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沢村凛『カタブツ』

2007-05-22 15:57:35 | ノンジャンル
 吾妻ひでお氏が「しゃれた話に微苦笑」したという沢村凛氏の「カタブツ」を読みました。6編の短編集です。
 第一話「バクのみた夢」では、デパートのバクのぬいぐるみをきっかけに知り合いになった既婚者の二人・道雄と沙織里は、バクの絵があるという美術展でも出会います。二人はどうしても会ってしまいますが、それぞれの家族を愛しているので、知られて傷つかせたくありません。そのため、どちらかが死ぬこととなり、それぞれ単独で自殺を実行しますが、沙織里が道雄の子を妊娠していることが分かることによってどちらも失敗します。結局家族を傷つけることになり、どちらの夫婦も離婚し、道雄と沙織里は一人息子と幸せに暮らし、離婚したそれぞれの夫と妻も再婚します。そして、道雄と沙織里の息子は、この話を語り終え、今プロポーズしている最中なのでした、という話。
 第二話「袋のカンガルー」では、1日に30回は「愛してる」と言わせ、職場にまで「淋しい」と頻繁に電話するような恋愛をしては男から愛想尽かしされ、兄の僕の家に慰められにやってくる亜子。僕は恋人から普段は乱暴なカンガルーが袋に入れると大人しくなるという話を聞きます。友人からのアドバイスで亜子を始め人の世話をやくのを止めることにした僕は、願いごとをする亜子が背中にすがると、袋の中のカンガルーの気持ちになってしまう、という話。
 第三話「駅で待つ人」では、僕は不安を抱えながら駅の改札口で誰かを待っている人を見るのが好きです。そして待っていた人が現れた瞬間に彼らが見せる輝く顔を見るのも好きです。ある日、僕は魅力的な若い女性の待人を発見しますが、彼女が待っていた男は僕に「待たせたな」と言って、強引に僕を連れて歩き出します。事情を聞くと、あの女性とは1日一緒にいただけの人で、別れ際「また会いたい」と言うので、こういうタイプの女が苦手な男は「この駅で、水曜日、この時間」と言って別れたというのです。猛烈に腹のたった僕は高架橋の上で男を押すと、男は落ち電車に轢かれて死んでしまいます。しかし彼の死は彼女が気付いてなければ、今でも改札口で待ち続けているだろうと思うと僕は幸せなのです、という話。
 第四話「とっさの場合」では、強迫神経症の私は、とっさの場合に体が固まってしまいます。デパートで暴漢に襲われた時、夫は自分だけ助かろうとクッションで身を守っていました。このとっさの場合に、私は「二人とも無事で良かった」と見事に反応するのでした、という話。
 第五話「マリッジブルー・マリングレー」では、婚約者の実家へ向かう途中の海岸で、昌樹は既視感に襲われます。彼は過去に交通事故で事故前の2日間の記憶を失ったことに関係があると思います。そしてちょうどその時、その海岸で女性が殺されたことを聞き、自分が犯人なのでは、と疑心暗鬼になりますが、海岸の情景は映画で見たことがあることが分かり、ホッとします。が、久しぶりに会った彼女は「3年前の11月11日にあなたがしたこと、黙っていてあげるから300万貸して」というのでした、という話。
 第六話「無言電話の向こう側」では、合理的に考える得意先の社長・樽見と俺は親しくなるが、自宅のマンションの公共部分で殺された女性が再三助けを求めたにもかかわらず、マンションの住人が一人として助けなかったことで有名になった事件で、樽見が被害者の部屋の隣に住んでいたことを知ります。また、その時ヘッドフォーンで音楽を聞いていたことも突き止めます。毎週末、被害者が死んだ深夜3時8分に樽見にかかってくる無言電話に俺が出ると、樽見の元カノでした。自分の名前が美斗なので3時10分に電話していたと言います。お前、時計が2分進んでるんだよ、と樽見は怒り、俺は彼らがまたよりを戻すだろう、と思うのでした、という話。
 正直言ってあまり面白くありませんでした。第三話など、ひどい話だとも思いました。一話、二話、六話はしゃれた話なんでしょうが、あまりピンと来ませんでした。これは単純に感性の違いでしょう。この短編集をすごく楽しめる人もいると思います。一度読んでみてはいかがでしょうか?