きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

軍拡と財政金融危機③ 国民は「タケノコ生活」

2022-10-26 07:28:16 | 予算・税金・消費税・社会保障など
軍拡と財政金融危機③ 国民は「タケノコ生活」
群馬大学名誉教授 山田博文さん

自民党の国防部会は、軍事費増額の財源に「防衛国債」を検討しているようです。
歴史的に軍事費調達と国債制度は密接な関係を持ってきました。軍事費調達が国王や権力者の借金や私債だと、資金の貸し手はたびたび踏み倒されてきました。そこで16世紀ごろから、税収を担保にし、永久機関とみなされる議会の議決を通して発行される国債によって軍事費が調達されるようになりました。

「致富の主源泉」
国王や政権が変わっても国家の債権者である国債投資家の利益(国債利子や元本の受け取り、売買差益)は持続するからです。しかも、国債は将来の税収の先取り消費なので、国民の反発に直面する増税を避けつつ巨額の軍事費を一挙に調達できるからです。国家の債権者になる大資本や富裕層にとっては、「国家が負債に陥ることは、むしろ直接の利益…致富の主源泉」(マルクス)になりました。
戦前日本の軍事費調達は、日露戦争期ではロンドン、ニューヨークで外債を発行し、海外から軍事費を調達しました。日本は遅れて発達した資本主義経済国のために、国内貯蓄が貧弱だったからです。その後の満州事変・日中戦争・太平洋戦争期では、欧米と敵対したので外債の発行は不可能になりました。また国内貯蓄も貧弱のため、日本銀行に直接国債を引き受けさせ、日銀から軍事費が調達されました。(図)
1932年に始まった国債の日銀引き受けは「窮余の一策」であり、かつ「新機軸」(当時の日銀副総裁・深井英五)でした。日銀引き受けに依存して青天井で調達できた軍事費は、国家予算全体(一般会計+臨時軍事費特別会計の純計)の85・5%(44年度)に達しました。
膨大な軍事費が民間貯蓄でなく日銀から調達され、財政ルートで軍需企業・従業員・兵士と遺族などへ広範囲に散布されたため、終戦を契機に爆発的なインフレが発生しました。戦後はこれを教訓に財政資金を日銀から調達することが禁止(財政法第4条)されました。





川崎重工が建造した潜水艦「こくりゅう」(海上自衛隊のホームページから)

国民の資産収奪
終戦間際の政府債務は、当時の経済規模の約2・6倍に達し、日本は戦争で「政府債務大国」になりました。問題は、この膨大な政府債務が終戦後どのように解消されたか、です。現代日本の政府債務の対国内総生産(GDP)比も、当時の水準に等しい2・6倍ですから、この問題は歴史的な教訓となるでしょう。
第1に、46年2月、預金封鎖と新円切り替えが同時に実施されました。タンス預金の旧円は使用不能になり、生活のための預金の引き下ろしは世帯主でも月額300円に制限されました。国家によって国民の金融資産が差し押さえられました。
第2に、同年11月、最高税率90%の財産税が国民の金融資産だけでなく、田畑・山林・家屋などの不動産にも課税されました。この莫大(ばくだい)な税収が政府債務の返済に充てられました。「徴税権の行使」という形での国民からの大収奪によって政府債務が「返済」されました。
第3に、インフレによる債務解消です。物価は終戦から4年目には約220倍に上がりました。これで政府債務の金銭的負担は220分の1に減ったことになります。インフレは債務解消の主要な手段ですが、国民は物価暴騰に直撃され、「タケノコ生活」(タケノコの皮を1枚ずつはぐように身の回りの物を売って資金を得る暮らし)を強いられました。
戦争目的であれ、景気対策であれ、財政補てんであれ、増発された国債は政府の背負った借金です。国債の大部分が自国通貨建てで、国内で消化された場合、財政運営が行き詰まると、最後の打開策として国民からの資産収奪が強行される、というのが教訓です。
「国債が国内で消化できていれば大丈夫」ということでは決してありません。大収奪の犠牲になるのは国民だからです。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年10月20日付掲載


1932年に始まった国債の日銀引き受けは「窮余の一策」であり、かつ「新機軸」(当時の日銀副総裁・深井英五)。日銀引き受けに依存して青天井で調達できた軍事費は、国家予算全体(一般会計+臨時軍事費特別会計の純計)の85・5%(44年度)に達し。
戦争目的であれ、景気対策であれ、財政補てんであれ、増発された国債は政府の背負った借金です。国債の大部分が自国通貨建てで、国内で消化された場合、財政運営が行き詰まると、最後の打開策として国民からの資産収奪が強行される、というのが教訓。
それは、決して許してはならない。税金は負担能力に応じて。

軍拡と財政金融危機② 大学を軍事領域に動員

2022-10-25 07:09:35 | 予算・税金・消費税・社会保障など
軍拡と財政金融危機② 大学を軍事領域に動員
群馬大学名誉教授 山田博文さん

岸田文雄政権がねらう10兆円以上への軍事予算の倍増は、日米の軍需企業の軍事ビジネスを活発化させ、政府相手の安定した巨額の利益を保証するでしょう。
倍増される軍事費の恩恵は少数の軍需独占企業の経営を好転させるだけで、国内経済への波及効果は期待できません。軍事予算とその配分は、防衛省から天下りを受け入れる三菱重工など経団連傘下の大企業と、それらの大企業から多額の政治献金を受け取る政府与党の自民党など、政界・官界・財界の三位一体的な癒着の構造の中で決定されるからです。




上位10社で64%
2022年度の軍事関係費(21年度補正を含む)は5兆8661億円でした。その内訳は、約23万人の自衛隊員の給与・退職金などの人件費・糧食費関係で37・2%(2兆1847億円)、隊員の訓練費や兵器の整備・修理費関連で24・7%(1兆4488億円)を費消し、戦車・護衛艦・戦闘機などの兵器(「防衛装備品」と表示される)の購入予算は、22・4%(1兆3138億円)でした。
日本の軍需企業の実際の兵器受注額は、21年度、1兆8031億円でした。三菱重工や川崎重工など日本を代表するごく少数の巨大軍需企業がこの1兆8031億円を独占的に受け取りました。わずか上位5社で、兵器受注額の51・6%、上位10社では64・2%を独占しました(図)。軍事予算の配分先は、上位10社とその系列会社の中に閉じ込められてしまい、経済的な波及効果などありません。
軍事予算は、経済的には再生産外の消費であり、国民経済にとって無駄遣いの筆頭です。しかも、戦争は人命・街・環境を破壊します。また日米両政府は軍拡の背景として「台湾有事」などをあげ、自国にとって最大の貿易相手国である中国を仮想敵国にしています。もし戦火を交えたら日米は中国だけでなく自国の経済をも破壊する深い経済依存関係にあります。こんな戦争には真っ先に経済界が反対するでしょう。

「軍産学複合体」
現代の戦争は「宇宙・サイバー・電磁波」の領域にまたがる先端的な科学技術を駆使して行われています。かつて米アイゼンハワー大統領が警告した「軍産複合体」は、現代では「軍産学複合体」となって機能しています。
近年の日本で注目されるのは、大学の研究能力が軍事領域に動員されていることです。それによって、大学の自治・学問研究の自由・教員の境遇などが侵されています。とくに目立つのは、04年に国立大学法人になって以降の国立大学です。
第1に、教育研究の担い手である教員と教授会の意向が大学運営に反映されにくくなり、外部の有力者からなる役員会で学長・学部長人事が行われるようになりました。
第2に、教員が自主的に使用できる研究費は削減され、防衛省・大手企業のひも付き研究費が提供されるようになりました。今年、軍事研究開発費(3257億円)はとうとう科学研究費助成(2377億円)を上回りました。研究成果を学会で発表しようと思っても、守秘義務を強いられ、スポンサーからブレーキがかかり、「人類社会の福祉に貢献」(日本学術会議法・前文)する道が閉ざされがちです。
第3に、教員の新規採用に当たって任期付き採用が増えました。全国86の国立大学に勤める40歳未満の若手教員のうち、じつに63%が5年間の任期付き採用(16年度)です。5年で研究成果が出ないと6年目には不採用になる境遇では、長期におよぶ大きな創造的テーマの研究は不可能であり、すぐに成果の出る小さなテーマを選択せざるを得ません。教育に十分な時間をあてることもできなくなりました。
こんな現状では、日本の科学技術の発展は現在も将来も期待できず、他国に追い抜かれていく一方でしょう。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年10月19日付掲載


2022年度の軍事関係費(21年度補正を含む)は5兆8661億円。その内訳は、約23万人の自衛隊員の給与・退職金などの人件費・糧食費関係で37・2%(2兆1847億円)、隊員の訓練費や兵器の整備・修理費関連で24・7%(1兆4488億円)を費消し、戦車・護衛艦・戦闘機などの兵器(「防衛装備品」と表示される)の購入予算は、22・4%(1兆3138億円)。
日本の軍需企業の実際の兵器受注額は、21年度、1兆8031億円。三菱重工や川崎重工など日本を代表するごく少数の巨大軍需企業がこの1兆8031億円を独占的に受け取りました。わずか上位5社で、兵器受注額の51・6%、上位10社では64・2%を独占しました。軍事予算の配分先は、上位10社とその系列会社の中に閉じ込められてしまい、経済的な波及効果などありません。

軍拡と財政金融危機① 軍事ビジネスが活発化

2022-10-24 07:05:39 | 予算・税金・消費税・社会保障など
軍拡と財政金融危機① 軍事ビジネスが活発化
群馬大学名誉教授 山田博文さん

ウクライナ戦争や「台湾有事」などを理由に、岸田文雄政権は今後5年間で軍事費を2倍に増大させ、国内総生産(GDP)の2%にすることを目指しています。軍事と経済・財政・金融の関係について、群馬大学の山田博文名誉教授に寄稿してもらいました。

軍事費を倍増させると、日本は米中に次ぐ世界第3位の軍事費大国に躍り出ます。
戦争は歴史的に政府の経費膨張の大きな要因(ピーコック・ワイズマン「経費膨張の法則」)として作用してきました。20世紀末の冷戦終了後、世界の軍事費は一時的に減少しましたが、21世紀に増大に転じました。
世界各国の軍事費総額(2021年)は、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2兆1130億ドル(約232兆円)です。なかでも米国は、世界の軍事費の約4割(37・9%)を占める突出した軍事大国です。次いで中国13・8%、インド3・6%、英国3・2%、ロシア3・1%と続きます。
もし日本の軍事費が倍増し、1082億ドルになると、766億ドルのインドを超えて、世界第3位の軍事費大国になります。低迷しているとはいえ、日本のGDPは世界第3位で政府予算も大きいため、軍事費の絶対額は今でも世界第9位だからです。




裏に「死の商人」
周知のように、第2次安倍晋三政権以降、政府と経団連は軍備を増強する軍拡路線に走りました。軍事予算を増大させ、防衛装備庁を新設し、官民一体となって日本製兵器の増強と輸出にまい進し、軍事ビジネスを活発化させてきました。
利益追求を最優先する企業にとって軍事予算は安定した収入源です。不景気でも売上高は減らず、秘密主義なので値段も弾力的に設定でき、最終価格が当初価格を上回るのが通例のようです。
戦争になると膨大な兵器が使用されるので、軍需産業は活気づきます。売り上げが増え、株価も上がり、報酬も増えます。兵器を製造販売する企業は、戦争によって肥え太る「死の商人」とも言われます。戦争の背後に軍事ビジネスあり、です。
世界のGDP(96・1兆ドル)の約2%に達する巨額の軍事費(2・1兆ドル)は、軍事ビジネスの経済基盤です。ごく少数の巨大軍需企業が軍事費を独占しています。
世界の軍需企業の兵器の売上高(21年、1ドル=110円で日本円に換算)をみると、F35戦闘機などを各国に販売する米国のロッキード・マーチン社が7・1兆円(644億ドル)で突出しています。次いでミサイルなどを販売するレイセオン社4・6兆円(418億ドル)、オスプレイを販売するボーイング社3・8兆円(350億ドル)など、米国の軍需企業の売上高は群を抜き、上位を独占しています。(図)

「マッチポンプ」
これらの巨大軍需企業は、自国の軍事予算だけでなく、各国の軍事予算を自社製兵器の販売市場に組み込んでいます。米国製兵器を輸入する日本の防衛省と軍事予算は米軍需企業の売上高に貢献しています。戦後の軍事ビジネスは、米国政府・国防総省・軍需企業をピラミッドの頂点にしたグローバルなビジネスとして展開されてきました。
イラク戦争(2003~11年)の戦費総額は、米国の経済学者ジョセブ・スティグリッツとリンダ・ビルムズによれば、4兆~6兆ドル(約450兆~670兆円)でした。この莫大(ばくだい)な戦費をめぐって、当時の米ブッシュ政権幹部と軍需関連産業との癒着が問題とされました。チェイニー副大統領は軍需関連部門を抱えるハリバートン社の最高経営責任者であり、ラムズフェルド国防長官は、ハイテク産業のゼネラル・インスツルメントの最高経営責任者でした。米国の国際開発局がイラク復興の大規模事業を発注した企業は、元国務長官のシュルツが役員を務めるプラント建設大手のベクテル社でした。
政府と軍需産業が癒着する軍事ビジネスは、右手で破壊し、左手で復興する「マッチポンプ」のようなビジネスです。
(つづく)(5回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年10月18日付掲載


世界各国の軍事費総額(2021年)は、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2兆1130億ドル(約232兆円)です。なかでも米国は、世界の軍事費の約4割(37・9%)を占める突出した軍事大国。次いで中国13・8%、インド3・6%、英国3・2%、ロシア3・1%と続く。
もし日本の軍事費が倍増し、1082億ドルになると、766億ドルのインドを超えて、世界第3位の軍事費大国に。低迷しているとはいえ、日本のGDPは世界第3位で政府予算も大きいため、軍事費の絶対額は今でも世界第9位だから。
イラク戦争(2003~11年)の戦費総額は、米国の経済学者ジョセブ・スティグリッツとリンダ・ビルムズによれば、4兆~6兆ドル(約450兆~670兆円)。
米国の国際開発局がイラク復興の大規模事業を発注した企業は、元国務長官のシュルツが役員を務めるプラント建設大手のベクテル社。政府と軍需産業が癒着する軍事ビジネスは、右手で破壊し、左手で復興する「マッチポンプ」のようなビジネスです。

デジタル化の行方 第3部 溶ける公教育⑤ 人と人が響きあう

2022-10-23 06:39:31 | 予算・税金・消費税・社会保障など
デジタル化の行方 第3部 溶ける公教育⑤ 人と人が響きあう
政府は、1人1台端末などのデジタル技術を基盤に、教師が大勢の子どもをいっせいに教える現在の授業を、一人ひとりの子どもに応じた「個別最適な学び」へ転換するといいます。その際も、探究的な学習では「協働」を重視するといいます。

個別指導
障害児が通う首都圏の特別支援学校高等部(肢体不自由)に勤める男性教師は、「個別最適な学び」と、特別支援教育で文部科学省が強調してきた「個別の指導計画」に基づく授業との共通性を指摘します。
身体障害の様相などは生徒ごとに異なるため、現場の教師も障習に応じて個別指導した方が効率的との考えになりやすいといいます。男性は、個別の指導計画は必要だとしつつ、個別指導には抵抗を感じます。個別指導の授業では優等生なのに、他の学校生活場面や家庭ではわざとおとなを困らせる「お試し行動」を繰り返す生徒を見てきたからです。モットーは「学校だからこそ集団で学ぶことを大事にしたい」です。
大相撲の絵本『はっきょい どーん』を使った授業では、決めぜりふの場面でいっせいに声をあげて盛り上がり、子どももピーナッツ型バルーンにまたがって四股(しこ)を踏み、最後はバルーンを押し合い真剣勝負。対戦では、普段は体の姿勢がうつむきがちの生徒も顔を上げ、負けた生徒は涙を流して悔しがりました。
同じように重い障害がある友達の姿に刺激され、夢中で体を動かし、真剣勝負では感情を揺さぶられ、心を強く豊かにする―。人とのかかわり方を学ぶなかで、「お試し行動」が減った生徒もいるといいます。
男性は、人と人との関係性のなかで成長するのは障害の有無に関わらない人間の本質的なあり方だと指摘。集団学習は、生徒同士のライバル心など、普段の学校生活の関係性のうえに成立するもので、政府のいう「協働的な学び」とは別物だと語ります。



絵本『はっきょい どーん』

予算に差
関西地方の特別支援学校高等部(知的障害)に勤める女性教師は、昨年の全国障害者問題研究会全国大会で、有機物と無機物の違いを実験で確かめた実践を報告しました。
理科室で塩や砂糖を火であぶる実験を通じて、生徒たちは「土はどっちなん?」と問題意識を発展。授業計画を変更して土を燃やすと、「土は有機物やけど、石とか砂とか無機物が混じっている」との認識に自力で到達しました。自分に自信が持てず、「難しい」と思うと「気に考える力がしぼんでいた子どもたちが、実験を機に学びへの負欲さを表に出すようになったと報告しました。
参加者からは実践への共感と、学校に理科室があるという本来当たり前のことへの憧れの声があがりました。多くの特別支援学校が教室不足に直面し、音楽室や理科室などの特別教室を普通教室に転用しているからです。
「誰一人取り残されない」というデジタル化の標語の陰で、特別支援学校の教室不足は全国で3740に達します。文科省は昨年、教室不足を解消するため特別支援学校の設置基準を初めて制定し、特別教室を校舎に備えるべき施設として定めたものの、既存校には適用されません。
女性は、老朽化が進み雨漏りもある勤務校の校舎が建て替えられないなか、デジタル機器にだけ潤沢な予算がつくことの憤りを語ります。
「物価高の影響で消耗品の予算が足りなくなりつつあり、授業に必要なコピー用紙や画用紙まで使用を制限するように言われています。それなのにタブレットは1人1台が完了した後も毎年新品が追加で支給されます。強い違和感です」
(シリーズ第3部おわり。佐久間亮が担当しました)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年10月21日付掲載


男性は、個別の指導計画は必要だとしつつ、個別指導には抵抗を感じます。個別指導の授業では優等生なのに、他の学校生活場面や家庭ではわざとおとなを困らせる「お試し行動」を繰り返す生徒を見てきたからです。モットーは「学校だからこそ集団で学ぶことを大事にしたい」です。
大相撲の絵本『はっきょい どーん』を使った授業では、決めぜりふの場面でいっせいに声をあげて盛り上がり、子どももピーナッツ型バルーンにまたがって四股(しこ)を踏み、最後はバルーンを押し合い真剣勝負。対戦では、普段は体の姿勢がうつむきがちの生徒も顔を上げ、負けた生徒は涙を流して悔しがりました。
「誰一人取り残されない」というデジタル化の標語の陰で、特別支援学校の教室不足は全国で3740に達します。文科省は昨年、教室不足を解消するため特別支援学校の設置基準を初めて制定し、特別教室を校舎に備えるべき施設として定めたものの、既存校には適用されません。
女性は、老朽化が進み雨漏りもある勤務校の校舎が建て替えられないなか、デジタル機器にだけ潤沢な予算がつくことの憤りを語ります。
予算の付け方に、無駄やムラが…。本来付けるべきところに予算を。

デジタル化の行方 第3部 溶ける公教育④ 「世界一幸せ」な教室

2022-10-22 07:11:16 | 予算・税金・消費税・社会保障など
デジタル化の行方 第3部 溶ける公教育④ 「世界一幸せ」な教室
佐藤比呂二・都留文科大学特任教授は、国立がん研究センター内に設置された院内学級「いるか分教室」で教師として過ごした7年間、小児がんを抱えながら命を輝かせる子どもの力強さと、教育の持つ可能性の広さを感じたといいます。

向き合う
病気によって突然日常が断たれ、「なぜ自分なのか」とふさぎ込んだり、病気自体を否定したりする子どもたち。佐藤さんはそうした子どもたちが、教師や医療者、なにより子ども同士のかかわりのなかで変化する姿を見てきました。
入院したころは教師が近づくと布団をかぶって寝たふりをしていた子どもが、同じ病気の体験者の話をきっかけに教室に来るようになり、一時退院できる日も「友達がいるから退院したくない」と言いだす。中学3年間を病院で過ごした子どもが「自分は世界一幸せな中学生」と語る―。
「スポーツに打ち込んでいた子が脚を切断しなければならないこともあるし、退院した子が再発して戻ってくることもある。そうした子どもたちが『いるか』のなかでは患者であることを忘れて仲間や教師と交流し、病気を人生の一部として向き合うように変わっていく。そこに院内学級の役割があります」



「いるか分教室」で授業する佐藤さん(佐藤さん提供)

政府はデジタル技術を、子どもたちが直面するさまざまな困難や格差を乗り越える「重要な鍵」と位置づけます。インターネットで世界をつなげば、病気で入院中でも同級生と交流したり、学校の授業を受けたりできるともいいます。
佐藤さんは「そんな単純な話ではない」と語ります。がんになった子どもの苦しみは教師や家族、親友であっても共有できず、普通の生活を送っている同級生に嫉妬する子どもや、友達に会いたくないと語る子どももいるといいます。
「『いるか』には、入院のつらい日々を『世界一幸せ』に変える可能性があります。それを可能にするのは、同じようにがんと向き合う子ども同士の交流や、子どもの心を受けとめようとする教師たちの存在です。子どもの心を支える人間がいなければ、デジタル機器だけでは問題は解決しません」(佐藤さん)

整備遅れ
同時に、「いるか」を含め病弱教育に対する行政の体制は薄く、教師たちの情熱で支えられているのが実態だと指摘します。
栗山宣夫・育英短期大学教授(全国病弱教育研究会副会長)の2020年の調査によれば、小児がん診療拠点病院全15病院と小児がん連携病院のうちの93病院、計108病院のうち院内学級が設置されている病院は小学生で76%、中学生で72%にとどまります。訪問教育と合わせればほぼ100%となるものの、多くの訪問教育が週3回、1日2コマ程度。高校生のための院内学級は極めて少ない状態です。
「誰一人取り残されない」「学びを止めない」という標語とセットで教育のデジタル化が巨額の予算をかけて進められる一方、子ども同士がつながり励まし合う場となっている院内学級の整備は大きく遅れています。
栗山さんは、デジタル技術の導入だけが新型コロナを機に進むことを危惧します。「デジタル技術は使い方次第で有効な教材になりますが、限界もあり、対面でしかできない理解や支援もあります。ニーズに応じて選択できる環境の整備が必要です。すべてデジタル技術に置き換えられるかのような議論は危険です」
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年10月20日付掲載


入院したころは教師が近づくと布団をかぶって寝たふりをしていた子どもが、同じ病気の体験者の話をきっかけに教室に来るようになり、一時退院できる日も「友達がいるから退院したくない」と言いだす。中学3年間を病院で過ごした子どもが「自分は世界一幸せな中学生」と語る―。
政府はデジタル技術を、子どもたちが直面するさまざまな困難や格差を乗り越える「重要な鍵」と位置づけます。インターネットで世界をつなげば、病気で入院中でも同級生と交流したり、学校の授業を受けたりできるともいいます。
佐藤さんは「そんな単純な話ではない」と語ります。がんになった子どもの苦しみは教師や家族、親友であっても共有できず、普通の生活を送っている同級生に嫉妬する子どもや、友達に会いたくないと語る子どももいるといいます。
貴重な役割を果たす「院内学級」。設置率の拡充が求められます。