里村専精師「浄土真宗にようこそ」No80をお届けします。
「雑行を棄てて本願に帰す」と親鸞は記しています。
「建仁辛酉の暦」は1201年のことで、親鸞二十九才のことです。
なのに「帰る」という言葉は、「往く」という反対の言葉と不思議な呼応を見せています。
親鸞は「往生決定」した自分を、「雑行を棄てて本願に帰す」と記しているのですから。
この不思議な取り合わせは、親鸞の学びの秘密を物語っているのではないでしょうか。
「帰る」というも「往く」というも、共に世間を超えてという学びの事だからです。
仏道を学ぶ親鸞が、内なる自己の中に閉鎖する学びを転換して、自らを仏道に委ねているのです。
自らを委ねて、親鸞は仏道の学びを自意識から解放して、生命存在全体の歩みにしているのです。
「帰り・往く」という学びが、法然の教えによって始めて頷けたのです。
この時から、親鸞には始めて仏道の学びの形が知られました。
人間の学びなのだけれど、人間が学ぶのではなく、ブッダによって照らされて学ぶものだったと。
「他力本願に帰した」という態度が、これ以後の親鸞の学びの形でした。
仏道の行が、如来本願によって開示されていたのかという驚きがありました。
が、やがてそれは七祖たちに一貫する学びだと確信します。
法然だけではないが、ごく少数でしたが脈々とした仏道の正しい伝承がありました。
如来他力の大行は、親鸞一人を待って包んでくれるものでした。
この大行に帰して、親鸞は往く道に確信を持つことが出来たのです。
大行に「帰した」親鸞は、自ら仏道を「往く」親鸞です。
その心には、人間の私情を超えて万人を運ぶ大信が開かれました。
仏道そのものの、深い願心が今更のように知られたのです。
報恩という大信の世界が、親鸞に開かれました。
「雑行を棄てて本願に帰す」という言葉に、大切な学びがあります。
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