ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

ウルトラセブン哀歌

2011年03月09日 | ひとりごと
三週間前に、とうとうのとうとう、覚悟を決めて、総治しをしてもらうべく、新しい歯科医に診てもらった。
ジョセフィーン先生は、気さくであたたかくてはっきりしている。
仕事はめちゃくちゃ早い。
何人もの患者がいても(多い時で同時に四人の治療をする)、まるで違う巣に居る赤ちゃん蜂の面倒を見る働き蜂のように、ちょこちょこっと用事を済ませては次、また済ませては次と、部屋から部屋へ巧みに移動する。

初めて行った前回は、詰めてもらった詰め物がまたすぐに取れて、そこにポッカリ空いていた穴を修復しつつ、その歯の神経を残すかどうかを、二ヶ月ほど間をあけて様子を見ましょうという治療だった。
なので、次の予約は4月のはずだったのだが……。

「まうみ、ジョセフィーンだけど……歯科医の。あのね、あなたの歯のレントゲン写真をさっきじっくり見てたのよ。あなた、4月までのんびりしてる場合じゃないんじゃないの?」
「あ、はい……多分……」
「ちょっと大事な話したいことがあるし、早急に治療した方がいい虫歯も数本あるし、とにかくいらっしゃい」

ということで、今日また行ってきた。

さて、どの歯から始めようか。
ほとんどの歯がムシバッてるので、もうやけくそで、「先生のお好きなとこから始めてください」と言った。
とりあえず、かなり深そうなのが左右の上あご側に一本ずつあるので、そこから始めることになった。

麻酔の注射の前の歯茎への麻酔から始まって、けっこう長い時間待っている間に、違う部屋から聞こえてくる話に耳をすませる。
ある男性は、元消防士さんで、今の保険制度の混乱を心良く思っていない。
退職した者や年寄りにとっては、かなり都合が悪い状態になっていると、怒りまくっていた。
別の部屋では、最近ニュージャージー州だけでなく、いろんな州で問題になっている、教師のリストラ問題。
ニュージャージー州なんて、他の州の2~10倍の、目の玉どころか心臓まで飛び出さんばかりの高い税金をふんだくっているくせに、いったい財政の何が足らんと言うのだっ!
事もあろうに、国の宝である子供達の教育に、悪い影響を与えるような政策が、どうして世の中にまかり通るのだっ!
と、歯の治療中にも関わらず、熱く語りまくるおじさん。
みんな怒ってるんだなあ……。

今日の治療もやっぱり、ぎりぎりのところまで削らなければならなかったので、「麻酔が切れてから数日、もしかしたら1週間ぐらいは、イヤな痛みが残るかもしれないけれど、それさえ我慢したら後は大丈夫だからね」と言われたが、大丈夫!そんな痛みぐらい、今までのんと比べたら屁でも無い!と、明るく「ご心配なく」と答えておいた。

さて、ジョセフィーンがわたしに話したかったことは、やっぱりあの、ウルトラセブン軍団の歯茎の奥の、膿んでいる所のことだった。
わたしの前歯にはあだ名がついている。
旦那がつけたあだ名だ。
旦那は、わたしの前歯4本を一本一本指差しながら、「セブン~セブン~セブン~セブン~」と歌う。
この世にこんな楽しいことがあるだろうかと言いた気な、満面の笑顔で……。





前にも何回か書いたこのウルトラセブン前歯の話。
離婚直前のある早春の日、離婚後はどん底の貧乏になることが決まっていたわたしは、二本の前歯の間にちょこっとだけできていた虫歯を治しておこうと思い、講師仲間の間で評判のいい歯科医院を訪れた。
小さな虫歯を治してもらうだけなのだからと、気軽な気持ちで行ったのに、その日、治療が終わったわたしの上の前歯は、4本全部、差し歯になってしまっていた。
「いずれみぃ~んな虫歯になるんだから、今のうちからきれいにしといた方がいいよ」とおじいさん歯科医に押し切られ、つい「じゃあ」と承諾してしまったのだ。
今のうちからきれいに、という意味が、神経を抜いて差し歯にする、ということだと気がついたのは、治療が始まってだいぶ経ってからのことだった。
虫歯があった前歯と、まるで問題のない、きれいで健康だった前歯三本が、血だらけの歯茎から、ネズミの歯みたいに三角に尖った姿を突き出していた。
気が遠くなるほどにショックを受け、呆然としながら、後の長い作業を耐えた。
神経を抜き、金属の杭を打ち込む頃には、怒りと辛さで手がブルブルと震えた。

その時の費用が一本7万円だった。それが4本、合計28万円。だからセブン、セブン、セブン、セブン……。
そんなつもりで行ったのではないのに、離婚調停の話し合いをしている時、元旦那に、離婚を決めてたからこんな大金をその前に使ったんやな。騙された……と文句を言われた。
本当にそんなつもりなんかじゃなかったのに……。ま、別にええねんけど……。
そしてこの話を、今の旦那に、涙ながらに(→うそやけど)した時から、旦那は嬉しそうにこの歌を歌う……。
男はみんなアホや。


とにかく、その時の消毒がきちんとされてなかったらしい。
歯茎の奥に膿包ができていて、その膿がだんだん、骨の内部にまで移行していく可能性がかなり高くなっているらしい。

「ここまでになるには、かなりの時間がかかったと思うけど、だからって、危機的な状況に陥るまでまだまだ時間はある、なんて誰にも保証できないのよ」
「ごもっともです」
「こんな所に膿を作るとね、ある朝突然、生きてるのがイヤになるぐらいの鋭い痛みに襲われるの。そうなったらもう誰にも救えないの。あなたの旦那さんでも」
「はい……」
「これは手術になるけれど、それほど大きな手術でもないから心配しなくてもいいわ。とりあえず虫歯を全部治してしまってから手術の日を決めましょう」

というわけで、虫歯の問屋と噂も高きわたしの歯の治療は、まだまだこれから続いていくわけである。
旦那は、そんな手術はやっぱり、そういうことの専門医に任せた方がいいと言う。
こちらの歯科医は、一般的な治療と専門的な治療をする医者に分けられていて、彼女のように、なんでもやります、という歯科医はとても珍しい。
日本だと、軽い虫歯から入れ歯まで、全部同じ医者にやってもらえるけれど、こちらではいちいち、治療の内容によって病院を変えなければならない。
だからジョセフィーン先生は日本流ということになる。
あ、ちょっとだけジンジンと痛み出してきた。
まあ、こんな痛み、放っといた時のと比べたらなんのこともない。
それに、治ることがわかっている痛みだもの、春が目の前の寒さと同じく、明るく楽しく我慢できるってもんだ。
さて、番茶でうがいでもしてこようっと。 
コメント (8)
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