いつもわたしの髪の毛を、すごいセンスと技術でチョキチョキ切り揃えてくれるエリちゃんと、初めてのランチ。
髪をカットしてもらっている時に、いつもいろんな話をする。
何年か前に、地元のブラスバンドと一緒に、ガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』を演奏することになった時、
あるトラウマから、どうしようもなく本番が恐くなって、全く眠れなくなってしまい、
旦那の仕事仲間の睡眠療法士のトレーシーに治療をしてもらった、という話もした。
エリちゃんがその話を覚えていて、悩める友人が一度催眠療法を受けてみたいと言うのでと、わざわざニューヨークから、オフィスのあるモントクレアの町まで、その友人を車に乗っけて来たのだった。
はじめは、彼女の友人が治療を受けている間、多分2時間ぐらいかかるはずなので、その間にお茶でも飲もうか、と言っていたのだけど、
やっぱり初めてのことだし、悩みを英語に替えて説明するまでに気持ちがまだ至ってなかったし、トレーシーの言うこともあまりわからなくて、結局エリちゃんが付きっきりで部屋に居なくてはならなくなり、でもそれだと催眠はできないので、三人一緒に二時間あまりの時間を過ごしたものの、治療に至ることはできなかった。
で、予定を変えて、エリちゃん、友人さん、そしてわたしの三人で、お昼を食べることにした。
もしよかったら、友人さんが話したかったらだけど、聞かせてもらった話をまとめて、トレーシーに説明することもできる。
そう思って、話の流れのいいところで、そぉっと、できるだけ刺激しないように気をつけて尋ねてみた。
すると、みるみるうちに涙があふれ出してきた。見ると、体も手も震えている。
言葉を途切れ途切れに、それでもなんとか、少しずつ話してくれた。
恋愛の問題だった。
すぐにでも飛んでって、目の前に立ち、頬のふたつやみっつやよっつ、思いっきり張り飛ばしてやりたいような男の話だった。
でも、よかった。
逃げようのない状況とか、世にも恐ろしい追っ手がいるとか、気がオカシイ人につきまとわれているとかいうことでは無い。
苦しいけれど、腹立たしいけれど、虚しいけれど、哀しいけれど、悔しいけれど、
それでも自分の心の立ち方次第で、目の前の景色をどうにでも変えられる可能性がまだある。
今の彼女には多分、そんなエネルギーも、力も、気持ちも、持つ事はできないかもしれない。
けれど、なにかのきっかけが彼女の心をヒョイと軽く持ち上げることができたら、案外それは簡単に、しかも気持ち良く、解決するかもしれない。
もうかれこれ20年も、そんな熱い(どういう状況であるにせよ)気持ちになっていないので、
向かいに座る若い女の子二人が、目をまん丸くしたり、うなづき合ったりしながら話すのを見て、ちょっと懐かしかったりした。
酷い別れ方だったし、もったいない二年間だったかもしれないけれど、
そしてしんどいことに、同じ職場でずっと顔を合わせていかなければならないのだけど、
そういう男はね、必ずまた、同じことをくり返すもんだ。
特に、彼のように、自分のどこがオカシイのか、悪いのか、それがちっともわかってない者はね。
必ずやるよ。保証する。
なので、本当のところ、あなたはラッキーだったのだよ。
もう二度と、同じ目には遭わない安全な場所に移ったのだから。
そして、彼から学んだあなたは、前より少し恋愛上手になって、もっと魅力的に、愉快に、人を愛せるんだものね。
もっと話していたかったけれど、仕事の時間がきた。
仕方がない。今度はお酒持参で、うちにおいで!
しゃべりたいだけしゃべって、泣いて、笑って、酔っぱらって、ハッピーになろう!と約束した。
ちょっと数分遅れたので、生徒の家までぶっ飛ばして行き、レッスン鞄を引っ掴み、ドアを開けて降りようとしたら、
えっ?!どしたん?!体が動かへん?!
か、金縛りかっ?!
愕然として我が身を見ると……、
確かにわたしの体は、しっかりと縛り付けられていたのだった……シートベルトに……
髪をカットしてもらっている時に、いつもいろんな話をする。
何年か前に、地元のブラスバンドと一緒に、ガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』を演奏することになった時、
あるトラウマから、どうしようもなく本番が恐くなって、全く眠れなくなってしまい、
旦那の仕事仲間の睡眠療法士のトレーシーに治療をしてもらった、という話もした。
エリちゃんがその話を覚えていて、悩める友人が一度催眠療法を受けてみたいと言うのでと、わざわざニューヨークから、オフィスのあるモントクレアの町まで、その友人を車に乗っけて来たのだった。
はじめは、彼女の友人が治療を受けている間、多分2時間ぐらいかかるはずなので、その間にお茶でも飲もうか、と言っていたのだけど、
やっぱり初めてのことだし、悩みを英語に替えて説明するまでに気持ちがまだ至ってなかったし、トレーシーの言うこともあまりわからなくて、結局エリちゃんが付きっきりで部屋に居なくてはならなくなり、でもそれだと催眠はできないので、三人一緒に二時間あまりの時間を過ごしたものの、治療に至ることはできなかった。
で、予定を変えて、エリちゃん、友人さん、そしてわたしの三人で、お昼を食べることにした。
もしよかったら、友人さんが話したかったらだけど、聞かせてもらった話をまとめて、トレーシーに説明することもできる。
そう思って、話の流れのいいところで、そぉっと、できるだけ刺激しないように気をつけて尋ねてみた。
すると、みるみるうちに涙があふれ出してきた。見ると、体も手も震えている。
言葉を途切れ途切れに、それでもなんとか、少しずつ話してくれた。
恋愛の問題だった。
すぐにでも飛んでって、目の前に立ち、頬のふたつやみっつやよっつ、思いっきり張り飛ばしてやりたいような男の話だった。
でも、よかった。
逃げようのない状況とか、世にも恐ろしい追っ手がいるとか、気がオカシイ人につきまとわれているとかいうことでは無い。
苦しいけれど、腹立たしいけれど、虚しいけれど、哀しいけれど、悔しいけれど、
それでも自分の心の立ち方次第で、目の前の景色をどうにでも変えられる可能性がまだある。
今の彼女には多分、そんなエネルギーも、力も、気持ちも、持つ事はできないかもしれない。
けれど、なにかのきっかけが彼女の心をヒョイと軽く持ち上げることができたら、案外それは簡単に、しかも気持ち良く、解決するかもしれない。
もうかれこれ20年も、そんな熱い(どういう状況であるにせよ)気持ちになっていないので、
向かいに座る若い女の子二人が、目をまん丸くしたり、うなづき合ったりしながら話すのを見て、ちょっと懐かしかったりした。
酷い別れ方だったし、もったいない二年間だったかもしれないけれど、
そしてしんどいことに、同じ職場でずっと顔を合わせていかなければならないのだけど、
そういう男はね、必ずまた、同じことをくり返すもんだ。
特に、彼のように、自分のどこがオカシイのか、悪いのか、それがちっともわかってない者はね。
必ずやるよ。保証する。
なので、本当のところ、あなたはラッキーだったのだよ。
もう二度と、同じ目には遭わない安全な場所に移ったのだから。
そして、彼から学んだあなたは、前より少し恋愛上手になって、もっと魅力的に、愉快に、人を愛せるんだものね。
もっと話していたかったけれど、仕事の時間がきた。
仕方がない。今度はお酒持参で、うちにおいで!
しゃべりたいだけしゃべって、泣いて、笑って、酔っぱらって、ハッピーになろう!と約束した。
ちょっと数分遅れたので、生徒の家までぶっ飛ばして行き、レッスン鞄を引っ掴み、ドアを開けて降りようとしたら、
えっ?!どしたん?!体が動かへん?!
か、金縛りかっ?!
愕然として我が身を見ると……、
確かにわたしの体は、しっかりと縛り付けられていたのだった……シートベルトに……