中学同級生で歯医者さんになった女友達に聞いたことがある。
「ね、毎日、人様の口の中を見ていると嫌になることない?」
私もばかなこと聞いたものだが、友人は至極真面目に、
「歯医者さんてね、結構そういう方面の病気になる人いるんだよ。うちの人も一時なったわ」だそうだ。
『昨夜のカレー、明日のパン』 6話
片桐はいりさん演じるギフの義妹、歯医者の朝子さん。突然、ギフの家に来て、
「なんかさ、このまま人の口の中だけ診て年を取るのかと思うとむなしくて」
ギフの家にしばらく居させてって。
ああ、そうよね、独身の朝子さん、失礼な質問をしたことがある私にはその気持ちとってもよく分かる、気がする。
そしてね、おまけに玄関の例のブリキでできた家族表札に、紙に書いた自分の名前を張り付けてあるの。ああ、泣けるわ。
間の悪いことに、その日、書道教室で知り合ったギフの女友達が訪ねてきて。
喧々諤々、あれやこれやのバトル。
で、その女友達がギフに「妹さんに帰ってもらえる」と言われて、ギフはきっぱりと。
「それはできない」
「朝子が戻ってくる場所がなくなるのはかわいそうだ」
「妻といつでも朝子が戻れる場所を作る約束をした」
朝子さん、ふすまの陰でそれを聞いていたのね。
それで朝子さん、やっぱり自分の歯科医院に帰っていくの。
そうよね、戻れる場所があることがわかれば頑張れるよね。
帰ろうとする朝子さんに玄関先からギフが声かけるわけよ。
「いつでも帰っておいで」って。ああしみじみする。
おまけに、朝子さんが戻っていった歯科医院の玄関に患者さんからの張り紙。
「はよもどってこんかい。いつまでも待っているぞ」
あああ、胸が熱くなる。
で、みんなが帰った後、台所で洗い物をしながらギフの鹿賀さんが歌う歌がこの曲。
星屑の町
♪両手をまわして帰ろう 揺れながら
涙の中を たったひとりで
やさしかった 夢にはぐれず
まぶたをとじて 帰ろう
まだ遠い 赤いともしび
♪指笛吹いて帰ろう 揺れながら
星屑わけて 街をはなれて
忘れない 花のかずかず
まぶたをとじて 帰ろう
思い出の 道をひとすじ
泣ける。
6話には、ほかの登場人物の「帰る、帰っておいで、帰る場所」エピソードが
たくさん散りばめられているけれど、私は朝子さんのそれに肩入れする。
あっ、それでも最後。
7年間も、大事にキャンデー缶に入れて持っていた亡き夫の骨をお墓に返してきたテツコさんが
「ただいま」って戸を開けるとカレーの匂い。
昨夜作って残しておいたカレーを温めたカレーの匂い。
とってもよく知っている匂い。ギフと二人で食べるの。
その夜、布団の中で涙流している徹子さん。
余韻がある素敵な終わり方だった。