマネーがグローバル市場や首都圏に流出したら、国民経済・地域経済は疲弊します。米国にはマネーの地域循環を明記した「地域再投資法(CRA)」という先行事例があります。
第三に、中央銀行の独立性を保証し、時の政権や経済界の意向に屈服せず、「物価安定」の大目標を実現することです。実体経済が安定して営まれるためには物価の安定が不可欠です。また、世界大恐慌の教訓である銀行業務と証券業務の分離に立ち返るべきです。
第四に、21世紀の人類的視点に立ち、国連総会で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)の方向へ金融政策や民間金融機関の経営を転換することです。貧困撲滅、健康と福祉、質の高い教育、クリーンエネルギー、ジェンダー平等、気候変動対策、不平等と格差の是正、平和、持続可能な生産と消費、安全な街づくりなど、SDGsの17の目標達成を支援する金融システムを確立すべきです。(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月5日付掲載


アメリカのダウ平均株価は2万3000ドル台から3万6000ドル台へ、日本の日経平均株価は2万3000円台から2万9000円台へと、驚異的な株高を記録しました。
実体経済指標である世界の名目GDP(国内総生産)合計額は87・39兆ドルから94・94兆ドルへと、ほぼ横ばいの1・08倍にとどまったのに、金融経済指標の株価や債券価格はそれをはるかに上回って上昇。
モノの取引を伴わない投機的な金融取引には課税するなど規制が求められます。