ユダヤ人の親子描く2つの映画 幼い心 耕すおとなの真実の言葉
「ヒトラーに盗られたうさぎ」
「アーニャは、きっと来る」
=柴田 三吉=
かつて、人間は世界に投げ込まれた存在である、と言った哲学者がいる。
この言葉は多くの子どもたちが置かれた状況を思うとき、強い痛みを覚えずにいられない。戦火や災害、飢餓、自由を奪われた社会の下に生まれた彼らには、そこが世界の始まりであり、すべてと見えるからだ。
苦境の中にあっても子どもは喜びを模索するものだが、そのとき彼らを支えるのは、おとなたちの生きる姿勢と愛だろう。心も世界ももっと広く、豊かなのだと伝えることによって。
そうした思いを深くさせる作品が2編公開される。
ドイツ映画 27日から東京・シネスイッチ銀座ほか順次全国で公開
©2019,Sommerhaus Filmproduktion GmbH,La Siala Entertainment GmbH,NextFilm Filproduktion GmbH&Co.KG,Warner Bros.Entertainment GmbH
イギリス・ベルギー合作 27日から東京・新宿ピカデリーほか全国で公開
©Goldfinch Family Films Limited 2019
少女の成長物語 見る者に勇気が
「ヒトラーに盗られたうさぎ」と「アーニャは、きっと来る」で、前者の原作はジュディス・カー、後者はマイケル・モーパーゴ。ともに長く読まれてきた児童文学の名作だ。
「ヒトラーに盗られたうさぎ」は1933年、ナチの政権が成立する前夜から始まる。9歳の少女アンナ(リーヴァ・クリマロフスキ)は、兄とともに愛情豊かなユダヤ人家庭に育つ。だが演劇評論家の父はナチを厳しく批判していて、彼らが選挙で勝てばすぐにも迫害の手が伸びる。
ドイツ脱出を決意した家族はいったんスイスに逃れるものの、父の仕事の事情で再度パリへ移らねばならなくなる。そのつどアンナは言葉や習慣の違い、経済的な困窮による苦難を強いられるが、持ち前の聡明さを発揮して亡命生活に耐えていく。両親の毅然とした態度が彼女を力づけ、明日への希望を失わせない。
さらにイギリスへと移住するまでの3年間を、カロリーヌ・リンク監督は少女の伸びやかな成長物語として描き、見る者に勇気を与える。
困難に屈しない姿が重ねられる
「アーニャは、きっと来る」は、第2次大戦下の南フランス、のどかな山村が舞台で、純朴な羊飼いジョー(ノア・シュナップ)が主人公だ。こちらもベン・クックソン監督が少年の成長を痛みとともに描き、深い感銘を残す。
ある日、羊の番をしていたジョーは、ナチの迫害から逃れてきたユダヤ人ベンジャミンと出会う。列車で収容所へ送られる寸前に逃亡した彼は、その際、幼い娘アーニャを手放してしまい、妻の実家に隠れて再会を待つ身だ。
ベンジャミンはそこで義母とともに、孤児となった子どもたちをスペインへ逃がす活動をしている。秘密を知ったジョーは2人を手伝い始めるが、ドイツ軍が村を占拠して計画は行き詰まる。だが祖父と両親、軍に反感を持つ村人たちが協力し、国境越えの大がかりな方法を考え出す。そのとき娘を待つベンジャミンの取った行動が胸を打つ。
2作はともに史実を背景にしていて、そこに子どもに寄り添い、困難に屈しないおとなたちの姿が重ねられる。彼らが語る真実の言葉は幼い心を耕し、たとえ世界に投げ込まれた存在であっても人は生の奥深さ、命の尊さを知ることができるのだと教える。
コロナ禍をはじめ、さまざまな災厄で世界が狭められている今、私たちの社会も、そうした豊かな関わりが必要なのだと気づかされる作品だ。
(しばた・さんきち 詩人)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年11月23日付掲載
「ヒトラーに盗られたうさぎ」は少女の、「アーニャは、きっと来る」は少年の成長の物語。
ヒトラーの弾圧のもとでも、希望を失わず生きていこうとする。
「ヒトラーに盗られたうさぎ」は、シネ・リーブル神戸で12月11日から。
「アーニャは、きっと来る」は、神戸国際松竹で11月27日から公開。
お楽しみです。
「ヒトラーに盗られたうさぎ」
「アーニャは、きっと来る」
=柴田 三吉=
かつて、人間は世界に投げ込まれた存在である、と言った哲学者がいる。
この言葉は多くの子どもたちが置かれた状況を思うとき、強い痛みを覚えずにいられない。戦火や災害、飢餓、自由を奪われた社会の下に生まれた彼らには、そこが世界の始まりであり、すべてと見えるからだ。
苦境の中にあっても子どもは喜びを模索するものだが、そのとき彼らを支えるのは、おとなたちの生きる姿勢と愛だろう。心も世界ももっと広く、豊かなのだと伝えることによって。
そうした思いを深くさせる作品が2編公開される。
ドイツ映画 27日から東京・シネスイッチ銀座ほか順次全国で公開
©2019,Sommerhaus Filmproduktion GmbH,La Siala Entertainment GmbH,NextFilm Filproduktion GmbH&Co.KG,Warner Bros.Entertainment GmbH
イギリス・ベルギー合作 27日から東京・新宿ピカデリーほか全国で公開
©Goldfinch Family Films Limited 2019
少女の成長物語 見る者に勇気が
「ヒトラーに盗られたうさぎ」と「アーニャは、きっと来る」で、前者の原作はジュディス・カー、後者はマイケル・モーパーゴ。ともに長く読まれてきた児童文学の名作だ。
「ヒトラーに盗られたうさぎ」は1933年、ナチの政権が成立する前夜から始まる。9歳の少女アンナ(リーヴァ・クリマロフスキ)は、兄とともに愛情豊かなユダヤ人家庭に育つ。だが演劇評論家の父はナチを厳しく批判していて、彼らが選挙で勝てばすぐにも迫害の手が伸びる。
ドイツ脱出を決意した家族はいったんスイスに逃れるものの、父の仕事の事情で再度パリへ移らねばならなくなる。そのつどアンナは言葉や習慣の違い、経済的な困窮による苦難を強いられるが、持ち前の聡明さを発揮して亡命生活に耐えていく。両親の毅然とした態度が彼女を力づけ、明日への希望を失わせない。
さらにイギリスへと移住するまでの3年間を、カロリーヌ・リンク監督は少女の伸びやかな成長物語として描き、見る者に勇気を与える。
困難に屈しない姿が重ねられる
「アーニャは、きっと来る」は、第2次大戦下の南フランス、のどかな山村が舞台で、純朴な羊飼いジョー(ノア・シュナップ)が主人公だ。こちらもベン・クックソン監督が少年の成長を痛みとともに描き、深い感銘を残す。
ある日、羊の番をしていたジョーは、ナチの迫害から逃れてきたユダヤ人ベンジャミンと出会う。列車で収容所へ送られる寸前に逃亡した彼は、その際、幼い娘アーニャを手放してしまい、妻の実家に隠れて再会を待つ身だ。
ベンジャミンはそこで義母とともに、孤児となった子どもたちをスペインへ逃がす活動をしている。秘密を知ったジョーは2人を手伝い始めるが、ドイツ軍が村を占拠して計画は行き詰まる。だが祖父と両親、軍に反感を持つ村人たちが協力し、国境越えの大がかりな方法を考え出す。そのとき娘を待つベンジャミンの取った行動が胸を打つ。
2作はともに史実を背景にしていて、そこに子どもに寄り添い、困難に屈しないおとなたちの姿が重ねられる。彼らが語る真実の言葉は幼い心を耕し、たとえ世界に投げ込まれた存在であっても人は生の奥深さ、命の尊さを知ることができるのだと教える。
コロナ禍をはじめ、さまざまな災厄で世界が狭められている今、私たちの社会も、そうした豊かな関わりが必要なのだと気づかされる作品だ。
(しばた・さんきち 詩人)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年11月23日付掲載
「ヒトラーに盗られたうさぎ」は少女の、「アーニャは、きっと来る」は少年の成長の物語。
ヒトラーの弾圧のもとでも、希望を失わず生きていこうとする。
「ヒトラーに盗られたうさぎ」は、シネ・リーブル神戸で12月11日から。
「アーニャは、きっと来る」は、神戸国際松竹で11月27日から公開。
お楽しみです。
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