尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

上野鈴本で文枝を聴くー落語協会百年特別興行

2024年06月17日 20時23分22秒 | 落語(講談・浪曲)
 上野鈴本演芸場の6月中席昼の部に行ってきた。落語協会百年興行の企画で、トリを上方落語の桂文枝がやっている。ということは先週「文枝と小朝の二人会」に行ったときに書いた。まあ二度とないことだろうし、他のメンバーも凄いので行きたくなったのである。演劇や音楽会に行くとチラシの束を渡される。映画館に行くと映画のチラシが置いてある。同じように寄席や落語会に行くと落語のチラシを貰うから、ついまた行きたい気持ちが募るのである。

 小朝のブログを見ると、鈴本は連日立ち見の大賑わいだという。それを考えて、少し早く着くようにした。今日も大入り満員で冒頭から立ち見である。今回は(出演順に)柳家三三蝶花楼桃花柳家権太楼林家正蔵春風亭小朝林家彦いち(春風亭一之輔と交替出演)、林家木久扇(鈴々舎馬風と交替出演)と、普段ならトリで出て来る面々(または人気者や大御所)が続々と登場する。色物も立花家橘之助(俗曲)やロケット団(漫才)など大満足。そんな中で奇術のアサダ二世はいつものような脱力マジック。「今日はちゃんとやります」と宣言しながらテキトー主義に徹する様に大爆笑。他の芸人にいじられる存在として貴重。
(アサダ二世)
 落語では開口一番、鈴々舎美馬はこの前の二人会でも見た人。噺も「転失気」(てんしき)となじみだが、皆よく笑う。いつもの「通好み」的客筋と違って、長年の文枝ファンや話題にひかれた人も来てるんだろう。大入りでよく笑うから、やる方も力が入る。林家たけ平は兄弟子が止めちゃって、今は正蔵の惣領弟子。足立区出身で気に掛けているが、聴くのは久しぶり。今回は大きな声で「死ぬなら今」と珍しい噺。ケチで知られた吝兵衛(けちべえ)さんは地獄に行きたくなくて、金次第というから閻魔大王に賄賂を送って極楽行きに大逆転。客受け、ネタのつかみなどずいぶん上達してる。大受けしていた。
(林家たけ平)
 柳家三三の「」(たけのこ)は、この前林家つる子の昇進披露興行で聴いたばかり。この前の方が面白かった。柳家権太楼の「代書屋」も何度聴いたかという噺だが、何度聴いても大受けする。確かに面白いけど、今日がベストじゃないだろう。林家正蔵の「一眼国」(一つ目の国に迷い込む)もこの前のつる子昇進興行で聴いたばかり。そうなると、新作の林家彦いちに期待してしまう。学校で怪談を語る部活に熱血教員が顧問になって…という噺で、調べると「熱血怪談部」というらしい。本にもなってるようだ。これは抜群に面白くて、顧問の「怪談部は、レイに始まりレイに終わる」なんて爆笑だった。
 
 小朝は「千両みかん」という噺で、初めてだがそんなに面白くない。木久扇師匠は例によって、笑点に始まって談志の選挙ネタ。これは「明るい選挙」という題があるらしいが、今回は漫談風に語っていた。人気者だけに(文枝以外の)誰より受けていた。ロケット団は久しぶりなんだけど、世の中には「○○ハラ」がいっぱいある。セクハラに始まり、モラハラ、カスハラなどと紹介していって、「キヨハラ」(無理やり薬物を勧める)というのがパターンだったけど、それが「ミズハラ」に代わっていた。意味は「無理やりギャンブルに誘う」である。
(ロケット団)
 最後に文枝が登場。51年間「新婚さんいらっしゃい!」の司会をして、感じたこと。「愛は、続かない」なんて笑わせる。それがマクラだから、続いて老父が息子に電話して「離婚することにした」と語ると実感が出る。これは「別れ話は突然に…」という演目だという。すべて電話で語られる夫婦、親子の事情が身につまされる。父親の方から聞いてると、老妻もひどいと思う。しかし、息子が妹に電話し、娘から母親に電話が掛かってくる。そうすると風景が逆転し、実は父親がいい加減で勝手。愛犬ジョンも「お父さんが殺したようなもの」だという。こうして親が大変になってるが、息子はソウル、娘は帯広にいるから、なかなか会いに行けない。お互いに調整して息子、娘が離婚阻止に久しぶりに帰省するとなる。と母親が死んだはずのジョンに良かったねと声を掛ける。ここでまた世界が反転する。「お父さん、この手は二度と使えませんね」で終わる。これは非常によく出来た新作落語だ。老人や親子を考えるヒント満載の爆笑ネタ。実に充実した寄席の一日だった。

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