資本主義の現在と未来 気候変動④ 再エネ遅れる日本 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く
―世界で再生可能工ネルギーの普及が進む一方、日本は足踏み状態です。
問題の第一はエネルギー政策が再エネ優先になっていないことです。ドイツの固定価格買い取り制度の法律名は「再生可能エネルギー拡大法(旧・優先法)」といい、再エネが最優先だということが法律にはっきり書かれています。日本の固定価格買い取り制度には、その言葉がありません。
出力制御で損失
日本のエネルギー基本計画では、原発の電力を最も優先的に供給するベースロード電源と位置づけています。政府のエネルギーの将来見通しでは2030年の電源構成は再エネが36~38%、原発が20~22%、石炭が19%です。
多くの国が再エネ100%を目指すなか再エネ目標はあまりに低い一方、原発は現在の数%から大幅に引き上げ、新増設まで狙っています。世界が石炭火発ゼロに向かうなか石炭比率が19%というのもあり得ません。
こうした再エネ軽視政策を背景に起きているのが、再エネの出力制御です。日本では電力供給が需要を上回りそうなときは最初に火力発電の出力を50%程度まで減らし、次に太陽光や風力の出力を制御します。原発は最優先で供給されるうえ、火力も一定の出力が保障されます。
しかも発電側に対し出力制御は無補償かつ無制限に行われます。23年に出力制御された太陽光と風力の電力量は合計19・2億キロワット時に上り、45・1万世帯の年間電力消費量に相当します。つまり100万都市の家庭の年間消費電力量に匹敵する電力の売電収入が出力制御で失われたことになります。出力制御による損失は家庭の電気料金に換算して595億円です。
仮に出力制御をすべて石炭火発で実施していれば、海外からの石炭購入を約100億円節約でき、家庭の電気料金も安くなり、二酸化炭素の排出量も144万トン削減できたはずです。
出力制御によって売電収入が半分以下になり、太陽光発電所の建設資金の返済が難しくなる事業者も出てきています。農地での太陽光発電には重要な意義があるのですが、農家の間では太陽光発電に手をだしたら損をすると言われているという話も聞きました。
欧州では、電力供給の優先順位は追加の発電費用(限界費用)が低い順です。追加費用がかからない再エネが最優先で、原発、火力の順です。
送配電網も問題
―出力制御に加え、送配電網も問題になっています。
日本では、送配電網がないところに再エネの発電所をつくるには、送配電網を新たに引くための費用を発電側が負担しなければいけません。送配電網の設置に1億円かかると言われ、太陽光発電の設置を断念したケースもあります。
再エネを優先する国では、送配電網の設置費用の半分を国が持ったり、あらかじめ再エネ発電所を設置していい地域を決め、その地域に設置するときは送配電会社が送配電網を整備することになっていたりします。
日本では、送配電網はすでにあるのに枠が満杯で使えないといわれるケースも多くあります。この場合も、送配電網の強化や新設のための費用負担を求められます。
ところが、実際はほとんど枠がふさがっていない。日本では送配電網の利用は申し込み順で決まるため、原発の再稼働や石炭火力の新設を前提に送配電網の利用枠が埋められ、再エネが締め出されているのです。ここにも再エネ軽視の政府の姿勢が反映しています。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月6日付掲載
日本のエネルギー基本計画では、原発の電力を最も優先的に供給するベースロード電源と位置づけ。政府のエネルギーの将来見通しでは2030年の電源構成は再エネが36~38%、原発が20~22%、石炭が19%です。
多くの国が再エネ100%を目指すなか再エネ目標はあまりに低い一方、原発は現在の数%から大幅に引き上げ、新増設まで。
23年に出力制御された太陽光と風力の電力量は合計19・2億キロワット時に上り、45・1万世帯の年間電力消費量に相当。つまり100万都市の家庭の年間消費電力量に匹敵する電力の売電収入が出力制御で失われたことに。
送配電網の枠。実際はほとんど枠がふさがっていない。日本では送配電網の利用は申し込み順で決まるため、原発の再稼働や石炭火力の新設を前提に送配電網の利用枠が埋められ、再エネが締め出されている。
―世界で再生可能工ネルギーの普及が進む一方、日本は足踏み状態です。
問題の第一はエネルギー政策が再エネ優先になっていないことです。ドイツの固定価格買い取り制度の法律名は「再生可能エネルギー拡大法(旧・優先法)」といい、再エネが最優先だということが法律にはっきり書かれています。日本の固定価格買い取り制度には、その言葉がありません。
出力制御で損失
日本のエネルギー基本計画では、原発の電力を最も優先的に供給するベースロード電源と位置づけています。政府のエネルギーの将来見通しでは2030年の電源構成は再エネが36~38%、原発が20~22%、石炭が19%です。
多くの国が再エネ100%を目指すなか再エネ目標はあまりに低い一方、原発は現在の数%から大幅に引き上げ、新増設まで狙っています。世界が石炭火発ゼロに向かうなか石炭比率が19%というのもあり得ません。
こうした再エネ軽視政策を背景に起きているのが、再エネの出力制御です。日本では電力供給が需要を上回りそうなときは最初に火力発電の出力を50%程度まで減らし、次に太陽光や風力の出力を制御します。原発は最優先で供給されるうえ、火力も一定の出力が保障されます。
しかも発電側に対し出力制御は無補償かつ無制限に行われます。23年に出力制御された太陽光と風力の電力量は合計19・2億キロワット時に上り、45・1万世帯の年間電力消費量に相当します。つまり100万都市の家庭の年間消費電力量に匹敵する電力の売電収入が出力制御で失われたことになります。出力制御による損失は家庭の電気料金に換算して595億円です。
仮に出力制御をすべて石炭火発で実施していれば、海外からの石炭購入を約100億円節約でき、家庭の電気料金も安くなり、二酸化炭素の排出量も144万トン削減できたはずです。
出力制御によって売電収入が半分以下になり、太陽光発電所の建設資金の返済が難しくなる事業者も出てきています。農地での太陽光発電には重要な意義があるのですが、農家の間では太陽光発電に手をだしたら損をすると言われているという話も聞きました。
欧州では、電力供給の優先順位は追加の発電費用(限界費用)が低い順です。追加費用がかからない再エネが最優先で、原発、火力の順です。
送配電網も問題
―出力制御に加え、送配電網も問題になっています。
日本では、送配電網がないところに再エネの発電所をつくるには、送配電網を新たに引くための費用を発電側が負担しなければいけません。送配電網の設置に1億円かかると言われ、太陽光発電の設置を断念したケースもあります。
再エネを優先する国では、送配電網の設置費用の半分を国が持ったり、あらかじめ再エネ発電所を設置していい地域を決め、その地域に設置するときは送配電会社が送配電網を整備することになっていたりします。
日本では、送配電網はすでにあるのに枠が満杯で使えないといわれるケースも多くあります。この場合も、送配電網の強化や新設のための費用負担を求められます。
ところが、実際はほとんど枠がふさがっていない。日本では送配電網の利用は申し込み順で決まるため、原発の再稼働や石炭火力の新設を前提に送配電網の利用枠が埋められ、再エネが締め出されているのです。ここにも再エネ軽視の政府の姿勢が反映しています。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月6日付掲載
日本のエネルギー基本計画では、原発の電力を最も優先的に供給するベースロード電源と位置づけ。政府のエネルギーの将来見通しでは2030年の電源構成は再エネが36~38%、原発が20~22%、石炭が19%です。
多くの国が再エネ100%を目指すなか再エネ目標はあまりに低い一方、原発は現在の数%から大幅に引き上げ、新増設まで。
23年に出力制御された太陽光と風力の電力量は合計19・2億キロワット時に上り、45・1万世帯の年間電力消費量に相当。つまり100万都市の家庭の年間消費電力量に匹敵する電力の売電収入が出力制御で失われたことに。
送配電網の枠。実際はほとんど枠がふさがっていない。日本では送配電網の利用は申し込み順で決まるため、原発の再稼働や石炭火力の新設を前提に送配電網の利用枠が埋められ、再エネが締め出されている。
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