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ジェフリー・ディーヴァー『魔術師・イリュージョニスト』

2007-06-04 15:52:50 | ノンジャンル
 吾妻ひでお氏が面白かったと言っているジェフリー・ディーヴァーの「魔術師」を読みました。
 音楽学校で女子学生が縄で海老ぞリに縛られた死体で発見されます。現場検証をしたサックスは全身マヒの犯罪学者ライムに証拠物件を見せたところ、犯人はマジックの経験がある人物で、協力してくれるマジシャンを探すようにいい、カーラという女性が呼ばれます。カーラは古典的な訓練を受けたイリュージョニストだと言い、フーディーニの脱出を再現した犯行だと言います。犯人は次の殺人を犯し、今度の死体はテーブルに仰向けになって手足をテーブルの脚に縛られ、腹を鋸で背骨まで切られたものでした。第一の殺人と多くの共通点があり、これも人体切断というイリュージョンの再現だとカーラは言います。現場検証からウマの毛とフンが発見され、次は乗馬クラブが犯罪の舞台になると考え、サックスとカーラは多くの警官と共に急行します。彼らが着いた時、犯人が被害者の女性を縄で縛りクレーンで水に沈めている最中でした。犯人は手から火の玉を放ち、一瞬周囲の人たちの視力を奪い、逃走します。見本市に追い詰めたサックスたちは、犯人を探しますが、悲鳴を上げて刺されて死んだカーラに気を取られている間に犯人を逃しますが、これはカーラの狂言でした。犯人は車で逃げますが、追跡に会い、川に車ごと落ち、その後ライムの前に警官姿で現れます。彼はライムを焼き殺そうとしますが、幸運にもライムは助かります。彼がライムの前で話したことは、殺したのは彼らが象徴していたもの、そして次は燃える鏡のイリュージョンとのことでした。カーラは彼の名前がエリック・ウィアーで、火災の時にひどい火傷を負い、妻も火災が原因で自殺した男で、その火災の時のプロデューサーが今目の前で行われている「シルク・ファンタスティーク」もプロデュースしているカデンスキーだと言います。
 ウィアーは10万ドルで殺しを請け負ったグレイディの部屋に侵入しますが、事前に察知していた警官に捕らえられ、手錠を2つかけられ、奥歯に隠した針金も取り上げられ、特別房に入れられることになりますが、留置所を前にして、2、3秒で手錠と足枷を外し、看守と揉み合いになるうちに、看守がウィアーの側頭部を撃って殺してしまいます。現場にサックスが行くと死体は消えていて、血も骨片も偽物でした。彼は地下に逃げ、早変わりをし、救急隊員の制服に身を包み、ガソリンと起爆装置を積んだ救急車を「シルク・ファンタスティーク」の客席の下に停めます。ショーが始まると、入り口付近で炎が噴き出し、炎の巨大なシルエットが広がります。
 ウィアーがホテルの部屋に帰ると、警官がドアを打ち破り、サックスが彼の後頭部に銃口を押し付け、監察医は彼の皮膚の数カ所の切れ目から小型の道具を見つけ、手錠は三重、足枷は二重にかけられます。驚くウィアーに地下で緊急車両にしか使わないペンキと救急車のカーペットのせんいが見つかったのだと、ライムは説明します。そしてライムはこの男はウィアーではなく、彼の弟子レッサーで、ウィアーが死んだ後、師匠のために復讐の機会を待っていたのだ、と言います。また「シルク・ファンタスティーク」の火事も警察が演出したものでした。事件は終わり、またそれぞれの日常に帰って行くのでした、という話です。
 前半の猟奇的な殺人、後半の息をも付かせぬ犯人と警察の攻防、これこそエンターテイメントでしょう。久しぶりに興奮して本を読みました。無駄な文が一切なく、計算された構成、適格な描写、言うことありません。最後の実は弟子だったというのは余計だったと思いますが、それにしてもなかなか出会えない見事な小説だと思いました。このレベルまで来ると、ミステリー嫌いとか、トリック嫌いとか言ってられません。逆にこれほど見事だと、これが著者の最高傑作で、これ以外の作品を読んだ時、ガッカリしないか心配になるほどでした。文句無しにオススメの小説です。
なお、もっと正確で原作に近いあらすじは「Favorite Novels」の「ジェフリー・ディーヴァー」の欄に掲載してあります。興味のある方はご覧ください。