早朝の南小谷駅。多くの連中と過ごす一時というのも妙な空気だ。待合室で膝をつつき合わせるのも妙な感じなので、姫川の流れを聞きながら過ごす。駅舎横のあじさいがちょうど見ごろを迎えていた。
しばらく過ごすうち、心なしか待合室の人の数が減ったようだ。どうしたことかと見るに、早々とホームで行列を作っていたり、ホームの端に陣取っていたりする。ちょうど信濃大町からの列車も着き(昨夜ムーンライト83号で信濃大町まで来ればつながる列車)、ホームや駅舎に集まったこの筋の人たちの数は50人くらいいるだろうか。私も慌てて行列に加わる。
糸魚川方面から、警笛を鳴らしながら1両の気動車が入ってきた。キハ52。通称スカ色といわれるバージョンの車両である。ホームから一斉にカメラが向けられる。この系統、今や本当に数えるほどしかない「国鉄型」の車両であり、おまけにこの大糸線では、国鉄色、スカ色、そして首都圏色という、国鉄時代の「原色」にわざわざ塗りなおして、ファンの人気を集めている。最近「国鉄型」車両がどんどん淘汰されつつあり、そのために余計に「国鉄型」車両への人気が高まっている。おまけに最近のローカル線「ブーム」である。このために大糸線も超人気路線、ボックス席に座ろうものなら早くから並ばないといけないという現象が起きているのである。
何とか席を確保し、車両の観察。「ブーム」という言葉は嫌いだが、こうして山間の小さな駅にちょこんと停まっている気動車をじっくり見ると、デジタル社会の今の世にあって、こうしたアナログ的なものが多くの人をひきつけるものがあるのだなあと改めて感じさせる。地元の人から言わせれば、新しくきれいで快適な車両のほうがよいに決まっているはずで、こういう感想も汽車旅派の勝手なものだが。
何でも今年は「大糸線全通50周年」ということで、JR西日本も鉄道ファン向けのPRを行っている。3両のキハ52各車両に、車両の写真と履歴が描かれた乗車証明書(日付印を自分で押す)を備えたり、昨日27日には糸魚川のレンガ車庫でのイベント、それに、大糸線50周年を記念した各駅の硬券入場券セットの販売・・・・。ちなみに、入場券セットは本日28日から糸魚川駅でのみ2000セット限定販売とか。
さて座席も満杯、立ち客(動きやすいようにわざと立っている人も含めて)も多くでる1両の気動車が出発。姫川の流れに沿って走る。姫川という、優しそうな名前の川だが、かつて幾度となく土砂崩れを引き起こした川。河原には、大水の時に上流から流れたと思われる岩やら、がけ崩れの跡を見ることができる。天気はいいのだが、時折徐行運転で下っていく。
途中の根知で、同じキハ52の首都圏色とすれ違った後、終点の糸魚川着。ホームの向こうのレンガ車庫では国鉄色が停まっており、こちらもカメラの標的になっていた。このレンガ車庫、鉄道の要衝である糸魚川のシンボル的存在であるが、北陸新幹線の開通を近くに控え、今後の動向が気になる物件である。
ここで一旦改札を出る。みどりの窓口には、先ほど大糸線に乗ってきた人たちが行列をつくっている。先に書いた硬券入場券を買い求める行列だ。前の人を見ると、一人で10セットとか、3セットとか購入する人がいる。おいおい、2000セット限定なのにそういうことされちゃ困るよな・・・・。この分だと、1~2週間で完売ということになるんだろうな。
ちなみに私は慎ましく?1セットのみ購入。台紙には各塗装のキハ52の写真。改めて、「大糸線全通50周年」という文字を見つめなおす。古くからある路線のイメージがあるが、案外、新しい歴史なんやな。最後まで残ったのが中土~小滝間とのことだが、確かに長野と新潟の県境の姫川の流れの厳しい区間で、その分工事に手間取ったことだろう。
糸魚川からはどうしようか。ここまで来たら日本海を見たい。そもそも、今回の旅は、「マリンブルーくじらなみ」で、日本海に近い青海川駅とか、天領と石油の町である出雲崎を訪ねようとしたのが動機。震災の影響でこれらの駅を訪ねることができない分、その代わりとして・・・・親不知駅を訪ねよう。
糸魚川から2駅、左に急な山、右に高速道路と日本海を見るローカル駅である、親不知駅で下車。こうして下車するのも久しぶりだ・・・・。(続く)