
12月30日、31日と連泊するのは、日和佐駅の東口(道の駅に面していないほうで、本来の駅舎があるほう)の前にあるビジネスホテル・ケアンズ。日和佐に唯一あるビジネスホテルであるが、いわゆる全国チェーンではなく、ご夫婦でやっているようだ。フロントは2階ということで階段を上がる。別に自動ドアやロビーがあるわけでもなく、上がったところがすぐフロント。緑のボタンを押すと扉の向こうからご主人が出て来てチェックイン。2泊分を前払いすると、外出時には部屋のカギはそのまま持って行っていいとのこと、ただし31日の朝出発時だけフロントに置いておくようにとのことである。

フロントの横には四国巡拝の納札が多数掲示されている。繰り返し書いているが、23番の薬王寺の次は室戸岬まで札所はない。特に歩きで回る人は室戸まで過酷な行程になるわけで、ここ日和佐で一旦宿泊して、翌日から室戸に挑む人が多いようである。それを前にしてのお礼ということで納札を置いていく人がいるのだろうか。

その部屋だが、まず扉が木でできている。そして中に入ると、フローリングの床に、木で造られたベッドやテーブルが並ぶ。これらはご主人の手作りでリフォームしたもので、こうなるとビジネスホテルというよりは、洋風の民宿かユースホステルに来たかのような感覚である。さすがにバス・トイレは普通の年期の入ったユニットバスだが、部屋全体も広々としているし、エアコンをつければ寒さは気にならない。

駅前ということで、窓を開けるとすぐ駅があり、時折気動車のエンジン音が響く。また薬王寺の瑜祇塔が見える。
さて、そろそろ日が暮れる中、日和佐の美味いものをいただこうと町に出る。事前の調べで、日和佐の昔ながらの町並みの中で、地元の料理を出す居酒屋があるというのがあった。満席になってはいけないということで17時半には店に向かったのだが・・・店は真っ暗。少し先に店の前に来ていたクルマがUターンして立ち去って行く。玄関の前に黒板が出ていて、12月29日~1月1日はお休みと書いていた。あらら・・・まあ、30日の夜となると仕方ないかな。
日が落ちて照明もほとんどない中、しばらく町をぶらつく。料理店もあるにはあるが入りづらい店構えだったりして、これは地元の酒肴で夜を楽しむのは無理と判断。駅の向こう、国道沿いにコンビニはあるのだが、これは翌日夜にとっておきたい。そんな中さてどうしようかと駅のほうまで戻ると、ホテルからすぐ逆方向のところに地元スーパーを見つける。先ほどの海部駅近と同様に地元の人が結構来ており、鮮魚コーナーもタイムサービスが始まっていた。それを利用して刺身の盛り合わせや寿司、そして酒のアテや翌日の朝食などを買い求める。持ち込み自由なのがビジネスホテルのメリットである。郷土料理の店は楽しめなかったが、地元の人に交じってスーパーで買い物というなかなかない旅の楽しみができたのでよしとする。うつぼのみりん干しを小さく切って酒のアテにした商品がその中で結構いけた。
時刻は18時すぎだが、夜に出歩くこともないので部屋でゆっくりと食事とする。テレビはNHK以外の民放は、地元ケーブルテレビのテレビトクシマのおかげで、関西の3局(毎日放送、朝日放送、関西テレビ)、日本テレビ系列の四国放送、そして和歌山テレビが映る。そしてテレビトクシマのチャンネルが2つあるのがすごい。時間帯が時間帯なのでいずれも全国放送の番組だが、徳島の南部で大阪の番組が見られるというのもケーブルテレビさまさまだと思う。
ただ、年末ということもあってどの局も特番をやっているが、正直それほど見たいと思うものはなかった。適当にテレビをつけてチャンネルをいろいろ変えていたのだが、ある時間、チャンネルをそのままにした時間帯があった。それが地元のテレビトクシマ。
20時から、四国遍路についての1時間番組をやっていたのである。最近若い人も様々な理由で四国遍路をしているということで、徳島在住の20歳代のお笑いコンビ「ランダムハンター」の2人が2016年の春から2ヶ月ほどかけて四国一周をした・・・という番組である。


最初は2人揃って全部歩こうとしたのだが、そのうちの一人が実は健康診断で「長時間の歩き」にドクターストップがかかっているというので、一人が歩き、そしてもう一人がスタッフの運転するクルマで移動し、札所では合流して一緒にお参りするということになった。途中、高徳線の板野駅前、私も横を通った「気合いの丸刈りしませんか」という看板の出ていた理髪店で二人とも丸刈りになる。

番組では、コンビを結成して5年ほど経つが全国的に売れているわけでもなく、これからのコンビの在り方やそれぞれの人生についてどうするか、その葛藤を遍路を通して二人で話すきっかけにしようというコンセプトだった。ただ、思いがけずコンビで「歩き」と「クルマ」に分かれ、今度は遍路の手段でのそれぞれの葛藤が出てくる。途中、歩きのほうはしんどいながらも歩き続けることでの達成感を素直にコメントするのに対して、クルマのほうが待ち時間の間に「どうせ歩き遍路メインなんやろ!!」とキレて手持ちのノートなどを地面にたたきつけたりする場面もある。コンビの絆を深めるどころか、この遍路がきっかけでコンビが解散してしまうのではないかということである。


途中、見かねたスタッフがお互いに腹を割って話す場をつくったり、最後のほうではドクターストップがかかっているクルマのほうも「少しくらいなら歩ける」として再び二人で歩くようになり、最後は「二人で八十八所を回りきった」という感じだった。まあテレビなので演出も入っているだろうが(私には、クルマ遍路では何となく満たされず、やはりガチの歩き遍路のほうが達成感は大きいという演出に見えたが、最後はクルマのほうも自分に納得していた感じだったので、結局は手段はそれぞれ、要は巡拝の中で自分で何を考えるか、考えたかということなのかと思った)、「水曜どうでしょう」の四国早周りよりは遍路を通したガチの本音が出ていて面白かった。こうした番組を見られただけでも、ここまで遠征してきた甲斐があったと思う。
さて翌日31日は室戸岬まで往復する。ただその前に、今回対象とした札所の一つ、日和佐から北に向かう22番の平等寺がある。私はランダムハンターの二人のようにガチの歩きでもクルマ利用でもないのだが、公共交通機関ならではのややこしさや時刻表の制約を受けている(そうした制約からの解脱が遍路ではないかとお叱りを受けそうだが)。日和佐を始発で、それも逆方向への出発だが、長い1日になることを思って眠りに着くのであった・・・・。