フィラデルフィアへの遠足の翌日、21日の朝、目が覚めて窓の外を見ると、こんなことになっていました……。
雪印マークのような、どう考えても直径3㎝はある牡丹雪がバサバサと空から下りていました。
先日のオーディションの日、ディレクター仲間のマイケルが、「これ、まうみにあげる。もし都合がついたら行っておいで」と言って、カーネギーホールでのコンサートのチケットを二枚、いきなり手渡してくれました。
見ると、NHK交響楽団のコンサートでした。
え?え?え?なんで?と思ってあたふたしていると、
「ボクは都合が悪くなって行けないんだ。もしまうみも都合が悪かったら、知り合いの日本人の人達にあげて。こういう時だから、ぜひ、日本の人達に聞かせてあげたいと思って」とにっこり。
なんていい人なんだあんたは……
ありがたくいただいて、あさことふたりで聞きに行くことにしました。
仕事が終わってから、あさこにも手伝ってもらって、チャッチャと夕飯を作り、丁度タイミング良く家に戻ってきた旦那と三人で食べ、ひとり残されて寂し気な旦那にちょっぴり後ろ髪を引かれながら、電車の駅目指して急ぎました。
昨日とはうってかわっての、どんよりと曇った空と寒い空気。
それでも会場は満席でした。
我々の席は4階の、天井に限りなく近い席で、舞台がはるか遠くに見えました。
↓あさこに、携帯で内緒で撮ってもらいました。
演奏会のはじめに挨拶があり、そこで今回の日本の震災のこと、交響楽団のメンバーが北アメリカ公演に向けて飛び立ったのが震災の数時間後だったことなどが述べられ、犠牲者の方々への鎮魂、被災者の方々への想いを込め、プログラムに先がけて『G線上のアリア』が静かに演奏されました。
その、始まりの、柔らかであたたかいピッチカートの音色が聞こえてきて、続いてヴァイオリンの、それはそれは繊細で、優しい旋律が流れた頃には、そこかしこの席で、目頭を押さえる人達の姿が。
胸の中に熱いものを感じながら楽団員さんの方を見ると、後列に座っておられるトロンボーン奏者さんのひとりの方が、白いハンカチで何度も何度も涙を拭っていらっしゃるのが見え、いよいよ悲しくなってわたしも泣いてしまいました。
『カーネギーホールより』
この度の東北地方太平洋沖地震で被害を受けられた皆様に心よりお見舞い申し上げます。
カーネギーホール、及びフェスティバルパートナースタッフ一同、皆様の安全と一刻も早い復旧を心からお祈り申し上げますと共に、JapanNYCフェスティバルを被災者および犠牲者の方々に捧げます。
「音楽や芸術を通して日本の文化の素晴らしさを世界にお伝えし、この困難な時期に少しでも皆様の心の癒しになることで、ささやかな応援が出来ましたらこの上なく光栄に存じます。」
-JapanNYC芸術監督 小沢征爾
カーネギーホールウェブサイトcarnegiehall.org/JapanNYCでは、被災地への金銭的なご支援をご紹介しております。どうぞご活用くださいます様、お願い申し上げます。
という用紙が、プログラムの中に挟まれていました。
その夜のプログラムは、武満徹さん、リヒャルト・シュトラウス、セルゲイ・プロコフィエフ。
指揮者は、世界で最も著名な指揮者の一人に数えられるアンドレ・プレヴィンさん。
そしてゲストプリマドンナに、これまた超有名なソプラノ歌手、キリ・テ・カナワさん。
プレヴィンさんは、杖をつきながら舞台に登場され、指揮台に上がる時に、それはそれは苦労していらした姿が痛々しかったです。
お年が多分、今年で82才を迎えられると思うのですが……けれども指揮が始まるともう、プレヴィン色満載。
とても繊細で色合い豊かな演奏を聞かせてくれました。
カナワさんも、残念ながら声の調子があまり良くなかったのか、オーケストラに埋もれてよく聞こえなかった部分が多く、もしかしたらこれは席の位置のせいかもしれないなどと思ったのですが……。
それにしてもNHK交響楽団のヴァイオリン奏者さん達が、あんなに緻密に、一分の隙も無く、それでいて美しく、表情豊かで、合奏することの醍醐味を見せてくれるとは思っていなかったので、とても驚いてしまいました。
休憩を挟んでいよいよプロコフィエフ、という時に、あさこが「一番前の席、空いてるみたいだね。座れるかどうかちょっと調べてくるよ」と言って偵察に。
「多分、大丈夫だと思うよ。なんか言われたらどければいいじゃん」と電話がかかってきたので、わたしもとっとと一階に降り、一番前のかぶりつきの席に着席。周りの様子を伺いながら、二部の始まりを待ちました。
もうそこはほんとに近くて、一番舞台寄りの奏者の楽譜が読めるぐらいです。
さすがに音のことが心配でしたが、やっぱりカーネギー、4階で聞いていた音と同じなのには驚きました。
そして……すぐそこで演奏している方達の生音も、全く聞こえてこないのです。
すべては完璧に織り込まれた響きとなり、最初から最後の音まで、心から楽しむことができました。
あさこはこのN響の中に数人の友達が居るようで、終わった後に懐かしのご対面。
彼女の、日本での立場が少し垣間見えて、やっぱりすごいんだなあ……などと思いながら眺めていました。
ああでも、本当に素晴らしい演奏でした。
「こんなの、日本のオケだったら普通だよ」とあさこ。
恐るべし日本のオーケストラ。
ロビーに出ると、八重桜が飾られていました。
今年の桜は、特別に美しく、特別に力強く咲いてくれるような気がします。