まい、ガーデン

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狩野永徳の凄まじさ 『花鳥の夢』 山本兼一著

2018-05-07 08:49:52 | 

『利休にたずねよ』を読んでいいなあと、また次の作品をと、
少し軽めの『とびきり屋見立て帖』シリーズを数冊読んだけれど、なんか物足りない。面白いけれど物足りない。

そこで手に取ったのが天才絵師狩野永徳を題材にした『花鳥の夢』 

『四季花鳥図襖』

安土桃山時代。足利義輝、織田信長、豊臣秀吉と、権力者たちの要望に応え「洛中洛外図」、「四季花鳥図」、「唐獅子図」など時代を拓く絵を描いた狩野家の棟梁・永徳。ライバル長谷川等伯への嫉妬、戦乱で焼け落ちる己の絵、秘めた恋。乱世に翻弄されながら大輪の芸術の華を咲かせたその苦悩と歓喜の生涯を描いた長篇。

それにしても、たった2冊しか読んでいないけれど、山本さんの書く人物はどうも一筋縄ではいかない。
利休も永徳もその道を究めようとして、それはそれは人には決して見せない研鑽を積み苦悩して
天才といわれるほどに花開かせているのに、その人物像となると好きになれないなあ、
の感想が浮かび上がってくるのが我ながら不思議だ。
こんな人がそばにいたらたまらんなあなんて埒もない気になるのよ。
山本さん、永徳に惚れこんでるの?と聞きたくなるわけ。

対を為すといわれている阿部龍太郎さん著『等伯』では、
等伯の人となりがとても魅力的に書かれているからよけいそう感じるのかもしれない。

だからといって『花鳥の夢』が面白くなかったかといえばそんなことはない。
かなり分量のある長編でも一気に読破できる、読み応えがある。
刺激を受けて改めて狩野派の特集を借りてきたくらいだから。

そしていちばん興味を持ったといおうか心に残ったといおうか気になったところが、
永徳が描いた絵に対して注文主それぞれに、表現は違うけれど同じような内容のことを言わせていること。
抜き書きしてみた。山本さんの意図はどこにあるのかしら。

父松栄の描く山水画はつまらない。_空っぽなのだ。と、永徳は、内心、父のこころの虚ろさを侮蔑するようになっている。大勢の一門を食べさせるのに汲々としていて、画面におのれの気概をぶつけることができずにいる。

そんなふうに思っていた父が
「こころは、観ているものにあるではないか。おまえは、観ている者のこころが遊ぶ場所をなくしてしまおうというのか」
「押しつけがましい絵はうるさくてかなわぬ。観る者がなにを感じるかは勝手なこと。気ままこころをにたゆたわせる場所があるほうがよかろう」
「以前のおまえの絵は、気負いがありすぎて、見ていると疲れることがあった」

天才と認めるがゆえに激しい嫉妬心を燃やしていた長谷川等伯(信春)に己の絵の感想を問う。 
「あまり描きこみ過ぎますと、絵を観ている方の居場所がなくなり、息苦しくなる気がいたしまして」
「この絵では、画面のすべてが緊密に埋め尽くされ、岩山の突兀(とつこつ)、湖水の浩然の広がり
を押しつけられている気がいたします。」

永徳は怒りのあまり等伯を破門し、この後も結構な嫌がらせをするわけよ。
この辺りは『等伯』にも詳しく書かれていて事実が重なる。

安土城の襖絵を見た信長は、
「そのほうは、どうにも思い切りが悪いゆえに、絵が縮まって奔放さがない。かような絵は見ていて気づまりだ」
「見ていてこころがまるで広がらぬ」

大坂城の襖絵に囲まれて千宗易に聞く。「どの絵がいちばん好みか」と。

「この座敷の山水図は、たとえ絵師としての技倆は劣ろうとも、慢心せず、懸命に描いた絵に見えますゆえ」
それは秀吉が凡庸と観た襖絵(父松栄描く)
「見せよう、見せよう、という気持ちの強い絵は、どうも好みに合いませぬ。絵師がおのれの技倆を
鼻にかけているようで、いかにも浅薄な絵に見えてしまいます」
もちろん永徳の絵のことね。永徳が利休を憎むことそれはそれは。

檜図屛風を見て

 (図はwebから借用)

「かいかい奇奇な絵だな」
「これを毎日見て暮らす宮様は、重苦しかろう」
秀吉
「そなたは悪相になったな」
「よい絵だ。わしは好きだ。しかしな・・・」
「あの絵は、何度も描けまい。描いてもらいたがる者も少なかろう」
「絵は、もっと楽しんでゆるやかに描くがよい。長谷川の絵は、観ていて気持ちがゆるやかに楽しくなる。
絵の中に、観る者の居場所がある」
「そなたの絵は、観ていて辛くなることがある。絵は楽しんで描け」

すごいよね、永徳の技量を認め天賦の才を褒め称えた者たちにそんなことを言わせるとは。
いくら好きじゃないなと思っても永徳に同情するわ。永徳はつぶやく。

秀吉のような素人に言われなくとも、むろん、楽しんで描いてきた。
しかし、絵は永徳の命だ。命の発露だ。生きることのすべてをそこに滾らせてきた。
となれば、楽しんでばかりもいられないではないか。

永徳48歳で亡くなる。過労死ともいわれている。


 

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