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筒井康隆『笑犬樓よりの眺望』

2007-06-09 17:30:26 | ノンジャンル
 吾妻ひでお氏の推薦する筒井康隆氏の「笑犬樓よりの眺望」を読みました。月刊「噂の真相」に連載された時事コラムで、'84年5月から'93年10月までに掲載されたものをまとめた本です。
 最初のコラム「『笑犬樓よりの眺望』原稿料を暴露する」では、雑誌「海」に乗せた「春」という作品の中で文壇の裏事情を暴露する、と書いたところ、止めてくれと泣くものあり、何も言わないのに原稿料を倍にしてきた「文藝春秋」らの行動を実名を挙げてばらし、佐藤愛子氏の野坂昭如の立候補に対する過熱ぶりへの怒りの文章の引用し、雑誌によるマスコミ・新聞批判に対し、例えば朝日新聞のヒステリックな反論に対しては、実際の反論文のひどい文章を挙げ、一々そのひどさを検証しあざ笑っています。そしてこの文章の自分の原稿料が1枚1万円であることを暴露します。
 以後、同じような調子で、どんどん実名を出し、誉めたり、斬りまくったりするのですが、斬られるのは主にマスコミの不健全さ、馬鹿馬鹿しさ、残酷さ、非常識さ、特にスキャンダルに対する対応です。最近の出版業界の内状や文壇の裏話も実名で書かれ、身近な体験の報告もあります。
 筒井氏に言わせれば、相手かまわず喧嘩を吹っかける手もあるが、これは自ら進んで笑い者になり、差別される方向へ流れて行く事であり、私はフェアであること、健康的であることが筒井氏の心情であると思いました。
 それにしても、目次を見ただけでも吹っ飛びます。「報道カメラマンからわが身を守る方法」「突撃レポーターが開き直りはじめた」「匿名氏よ、名を名乗れ」「サトウサンペイはなぜ嫌われるのか」「川上宗薫に文学者魂を見た」「たかがマリワナごときで」「喫煙者差別に一言申す」「グリコ・森永事件にコメントしない理由」「誰がコンピューター・アートを喜んで見るのか」「マスコミ記者はもちろん市民ではない」「素人の、素人による、素人のためのテレビ、新聞」「部落解放同盟から抗議を受けた」「ことわりなしにシャッターを切る馬鹿が多過ぎる」「『取材してやる』というマスコミの身勝手」「売れない作家諸氏は女をひどい目にあわせなさい」「藤本義一の『勇気ある発言』」「大新聞の読者投稿欄がますますひどい」「大いに笑ったビートたけし『フライデー』乱入事件」「石原運輸相は文学的に『放言』すればよかった」「殺さば殺せ、三島賞選考委員の覚悟」「中沢新一助教授招聘騒動のつまらなさ」「料理食べ歩き番組は『セックスやり歩き番組』の代償」「テレビ・レポーターの荒廃した精神」「男はみんなミナザキツトム」「ビニール蛙に告ぐ」(股鍋直己氏への徹底的な攻撃)。そして最後は日本てんかん協会から、教科書に採用さえた筒井氏の文の表現にてんかんを差別した表現がある、との抗議を受けて、「日本てんかん協会に関する覚書」「断筆宣言」となるのでした。
 私は筒井氏については小説よりもコラム・エッセイの方が楽しめました。また本当の正義がここにあるとも思いました。この淀んだ世の中にうんざりしている方にはオススメの一冊です。