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打海文三『裸者と裸者(下)』

2007-06-24 15:17:39 | ノンジャンル
では、あらすじから。
 海人たちの常盤軍6千と他の二軍合わせて5万3千人が、素人集団の首都防衛軍6万人に対して侵攻を開始します。月田姉妹は犯罪地帯で政府軍の勢力が及ばない九竜シティへ逃げ込みます。姉妹は政府軍の兵士を殺した罪で、指名手配を受けます。彼女らは命の恩人である健二を政府軍の留置所から救うためトラックを売り、ワイロを使って虫の息の彼を救い出します。月田姉妹の仲間は、政府とつるんでいるマフィア・東京UFのドラッグを強奪して、戦いを仕掛け、姉妹は東京UFからも命を狙われることになります。彼女たちは戦災孤児を含めた女性だけの武装集団「パンプキン・ガールズ」を結成し、複数の場所に監禁されている戦争孤児を解放し、孤児施設に収容します。パンプキン・ガールズは東京UFの縄張りを徐々に奪って行きます。シティに根を張る人種差別・男性至上主義の集団「モーセ=2月運動」との戦いが続きます。そして最終的に海人や姉妹たちは、戦争を終わらせ、様々な人種が平和に共存できるシステムを作るために、東京UF、モーセ=2月運動、関東周辺の軍閥、政府等を相手に血戦の幕を開けます。すさまじい市街戦、飛び交う砲弾と肉片、そうした戦闘の後、海人の仲間たちは勝利します。平和な時間が戻り、久しぶりに仲間が勢ぞろいすると、爆弾テロで月田姉妹の1人が殺されます、という話です。
 せめてハッピーエンドにしてもしかった、というのが素直な気持ちです。でもこれが現実なのでしょう。私たちはこれを小説の中でのフィクションとして読んでいますが、アフガニスタンの人々はこれをノンフィクションとして読んでしまうかも知れません。そんな怖さがこの小説からはただよってきます。
 最後になって明確に述べられている事があります。共存を選ぶのか、排除を選ぶのか。統合をめざすのか、多様性を認めるのか。もちろん海人たちは共存を選び、多様性を認める社会を目指すのですが、そんな社会は永遠の夢なのかもしれない、とも思っているのです。夢では終わらせないようにしたい、なぜなら、夢で終わったら残った社会はひどく醜く汚れたものになるだろうから。そして夢を実現したい、なぜなら、そこから生まれる社会は、寛容で優しく美しいものになるだろうからです。
 そんなことを改めて考えさせてくれる小説でした。話としてもよくできているし、描写も適切で読みやすかったです。ちょっと長い小説ですが、オススメです。