つい先日、首都圏の地震活動が3.11後に変化し、その結果、この4年のうちにM7程度の地震が起こる可能性が70%になった、という報道がありました。
M7という数字もさることながら、たった4年の間という短い時間の限定に、心配指数がグンと上がった人も多いと思います。
あれから頭の中にはずっとこの数字だけがこびりついていて、二日前の山梨方面で連発した地震には、本当に肝を冷やされた方も多かったのではないでしょうか。
わたしはその数字を旦那に、大騒ぎで言いました。
すると、「そういう数字はみんな同じようなもん。別にセンセーショナルに考えんでええねん」と嗜められてしまいました。
あんなおっきな地震が起こったのだから、しばらくはまだ頻繁に起こるだろうし、日本はもともと地震の国ではなかったのか。
それはそうやけど……ともやもやしていると……こんな記事が↓。
3月11日以降の首都圏の地震活動の変化について
2011年東北地方太平洋沖地震による首都圏の地震活動の変化について
以下の酒井准教授ほかによる試算は、
2011年9月の地震研究所談話会で発表されたもので、その際にも報道には取り上げられました。
それ以降、新しい現象が起きたり、新しい計算を行ったわけではありません。
上記の発表以外に、専門家のレビューを受けていません。
また、示された数字は、非常に大きな誤差を含んでいることに留意してください。
試算が示した東北地方太平洋沖地震の誘発地震活動と、首都直下地震を含む定常的な地震活動との関連性は、よくわかっていません。
当初から明言している通り、このサイトは個々の研究者の研究成果・解析結果を掲載したものです。
このサイトに掲載されたからといって、地震研究所の見解となるわけではまったくありません。
※報道関係の方へ:
関連する内容を報道される場合は、個々人の取れる地震対策にも触れてください。
地震防災・減災対策についてはこちら
■研究内容と図の作成:酒井慎一准教授・構成:大木聖子
はじめに
2012年1月23日、
読売新聞朝刊の報道には、次の四点の誤りや記述不足があります。
ここではそれらを訂正・追記しながら、試算に用いられた解析手法とその結果について解説します。
なお、以下では、東北地方太平洋沖地震を東北地震と略記します。
平田直教授による「マグニチュードが1上がるごとに、地震の発生頻度が10分の1になる、という地震学の経験則を活用し、今後起こりうるM7の発生確率を計算した」という説明は誤り。
正しくは「地震調査委員会の『余震の確率評価手法』を、東北地震による首都圏の誘発地震活動に適用し、今後誘発されて起こりうるM7の発生確率を計算した」。
前記の誤りにより、結果的に、島崎邦彦・予知連会長による「試算の数値は、今の時点での『最大瞬間風速』」というコメントも、適切な表現になっていない。
試算の対象である東北地震の誘発地震活動と、いわゆる首都直下地震を含む定常的な地震活動との関連性は、よくわかっていないので、
後半の平田教授のコメントのように、両者を単純に比較することは適切でない。
試算結果の数値に、大きな誤差やばらつきが含まれている点について、記述がない。
用いられた解析手法
大きな地震はめったに起きませんが、小さい地震はたくさん経験されたことがあると思います。
地震の頻度というのは、マグニチュード(M)が小さいほどたくさん起こり、大きくなるほど少ない、という経験則があり、
それが『グーテンベルク・リヒターの式』と呼ばれる関係式で表現されています。
たとえば日本では、おおよそ、
M3の地震は年に10,000回(1時間に1回)、
M4の地震は年に1,000回(1日に3回)、
M5は年に100回(3日に1回)、
M6は年に10回(1ヶ月に1回)程度、となることが知られています.
一方、大きな地震が起こると、余震がたくさんが発生しますが、余震の数は大きな地震(本震)から時間が経過するのに伴って減って行きます。
これを数式で表現したものが『改良大森公式』と呼ばれる公式です。
地震調査委員会は、これらグーテンベルグ・リヒターの式と、改良大森公式を組み合わせて、『余震の確率評価手法』を作りました。
この手法の適用範囲は、「狭義の余震」(本震の震源域およびその近傍で起こる余震)と明記されています、
酒井准教授らは、東北地震による首都圏の誘発地震活動も、広い意味では余震であるので、
この手法が適用可能であると考えて、M7の誘発地震が将来起こる確率を、2011年9月に計算しました。
3月11日前後での首都圏の地震活動
下の左図は、3月11日までの半年間(2010年9月11日~2011年3月10日)、右図は、3月11日以降の半年間(2011年3月11日~2011年9月10日)の、M3以上の地震の分布をあらわしています(気象庁一元化震源を使用)。
3月11日の地震の前後で、地震の数は、47個から343個に増加しています。
2010年9月11日~2011年3月10日のM3以上の地震の分布(左)と、2011年3月11日~2011年9月11日の地震の分布(右)。47個から343個に増えている。
この3月11日以降の地震活動には、3月10日以前からの定常的な地震活動と、東北地震による誘発地震活動の両方が含まれていますが、
後者の方が圧倒的に数が多いので、すべてが誘発地震活動である、として解析されました。
まず、グーテンベルグ・リヒターの式のパラメータb値や、改良大森公式のパラメータp値を推定します。
推定されたパラメータを、『余震の確率評価手法』の中の算出式に代入して、M7程度(具体的にはM6.7-M7.2)の誘発地震が、今後30年間に発生する確率を計算すると、98%となりました。
まったく同じ算出方法で、期間4年間として計算すると、確率が70%となりました。
試算結果に含まれる誤差
以上の試算結果には、次のような誤差が含まれます。
[1]「狭義の余震」のための『余震の確率評価手法』を、誘発地震活動に適用したことによる誤差
[2] パラメータb値やp値を推定する際に、発生する誤差
[1]の誤差については不明ですが、予測手法に明記されている適用範囲を越えて用いているので、かなり大きいことが予想されます。
また,[2]の誤差も、以下に示すように、かなり大きいものです。
上に示した、2011年9月での試算では、b値は0.67と推定されましたが、その後の2011年12月までのデータを含めると、b値は0.78と大きく変化しました。
同じように、p値の推定値も、大きくなってしまいました。
『余震の確率評価手法』には、改良大森公式が組み込まれているので、起算日を変えなければ発生確率は変化しないはずですが、
こうしたパラメータ推定値の変化により、30年確率の試算結果は、98%から83%に変わってしまいました。
つまり、[2]の誤差の試算結果への影響だけでもこれほど大きいのですから、両方の誤差を加え合わせた影響は、非常に大きいものと考えざるを得ず、
30年で98%や4年で70%、といった数字そのものには、あまり意味がないと考えてください。
ただし、
首都直下地震が起こるということや、それが切迫しているということは、以前から政府をはじめ多くの研究者が指摘しているとおりです。
今がその時と思って、備えてください。
政府公表の『今後30年で70%』とは異なる数値になる理由
読売新聞記事にも書かれているように、文部科学省の地震調査研究推進本部は、
南関東のM7程度の地震(いわゆる首都直下地震)の発生確率を、「今後30年で70%程度」と発表してきました。
本研究の試算「今後30年間で98%(あるいは、今後4年で70%)」は、政府発表の値とは異なるものとなっています。
この相違の理由は、見ているもの(評価や試算の対象)の違いである、と言えます。
政府の試算では、過去150年間に起きたM6.7-7.2の地震を数えて、その頻度から確率を求めています(参考:
地震調査研究推進本部の該当ページ (PDF))。
つまり、東北地震による誘発地震活動が始まる前の、定常的な地震活動の中から、首都直下地震に相当する地震を選び出して、発生確率を計算しています。
一方、本研究では、首都圏で起こる、東北地震の誘発地震活動が試算の対象です。
ところが、東北地震の誘発地震活動と、定常的な地震活動との間の関連性は、まだよくわかっていません。
したがって、両者の数字を、単純に比較することは適切でない、と考えられます。
どういう対策をとればいいの?
日本であれば、首都圏に限らずどこであっても、M7程度の地震が起きることが考えられます。
日本の国土は、地震によって作られてきました。
日本で暮らす限り、M7程度の地震に備えることは最低条件ですし、逆に、それを繰り返し乗り越えてきたから、今の私たちがあるのです。
日本は、M7程度の地震への対策が技術的に可能な、世界でも数少ない国です。
地震が起きる前、そして起きた瞬間にどうすればいいか、以下をご参考にしてください。
地震が起きたら、まず身の安全。
「落ちてこない」「倒れてこない」「移動してこない」場所に身を寄せましょう。
揺れがおさまったら、落ち着いて火の元を確認してください。
揺れている最中に、無理に消そうとする必要はありません。
ガラスが割れているかもしれません。あわてて行動しないように注意してください。
寝室には、スリッパやスニーカーなどを置いておいてください。
窓や戸を開けて,出口を確保してください。
門やブロック塀には近寄らないこと。倒れてくる恐れがあります。
家具類の転倒や落下防止をしておきましょう。これは自己責任です。
家の強度を確認しましょう。
1981年6月1日以前に着工した建物は、古い耐震基準で建てられています。すみやかに耐震診断をうけてください。
多くの自治体が補助をしてくれます。(自治体の防災課や危機管理室までお問い合わせください)
診断の結果、
補強の必要があれば、耐震補強をしてください。
多くの自治体が補助をしてくれます。(自治体の防災課や危機管理室までお問い合わせください)
地震が起きれば通信機器は使えなくなります。家族とどう連絡を取るか、ではなく、連絡が取れなくなったときはどうするか、を話し合っておきましょう。
地震は昼間に起きると思っていませんか? 夜間に発生することだって当然あるのです。
懐中電灯や履物の用意を再度ご確認ください。
首都直下地震のような直下型の地震の場合は、家屋の倒壊や家具の転倒による死者が8割を占める、と言われています。
実際、阪神・淡路大震災の時はそうでした。
逆に言うと、
耐震補強をして家具を留めれば、8割も被害を軽減できるのです。(学校の耐震化は急務です)
家屋が倒壊しなければ、火災も発生しにくくなります。
ブロック塀が倒れなければ、消火活動もスムーズになります。
被害はさらに軽減できるでしょう。
M7程度の地震から被害を最小限にとどめることは、ひとりひとりの心がけで可能なのです。
今がその時と思って、対策をとってください。
参考サイト:
東京消防庁 「地震その時 10のポイント 保存版」
東京消防庁 「地震に対する10の備え」