わたらせ渓谷鉄道の旅の続き。神戸と書いて「ごうど」と呼ぶ駅に降りる。この駅舎も昔ながらの木造駅舎である。ちょうど団体のバスが乗り付けており、駅舎をバックに写真を撮ったり、駅舎内に設けられた特産品の売店をのぞいたりしている。私も、鹿肉のジャーキーなどというものを購入。
この駅が賑わっているわけ。近くに富弘美術館があることもあるだろうが、お目当てはこの駅のホームにある「列車のレストラン 清流」での昼食だろう。元々東武特急として走っていた車両を改装したレストラン。間に受付カウンターと厨房を挟んだ「2両編成」で、そのうち1両は団体予約用とある。先ほどバスで乗り付けていたのは、おそらく足尾銅山観光、富弘美術館、列車レストラン、そしてトロッコ列車といったところを組み合わせたツアーの客だろう。
昼時であったが一般席のほうは空席があり、きのこカレーに生ビールで昼食。座席も昔の車両のままで、駅のホームの佇まいを見ながらの食事というのはいいものだ。あくまで普通の客室だが、今やほとんどなじみのなくなった「食堂車」という単語を連想させる。
さて腹もできたところで、またまた間藤行きに乗る。あじさいの駅の沢入から先は今日何回目だろうか。そして再び間藤駅まで行き、朝に比べて観光客の姿が増えているのを見てから折り返し、2度目の足尾駅下車。20分後にトロッコ列車が足尾を始発として出発するので、始発から乗ってしまおうといいうものだ。
そのトロッコ列車、まだ間藤方面のホームに停まっていたが、先ほど乗ってきた列車が行ってしまうと、機関車に引っ張られて間藤方面に引き上げる。しばらくすると駅舎のある桐生方面のホームに客車が先頭となってやって来た。ここで機関車が切り離され、間藤方面へ。そして反対側の線路を伝って入れ換わり、桐生方面へ。最後にじわりじわりと近づいて、客車と連結。こうした入れ換え風景を見る機会ってそうあるものではない。
こうしてつながったトロッコ列車「わたらせ渓谷号」。牽引するDE10は、パンフレットにあるわたらせ渓谷鉄道カラーの茶色ではなく、国鉄時代の赤と白の原色。4両の客車の中2両がトロッコ型車両で、その前後は国鉄の12系客車。これが足尾駅の古い駅舎とよくなじんでいる。
12系客車に乗るなんて本当何年ぶりだろうか。塗装は渓谷鉄道カラーだが内装は国鉄時代そのもの。急行型という、一般のボックス席より若干広めのシートに座って懐かしさを感じる。トロッコ型車両より、客車車両に出会えたことのほうがうれしい・・・? なので、足尾出発時にはこちらに乗る。こういう列車ならばトロッコ型車両に乗るのが当然で、最後部の車両に乗っているのは私一人。車掌も「何でこっちに乗っているの?」という顔をして通り過ぎる。
客車列車独特の衝撃が来て静かに発車。この発車感というのも久しぶりだ。
次の通洞からは旅行社の旗を持った団体ご一行が乗り込んでくる。もちろんトロッコ型車両へと案内される。さてここからは渡良瀬川の渓谷に沿うということで、私も荷物はそのままにしてカメラだけ持ってトロッコ型車両に移る。やはりこちらの乗り心地も試さないとね。元々カーブの多い区間を慎重に走る。だが観光列車としてはそのほうがよいのだ。おかげで、ゆったりとした気分で渓谷の眺めを楽しむことができる。これまで通った気動車がせっかちに見えてしまう。
沢入着。交換のためしばし停車するので、一度外に出る。あじさいと客車列車の組み合わせ。いい時期に訪れたなと思う。
この駅でやっていたあじさい祭りもそろそろ店じまいのようで、地元の人たちが焼きそばやら食べ物を売りにくる。中にはあじさいの苗というのもあり、「これタダでいいよ」という言葉に次々に団体客から手が伸びる。おおっ、こういう列車の窓越しのやり取りも今やそう見られるものではないぞ。
ここからトンネルに入るということもあり、トロッコ型車両を離れて客車席に戻り、ボックスに足を投げ出す。久しぶりに「客車列車の旅」を満喫する。あまり長いことトンネルに入っていたためか、団体客の何人かがこちらに避難してくる。そうした団体客も次の神戸で下車。すると今度は別の団体客が乗ってくる。なるほど、1日1往復だからツアー同士で区間を区切って乗っているわけか。わたらせ渓谷鉄道側としても、客が回転すればその分整理券収入が増えるから切り売りしたほうがいいということかな。
客車の旅で満足したところで、本日最後のポイント、水沼駅で下車。こちらには駅舎内に温泉があるということで、最後は温泉で締めることにする。
渡良瀬川を遠くにみる露天風呂「かっぱ風呂」で今日の汗を落とし、気持ちよくなったところで休憩ロビーに立ち寄ると、テレビでは何やらものものしい映像が流れている。この日に発生した新潟県中越沖地震のニュースである。海沿いに駅があり、線路が土砂で埋まっているのは青海川の駅のようだ。震度6強、柏崎を中心に死者も出る大きな被害が発生しているとか。今日一日列車に乗っていてニュースを全然見なかったが、先の台風、今度は地震と、のんびり旅をしているのが申し訳ないような気にもなった。
この後は桐生まで出て、高崎回りで東京に戻る。帰宅後も気になるのは地震の情報だ。
確か先の中越地震が起きたのは3年前。ようやく復興したかという矢先の今回の地震。今年は能登半島の地震もあり、日本海側の土地に何かが起きている時期なのだろう。今回は狩羽原発のこともあり、余計に首都圏とは無縁ではない災害である。
遅ればせながら、亡くなられた方のご冥福、被災した地域の皆様へのお見舞いを心より申し上げます。