『哀れなるものたち』で見る者の度肝を抜いたヨルゴス・ランティモス監督の新作、『憐れみの3章』(Kinds of Kindness)が早くも公開された。題名通り中編映画が3つ合わさったオムニバス映画で、一編はそんなに長く感じないが合計すると165分もある。内容もこの監督らしい奇怪という他ない作品で、こういうのはすぐに上映が少なくなると思ったので、早速見て来た。
この映画は間違いなく傑作で、見ていて非常に面白い。だけど、前作、あるいはその前の『女王陛下のお気に入り』などと同様に、嫌いな人も多いと思う。初めから終わりまで不穏なムードに包まれ、意味もよく理解できない設定で物語が延々と続く。3編すべて見る者を不愉快にする映画で、映画を見てスカッとしたい、感動を貰いたいなんて思う人は見てはならない。映像も演技も素晴らしいと思うが、この設定に入り込めない人がいても不思議ではない。説明抜きで映画が進むから、訳がわからない迷路の中で迷いつつ見る方が面白い。だからここで詳しく書いてしまうのは避けたいと思う。
(第1話)
各章は「R.M.F.」という名が付いている。R.M.F. の死、R.M.F. は飛ぶ、R.M.F. サンドイッチを食べるの3編だが、この意味も後で考えてそういうことかと思うけど、まあバカにしたような付け方である。そして、3編それぞれ同じ俳優が違う人物を演じている。最近3作連続で主演し、『哀れなるものたち』でアカデミー賞主演女優賞を獲得したエマ・ストーン、前作でも重要な役をやっていたウィレム・デフォー、そして今作でカンヌ映画祭男優賞を獲得したジェシー・プレモンスが全作で重要な役をやっている。
(ジェシー・プレモンス)
ジェシー・プレモンスって誰だっけ。最初はマット・デイモンかなと思うが、プレモンスは映画『すべての美しい馬』でマットの少年時代をやってたぐらいで、そっくりさんで有名らしい。3編すべてで「支配された男」を演じていて、見ていて恐ろしくなる。エマ・ストーンの存在感が一見大きいのだが(特に2作目、3作目)、振り回される感じのジェシー・プレモンスの受けも凄い。さらに助演陣も共通で、マーガレット・クアリー、ホン・チャウ、ジョー・アルウィン、ママドゥ・アティエなど、名前も知らないけど同じ顔の人が出てるなという感じで全部出てくる。つまり同じ俳優を使って、3つの中編映画を作ったわけである。
(エマ・ストーン)
『哀れなるものたち』はいかにも変な設定だが、これには原作があった。『女王陛下のお気に入り』も一応英国王室史の史実をもとにしている。それに比べて、この映画はオリジナル脚本でヨルゴス・ランティモスとエフティミス・フィリップが共同で手掛けている。このコンビは『ロブスター』『聖なる鹿殺し』などを書いていて、あの変テコな発想が再び甦ったのである。人間の中の善き面は出て来ないで、奇怪な思考に囚われる恐ろしさばかりが強調される。こんな映画があっても良いのか。もちろん良いのである。たまには見た方が良い。
(第3話。エマ・ストーンとジョー・アルウィン)
3つの中編映画が集まったオムニバス映画は、エドガー・アラン・ポー原作をもとにした『世にも怪奇な物語』(ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニ)など多数ある。しかし、同じ監督が3つ作ってまとめるというのは珍しい。最近では濱口竜介監督『偶然と想像』が思い出される。もしかして、この映画がヒントになったのかもしれない。またジム・ジャームッシュ監督『コーヒー&シガレッツ』もあるが、これは11もの小片映画の集まりだった。アルゼンチンの『人生スイッチ』もあったから、最近ちょっと一人監督のオムニバスが流行っているのかもしれない。昔の映画では今井正監督が樋口一葉原作3作を映画化した『にごりえ』(『東京物語』『雨月物語』を越えて1953年ベストワンになった)もあった。
この映画は間違いなく傑作で、見ていて非常に面白い。だけど、前作、あるいはその前の『女王陛下のお気に入り』などと同様に、嫌いな人も多いと思う。初めから終わりまで不穏なムードに包まれ、意味もよく理解できない設定で物語が延々と続く。3編すべて見る者を不愉快にする映画で、映画を見てスカッとしたい、感動を貰いたいなんて思う人は見てはならない。映像も演技も素晴らしいと思うが、この設定に入り込めない人がいても不思議ではない。説明抜きで映画が進むから、訳がわからない迷路の中で迷いつつ見る方が面白い。だからここで詳しく書いてしまうのは避けたいと思う。
(第1話)
各章は「R.M.F.」という名が付いている。R.M.F. の死、R.M.F. は飛ぶ、R.M.F. サンドイッチを食べるの3編だが、この意味も後で考えてそういうことかと思うけど、まあバカにしたような付け方である。そして、3編それぞれ同じ俳優が違う人物を演じている。最近3作連続で主演し、『哀れなるものたち』でアカデミー賞主演女優賞を獲得したエマ・ストーン、前作でも重要な役をやっていたウィレム・デフォー、そして今作でカンヌ映画祭男優賞を獲得したジェシー・プレモンスが全作で重要な役をやっている。
(ジェシー・プレモンス)
ジェシー・プレモンスって誰だっけ。最初はマット・デイモンかなと思うが、プレモンスは映画『すべての美しい馬』でマットの少年時代をやってたぐらいで、そっくりさんで有名らしい。3編すべてで「支配された男」を演じていて、見ていて恐ろしくなる。エマ・ストーンの存在感が一見大きいのだが(特に2作目、3作目)、振り回される感じのジェシー・プレモンスの受けも凄い。さらに助演陣も共通で、マーガレット・クアリー、ホン・チャウ、ジョー・アルウィン、ママドゥ・アティエなど、名前も知らないけど同じ顔の人が出てるなという感じで全部出てくる。つまり同じ俳優を使って、3つの中編映画を作ったわけである。
(エマ・ストーン)
『哀れなるものたち』はいかにも変な設定だが、これには原作があった。『女王陛下のお気に入り』も一応英国王室史の史実をもとにしている。それに比べて、この映画はオリジナル脚本でヨルゴス・ランティモスとエフティミス・フィリップが共同で手掛けている。このコンビは『ロブスター』『聖なる鹿殺し』などを書いていて、あの変テコな発想が再び甦ったのである。人間の中の善き面は出て来ないで、奇怪な思考に囚われる恐ろしさばかりが強調される。こんな映画があっても良いのか。もちろん良いのである。たまには見た方が良い。
(第3話。エマ・ストーンとジョー・アルウィン)
3つの中編映画が集まったオムニバス映画は、エドガー・アラン・ポー原作をもとにした『世にも怪奇な物語』(ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニ)など多数ある。しかし、同じ監督が3つ作ってまとめるというのは珍しい。最近では濱口竜介監督『偶然と想像』が思い出される。もしかして、この映画がヒントになったのかもしれない。またジム・ジャームッシュ監督『コーヒー&シガレッツ』もあるが、これは11もの小片映画の集まりだった。アルゼンチンの『人生スイッチ』もあったから、最近ちょっと一人監督のオムニバスが流行っているのかもしれない。昔の映画では今井正監督が樋口一葉原作3作を映画化した『にごりえ』(『東京物語』『雨月物語』を越えて1953年ベストワンになった)もあった。