危険な経済秘密保護法案⑤ 学術研究に大きなひずみ
東北大学名誉教授 井原聰さん
岸田文雄政権は「国際ビジネスの展開」「同盟・同志国との連携強化」をあげて「セキュリティークリアランス(適性評価)」の必要性をうたいます。
しかし国際社会では、国家の情報開示こそ民主主義社会の基盤だとの潮流が生まれています。その一つ、2013年に発表された「ツワネ原則」(「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」)は、国家が一定の情報を非公開とすることを認めつつ、こう述べています。
情報の公開と非公開との間で適切な均衡を取ることが民主主義社会にとって非常に重要であり、また、社会の安全、進歩、発展および福祉、ならびに人権および基本的自由を完全に享受するためには不可欠である。
同原則は70カ国以上、500人超の専門家の議論を経て南アフリカのツワネでつくられたものです。日本の適性評価を語る有識者や政府には真摯(しんし)に耳を傾けてほしいものです。
警察と検察の違法捜査を認め、国と都に賠償を命じた地裁判決を受けて会見する大川原社長(左から2人目)ら=2023年12月27日(東京都千代田区)
知る権利を制限
米国には行政監察権や機密解除請求権をもつ情報保全監察局など、政府による情報管理の恣意(しい)的運用を監査するシステムがあります。
一方、今回の法案は政府が都合の悪い情報を隠し、広範な分野を対象に自由に情報を機密にして国民の知る権利を制限することができるような仕組みになっています。
政府は、適性評価の法制化を米国にならうとしていますが、秘密指定と解除など制度の乱用を規制する監査システムを学ぶつもりはないようです。
経済安全保障推進法(22年成立)で指定された特定重要物資12件を扱う事業者、基幹インフラの15事業者やその下請け業者、大学や研究機関まで数えると、膨大な数の適性評価対象者の身辺調査を行うことになります。内閣調査室、警視庁公安部、防衛省、経済産業省など国民監視のシステムが作動し、監視社会の出現が予想されます。
えん罪の温床に
法案には、何が機密なのかの定義がないので、捜査機関の恣意的な運用による冤罪(えんざい)事件の温床になりかねません。軍事転用可能な装置を不正輸出したと捜査機関が事実をでっちあげ、社長らが逮捕・起訴された大川原化工機事件のような冤罪事件が繰り返されかねません。「忖度(そんたく)」「天下り」など民と官の癒着で事業の健全な発展が阻害される危険性もあります。
研究者の場合、研究発表、自由な討論、研究交流ばかりでなく研究施設にも規制がかかります。
研究のプライオリティ(優先度)や特許申請、産学連携での秘密保持契約などで研究やその成果の秘密を自主的に秘密にすることは研究インテグリティ(公正)として行われています。
しかし罰則付きで国家権力による監視を受ければ、若手研究者の育成にも悪影響が予想され、学術研究体制に戦時中のような大きなひずみをもたらすことになるでしょう。
先端的軍事技術の国際共同研究への参入や、先端技術による軍需産業の基盤構築といった大軍拡に資する適性評価制度の法制化はなんとしても阻止しなければなりません。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年3月8日付掲載
政府は、適性評価の法制化を米国にならうとしていますが、秘密指定と解除など制度の乱用を規制する監査システムを学ぶつもりはないよう。
経済安全保障推進法(22年成立)で指定された特定重要物資12件を扱う事業者、基幹インフラの15事業者やその下請け業者、大学や研究機関まで数えると、膨大な数の適性評価対象者の身辺調査を行うことに。
法案には、何が機密なのかの定義がないので、捜査機関の恣意的な運用による冤罪(えんざい)事件の温床になりかねません。
研究者の場合、研究発表、自由な討論、研究交流ばかりでなく研究施設にも規制が。
東北大学名誉教授 井原聰さん
岸田文雄政権は「国際ビジネスの展開」「同盟・同志国との連携強化」をあげて「セキュリティークリアランス(適性評価)」の必要性をうたいます。
しかし国際社会では、国家の情報開示こそ民主主義社会の基盤だとの潮流が生まれています。その一つ、2013年に発表された「ツワネ原則」(「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」)は、国家が一定の情報を非公開とすることを認めつつ、こう述べています。
情報の公開と非公開との間で適切な均衡を取ることが民主主義社会にとって非常に重要であり、また、社会の安全、進歩、発展および福祉、ならびに人権および基本的自由を完全に享受するためには不可欠である。
同原則は70カ国以上、500人超の専門家の議論を経て南アフリカのツワネでつくられたものです。日本の適性評価を語る有識者や政府には真摯(しんし)に耳を傾けてほしいものです。
警察と検察の違法捜査を認め、国と都に賠償を命じた地裁判決を受けて会見する大川原社長(左から2人目)ら=2023年12月27日(東京都千代田区)
知る権利を制限
米国には行政監察権や機密解除請求権をもつ情報保全監察局など、政府による情報管理の恣意(しい)的運用を監査するシステムがあります。
一方、今回の法案は政府が都合の悪い情報を隠し、広範な分野を対象に自由に情報を機密にして国民の知る権利を制限することができるような仕組みになっています。
政府は、適性評価の法制化を米国にならうとしていますが、秘密指定と解除など制度の乱用を規制する監査システムを学ぶつもりはないようです。
経済安全保障推進法(22年成立)で指定された特定重要物資12件を扱う事業者、基幹インフラの15事業者やその下請け業者、大学や研究機関まで数えると、膨大な数の適性評価対象者の身辺調査を行うことになります。内閣調査室、警視庁公安部、防衛省、経済産業省など国民監視のシステムが作動し、監視社会の出現が予想されます。
えん罪の温床に
法案には、何が機密なのかの定義がないので、捜査機関の恣意的な運用による冤罪(えんざい)事件の温床になりかねません。軍事転用可能な装置を不正輸出したと捜査機関が事実をでっちあげ、社長らが逮捕・起訴された大川原化工機事件のような冤罪事件が繰り返されかねません。「忖度(そんたく)」「天下り」など民と官の癒着で事業の健全な発展が阻害される危険性もあります。
研究者の場合、研究発表、自由な討論、研究交流ばかりでなく研究施設にも規制がかかります。
研究のプライオリティ(優先度)や特許申請、産学連携での秘密保持契約などで研究やその成果の秘密を自主的に秘密にすることは研究インテグリティ(公正)として行われています。
しかし罰則付きで国家権力による監視を受ければ、若手研究者の育成にも悪影響が予想され、学術研究体制に戦時中のような大きなひずみをもたらすことになるでしょう。
先端的軍事技術の国際共同研究への参入や、先端技術による軍需産業の基盤構築といった大軍拡に資する適性評価制度の法制化はなんとしても阻止しなければなりません。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年3月8日付掲載
政府は、適性評価の法制化を米国にならうとしていますが、秘密指定と解除など制度の乱用を規制する監査システムを学ぶつもりはないよう。
経済安全保障推進法(22年成立)で指定された特定重要物資12件を扱う事業者、基幹インフラの15事業者やその下請け業者、大学や研究機関まで数えると、膨大な数の適性評価対象者の身辺調査を行うことに。
法案には、何が機密なのかの定義がないので、捜査機関の恣意的な運用による冤罪(えんざい)事件の温床になりかねません。
研究者の場合、研究発表、自由な討論、研究交流ばかりでなく研究施設にも規制が。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます