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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

片山健トークイベント@アトリア

2007-08-10 15:05:16 | 好きなもの・講座やワークショップ

 川口市のギャラリー、アトリアで、絵本の世界「片山健ワールド」が
開催されています。

 片山健さんの絵本の原画は、以下の4つの作品からで‥
『タンゲくん』 『ぼくからみると』 『コッコさんのかかし』 『むぎばたけ』
あとは、自由に片山さんの絵本を見ることができるスペースが設けられています。

タンゲくん(福音館書店)ぼくからみると(福音館書店)コッコさんのかかし(福音館書店)むぎばたけ(福音館書店)


 8月5日(日)には、片山健さんがいらっしゃって、2時間ぐらいお話を聴くことが
できました。

 片山健さんは物静かな方、とどこかで読んだことがあったので、
そういう心づもりで(?)、片山さんが入って来られるのを待っていましたが、
気がついた時には、もう席にお座りになっていて‥
 暑いですね~も、自己紹介にあたるような言葉も何もなく、隣に座ったアトリアの
館長の言葉を受けてすぐに、本題である原画の話に入っていきました。

 椅子からすこしはなれたところの床に、茶色の布袋と生成りの帽子が置かれていて、
それは片山さんの持ち物なんだな、お見えになってすぐに、この部屋に入って
来られたのだなあ(市のギャラリーなので控え室にあたる部屋がなかったのかも
しれませんが)と、私はそんなことを、思っていました。

 帽子は、麦藁帽子のようなシルエット(つばが広め)で、麻素材のように見えました。

 
 片山さんは、静かにそして注意深く、お話を進めていかれます。
 ひとつのテーマをどんどん押し進めて、話が広がっていくのではなく、
ひとつのお話にまつわる、小さなお話が出てくると、そのつど立ち止まって、
丁寧に説明をされてから、本筋にまた戻っていく‥というお話のしかたです。

 日常生活も、今までの人生も、絵本作家となってからのことも、
「居心地が悪く」、「迷子的」である、という言葉をしばしば使われました。
 絵を描くのが好きで好きで好きで好きで、という情熱よりも、
ほかになにもなかったから最後に残った絵を選びました、という感じ‥。

 でも、自分の内面に常に向き合う姿勢は、痛い程に伝わってきて
私は、片山さんは、とても文学的で哲学的な方なんだなあと
思い、そのたびに、床に置かれた帽子に目がいくのを感じていました。


 
 ここからは、前回書いた絶版の話なんですが。
 
 『ぼくからみると』は、片山さんにとって、初めての
かがく絵本の依頼だったそうです。
文を書いたのは高木仁三郎さんという科学者の方ですが、とても
生き物にも詳しい方だったそうです。

 高木さんが『ぼくからみると』で表したかったのは、瞬間を捉えた絵本。
男の子が池のほとりに座り、釣り糸を垂れている、その釣り糸の先の
えさを鯉が見つめ、池のそばのアザミの茎にはみつばちがいて、
カヤネズミの子供を、空からトンビが狙っていて、それに気付いたカヤネズミの
父は巣に戻ろうとしていて‥そんななにもかもが同時に起こっている瞬間を
それぞれの「目」を通して見た絵本を作りたかったそうなんです。
 まったくの「同じ瞬間」を描くのは難しいと思った片山さんは、
自転車に乗っている男の子を登場させ、そしてその男の子が、
池のほとりに居る男の子のところまで、びゅーと走っていく
わずか数秒間の世界を、絵本の中に描き出していきました。

 テーマも斬新で、絵も素晴らしいこんな絵本が絶版になってしまったのは、
「かがくのとも」が故の理由でした。

 カヤネズミの生態が違っているという、読者からの指摘だったそうです。
高木さんが最初にテキストを書いたときには、(おそらく)
その生態が明らかにされていなかったのではないか、ということです。
 カヤネズミのお父さんは、交尾後は家族と生活をともにしないので、
絵本の話のように、子供をトンビから守ったりしないそうなんです。

 注釈つきで、本を出し続ける選択もあったそうなのですが、
最終的な判断をゆだねられた片山さんは、「つまんねえな」という気持ちを
どうしても拭いきることができず、絶版を承諾したとのことでした。

 

     ‥     ‥     ‥     ‥



 お話の最後に質問コーナーがあり、私はそのときのためにと思っていたことを
お聞きしました。

 「コッコさんや、のうさぎさんシリーズののうさぎさんの眉が太いのは、
 もしかしたら、奥様やお嬢様がそうだからなんでしょうか?」

 「おっしゃるとおり、家族で眉が細いのはわたしだけで、あとの3人は
 立派な眉をしております」

 ご家族のおはなしをなさるときは、真剣だったお顔が笑顔に変わったので、
私の質問もまずまずだったかなあと、ちょっとうれしくなりました。



 

 家から↑この本と、のうさぎさんシリーズの『あな』を持っていきました。

 サインをいただく時に、「
足のうらの絵、とってもいいですね」と
言ったところ‥とてもとても静かな口調で、
 「そこには大変苦労いたしました」とのお答えでした‥。






  ※      ※      ※


 
 実感も計画もないままに、明日より1週間、三重県へ帰省旅行に
 いってまいります。






 








コメント (8)
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