1月8日付けの、健全なスタンスを保っていると思われる社説を読みました。
事故以来、大手新聞、大手テレビ局には、ほとほとがっかりしてきたので、こういうまともさに出会うと胸が熱くなります。
そのことの異常さに、新たな失望を感じながら……。
【信濃毎日新聞】
40年で廃炉 脱原発への一歩とせよ
原発の運転期間を原則として40年に―。
細野豪志原発事故担当相が、原子炉等規制法の見直し案を明らかにした。
脱原発への足掛かりと位置付けたい。
ただ、確かな工程を示したというわけではない。
見直し案には抜け穴も用意されている。
廃炉に向けた、より具体的なスケジュールを野田佳彦政権に求める。
見直し案の柱の一つは、発電用の原子炉に「40年運転制限制」を導入することだ。
細野氏は「40年を期限に基本的に廃炉にしていく。
政治的判断が入り込む余地はない」と明言した。
原発の“寿命”は当初30~40年程度とされていたが、運転期間を定めた法律はない。
電力会社は「十分な管理をすれば60年間は可能」とし、経済産業省も認めてきた経緯がある。
人類史上まれにみる福島第1原発の事故を踏まえれば、運転期間を40年で区切るのは当然だ。
古くなった原発を「老朽化」と言わず、「高経年化」と呼び、運転延長を目指してきた電力会社と経産省の姿勢が問われた。
国内の原発54基のうち、30年を超えたものは19基ある。
「40年定年」が実現し新規建設がないとすれば、原発は確実に減り続け、最終的にはすべて廃炉になる。
見直し案を土台に、脱原発への具体的な工程表をつくるときだ。
注意すべき点がある。
政府案には、条件を満たせば一定期間の延長を認める例外規定が設けられている。
「原子炉の保全を遂行する技術的能力」などを審査したうえで延長を認めるというものだ。
これでは「40年定年」が空洞化しかねない。
もう一つ、
見直し案だけでは廃炉までに時間がかかりすぎる。
昨年の事故は、原発災害の深刻さを見せつけた。
いったん大事故が起きれば、極めて広い範囲の地域が汚染され、健康への影響も長期にわたってみていかなければならない。
原発は経済的な利益と比べることができない、けた外れのリスクをはらんでいる。
福島の事故を受け、ドイツのメルケル政権は昨年夏、2022年末までに国内すべての原発を閉鎖する法律を成立させている。
高まる原発反対の声に迅速に対応した政策転換である。
日本は地震列島だ。
いつまた大地震が襲うか分からない。
ドイツ以上に短い期間で、原発に頼らない社会を築くことが望ましい。
エネルギー政策の転換を含め、脱原発に向けた明確な青写真を急ぐ必要がある。
【中国新聞】
原発の寿命「40年」曖昧さへの懸念拭えぬ
原発の安全性を高めるため、原子炉等規制法の見直し案を細野豪志原発事故担当相が発表した。
運転開始から40年たてば原則として廃炉にするという。
これまでは運用上、30年を超えると国が安全審査し、10年刻みでの運転延長を認めていた。
初めて原発の寿命を法に定める意味は小さくない。
だが手放しでは歓迎できない。
40年を超えても延命が可能な「抜け道」が残るからだ。
「延長できるのは例外的だ」と細野氏は厳格な運用を強調するが、多くの国民は納得しづらいのではないか。
国内の商業炉54基のうち、福島第1原発の6基も含めた19基が運転開始から30年を超えた。
福島第1の1号機など、うち3基は40年を過ぎている。
年数がたった原発が多いのは、新増設が進まないことが大きい。
既存原発を長持ちさせる方がコスト面からも有利とされる。
ところが
運転開始から36年の玄海1号機(佐賀県)では、原子炉の圧力容器が中性子を浴びることで、想定以上に劣化が進んでいる可能性が指摘されている。
これに対し見直し案では、
原発事業者が40年を超える延命運転を申請した場合、経年劣化の状況などを調べて問題がなければ認めるとの項目が盛り込まれた。
その詳しい基準を明示していないことも含め、違和感は拭えない。
国のエネルギー政策全般に通じる曖昧さが今回も露呈したと言えないだろうか。
野田佳彦首相は原発の輸出に前のめりで、前政権が掲げた「脱原発依存」はかすみつつある。
太陽光や風力など再生可能エネルギーをどう増やしていくかの工程表もはっきりしていない。
そうした段階での寿命の法定化である。
厳密に実行すれば自然と脱原発依存は進むことになろう。
だが、
曖昧な延命措置が残れば、当面の再稼働に向けた「地ならし」が最大の目的とみられても仕方あるまい。
少なくとも国民が納得できるまで説明を尽くすことが、例外扱いの大前提となろう。
40年を超えた敦賀と美浜の各1号機(いずれも福井県)への判断が注目されるゆえんだ。
中国地方では島根1号機が運転開始から38年近い。
今回の見直し案に地元の松江市長が「不明な点がある」と述べるなど、地域が困惑するのも無理はない。
見直し案には、炉心溶融(メルトダウン)など過酷な事故への対策を全ての原発に義務付ける内容も盛り込まれた。
これまで電力会社の自主的な取り組みに委ねていた。
規制強化は遅すぎるほどだ。
福島の事故をみても、国と電力会社とのなれ合いが危機管理意識の甘さにつながった面は否定できない。
4月に発足する原子力安全庁はまず、互いの緊張関係が不可欠だと肝に銘じてもらいたい。
安全の「お墨付き」をする重さを自覚し、意識改革も進めなければ、規制の実効性は上がらない。
【南日本新聞】
[原発40年制限] 加速するか廃炉の流れ
わが国の商業用原子力発電所の“寿命”はいったい何年なのか。
原発の老朽化が懸念され、廃炉の是非が問われる中、政府は「40年制限」の方針を打ち出した。
細野豪志原発事故担当相が原子炉等規制法を改正し、運転開始から40年で原則廃炉とする案を発表した。
定めのなかった原発の寿命を法律で規定するのは初めてである。
40年が妥当な年限かどうかは賛否あるが、40年制限ルールを設けることは、原発の安全性を最優先する野田政権の姿勢の表れとみていいだろう。
野田佳彦首相は昨年9月の就任会見で「寿命が来た原発は廃炉。新設は無理」と明言しており、運転期間の法制化は「脱原発」の流れに沿ったものだ。
原発の運用条件を厳格にして安全性を確保することで、東京電力福島第1原発事故で失われた信頼回復を図る狙いが背景にはある。
これまで原発は運転開始から30年を迎える前に、経済産業省原子力安全・保安院が高経年化対策として施設の安全性を確認し、10年ごとに運転延長を認めていた。
保安院と電力業界は60年の安全を担保してきた。
そのため
国内54基の原発のうち既に30年を超えたものが19基あり、うち重大事故を起こした福島第1原発1号機を含め3基が40年を超えている。
九州電力の玄海原発1号機は37年、2号機31年、川内原発も1号機28年、2号機27年になる。
40年制限ルールが厳格に適用されれば、2020年末までに18基、30年末にはさらに18基の原発が廃炉になる。
原発はその後も減り続け、50年にはゼロになる。
民意をくんで脱原発を推し進めるなら、新たなエネルギー開発と、省エネ社会の実現に本腰を入れる必要がある。
気がかりなのは、このルールには例外規定があることだ。
事業者の申請で国が施設の老朽化を評価し、安全性に問題がなければ一定期間の運転延長を認めるという。
だが、原子炉は燃料の核分裂で生じる中性子による材料劣化など重大な損傷も想定され、チェックミスは許されない。
国は厳しく検査し、データを公開しなければならない。
例外規定が抜け穴として多用されると法改正も骨抜きにされかねない。
さらに、
うがった見方をすれば、国は老朽化した原発の廃炉をアピールする一方で、電力不足に対処するため別の原発の再稼働を急ごうとしているとも見て取れる。
40年制限ルールの運用の在り方に注視したい。