gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

加藤泰監督『人生劇場 青春・愛欲・残侠篇』その1

2017-02-19 05:39:00 | ノンジャンル
 加藤泰監督・共同脚本の’72年作品『人生劇場 青春・愛欲・残侠篇』をWOWOWシネマで見ました。ちなみに下記の「~」は、よく聞き取れなかった台詞です。
 沸騰するヤカン。風の音。拳銃に弾をこめる瓢太郎(森繁久彌)。瓢吉宛ての手紙を書き、茶を飲む。眠る妻(津島恵子)。拳銃自殺する瓢太郎。銃声で駆けつける吉良常(田宮二郎)「大旦那さん……。立派にやんなすった」。
 タイトル。
 “大正五年・秋 東京”の字幕。汽車の音と煙。“高山自転車”の看板。」
 “貸し間あり”の看板。
 セックスする瓢吉(竹脇無我)とお袖(香山美子)。「青成さーん、電報ですよ」「借金取りか?」。体を離す2人。タバコを吸い、物思いにふける瓢吉。お袖「亡くなったわ、お父さん。行くんでしょ?」「お前、一旦帰ってろ」「どこへ?」「柳水亭へ」「そうね。私たち、潮時かも」。お袖、泣き出す。「いいのよ、いつか捨てられる。時が来るまで待っててくれって約束したの、覚えてる? 初めて会った時、あなたは早稲田の学生で、私は女中。酔った私に口移しで水を飲ませてくれたわよね。あんたのためなら何でもするつもり」「一人前の小説家になるまでは待ってくれ」。お袖、財布を取り出し「30円入ってるわ。お母さんの好きなものを買っていってあげて」。
 “三州・横須賀(吉良)”の字幕。玄関に男「ごめんよ。誰もいねえのかい?」吉良常「よりによってこんな日に借金取りか?」「返す気あるのか?」「てめえ、随分はぶりがよさそうじゃねえか? 御恩があるお方だったんだから、棒引きにしろ。高利貸ししやがって。辰巳屋ののれんには手を触れさせない」。
 男、床屋のヤクザの元へ。「どうした三平? 吉がムショから出て来たって? 10年前の借りを返してやる。ぬけぬけとしゃしゃり出やがって。血の雨を降らせたる」。床屋から駆け出すヤクザ。「お勘定は?」と店主。
 瓢吉、帰宅。吉良常「若旦那。これが形見のピストルです」。手紙を読む瓢吉。母「何て書いてあるんだい?」「借金には払うなって書いてある。読むよ。“やりたいことをやれ。母を第一に大事にしろ。墓はいらない。辰巳屋ののれんも気にするな。お前が立派な男になれば、それで辰巳屋を継いだことになる”」。
 葬列。
 葬儀。瓢吉にヒソヒソ話をする男。その場を後にしようとする瓢吉は、こんにゃく和尚(伴淳三郎)に呼ばれる。「どうした?」「吉さんのことで急用が。~組の連中に連れていかれたらしい」「ほっとけないのか? 瓢太郎は何もかもお前にかけて死んでいったんだ。気をつけろよ」。
 ヤクザ「10年前に親分が世話になったな。いい気になりやがって」。駆けつけた瓢吉「待て」と拳銃を構える。ヤクザ「覚えてやがれ」と逃げ出す。吉良常「あっしのような者のために。ありがてえ」「常さん、何だい、こりゃ?」「何かないかって、ハサミを持ってきたんだが、こんなのあってもしょうがないですね」「俺のも全部空砲だよ」。笑い合う2人。
 家を出る瓢吉とその母と吉良常。母「東京に出る前に横浜の姉のところへ寄りたいのだけれど」瓢吉「東京に出たら、またいつ戻れるか分からない」吉良常「あっしがお送りしましょう。若旦那は先に行ってくださいまし」。
 “それから三年 大正八年・夏 東京”の字幕。どしゃぶりの雨。背中に見事な刺青を入れている飛車角(高橋英樹)とおとよ(倍賞美津子)がセックスをするのを覗く奈良平(汐路章)。宮川(渡哲也)が現れ、飛車角に「すぐ来てほしい」。飛車角、おとよに「~の兄貴のところに行ってくれ。俺たちのいる場所がばれた訳じゃない」「お前さん、気をつけて」。
 小金親分(田中春男)「角さん、わらじを履いてくれ。急な訳ができたんだ」飛車角「~一家に殴り込みでしょう。お供させていただきます。それでないと男の仁義が通りません」「すまねえ。力を借りるぜ」。
 土砂降りの雨の中、殴り込みは成功する。
 雨止んでいる。帰る小金組と飛車角。皆、いい気になって浪花節を歌いだす。飛車角「親分のピストルを一丁落としてきたみたいですね。あっしがちょっと探してきます。ただ一つ頼みが。おとよを芝浦のところへ移してくださいませんか?」。
 飛車角「ありましたよ。ピストル。安全装置がかかったままだ。あれ、皆さん、随分お静かで」小金親分「それが角さん、おとよさんがいねえんだよ。おかみさんが言うには、夕方自動車で連れていかれたらしい。目玉のぎょろっとした男だったと」「それは奈良平だ。どうして今頃? なに、心配ありません。懸賞金が目当てなんでしょう」。(明日へ続きます……)

川上未映子『おめかしの引力』

2017-02-18 03:44:00 | ノンジャンル
 川上未映子さんの’16年作品『おめかしの引力』を読みました。朝日新聞に2008年4月25日から2014年3月20日まで、月1で書かれた同名のエッセイに、語りおろしの座談会を加えてできた本です。
 いくつか引用させていただくと、

・「(前略)数ある骨のなかで絶対的にどうしようもないのが、頭蓋骨、いわゆる頭の形であります」
・「「先日、ある出版記念パーティーでひさびさに会った友達に『ミエコさん見てたら、ほら、あの人。あの人思い出すわあ。ほら……あの人』『えっ誰やろ。あっ、もしかして、あのフランスの……』『ううん……あ、わかったっ。志茂田景樹木ィ! 青いタイツもおそろいやん! 似てるー。ウケるー』だって。ああ」
・「おしゃれにとって秋から冬というのはなんとも心膨らむというか、愉しみどころが満載の季節であって、手袋、首巻き、ファー各種。欲しい&お役立ちアイテムがありすぎて困ってしまう。そのなかでも抜群に重宝し、かつ外せないのは、タートルネックではなかろうか」
・「これは形成外科の先生によると単に肩が下がってしまっているから長く見えるというだけで『首が長い』というのはそもそもないらしく、だいたい長さはみなおなじなのだそうだ」
・「首を温めればセーター二枚分、とは子どもの頃から朝礼などでよくいわれていて、冬場は母によくタートルネックを着用させられていた覚えがあるけれど、(後略)」
・「本当のおしゃれ人というのは、布の質感や素材かを知り尽くしていて、コーディネイト全体のバランスがちゃんと見えているのがその条件(後略)」
・「そして顔といえば眉毛。顔にも色々なパーツがあるけど、眉毛をいじることほどアグレッシブな印象操作もないので(後略)」
・「画一化された質やデザインのものを着こなすには、あらゆる世間と論理を弾き返す若さか、真のおしゃれ眼が必要であって(後略)」
・「ところでみなさんご存じですか、コスプレマニアのスヌーピーの目には、コンタクトレンズが入っていることを」
・「洋服はやっぱ最高ねえ、なんて感嘆しつつあれこれ試着して『これ以外は考えられんね』なんて思って、いくらですかと尋ねると『こちらのスカートはアライアで三十万円、そのニットは十八万円でございます』の世界なのだった」
・「さらに剣呑なのは、悪魔のささやき『ザ・日割り計算』。『一生着るんだから一回につきこれくらい、と思えば安いんやないの』という、恐ろしい錯覚なのだった」
・「(シルクのパジャマを着たら)なにこれ。ものすごく温かくって、保温の質たるや、これまで経験したことのないぬくもりがゆるやかにどこまでも持続して、わたしはとても驚いた」
・「ファッションに限らず、既成概念と抑圧とを相手に根気よく闘い、そのつど少しずつ新しい風を獲得してくれた様々な分野の先達のおかげで、今、当たり前になったことが(とくに女性は)あまりに、あまりに多い(後略)」
・「映画のことなんかなんにも知らなくても、年に一度のアカデミー賞は、見ていてちょっと楽しいですねえ。(中略)つぎからつぎに登場する女優たちの装いには、毎年のことながらうっとりだ」
・「UVケアはもう常識だけど、UVカット加工されたサングラスをかけないと意味がないなんて、恥ずかしながら知らなかった」
・「紫外線というのは肌以外にも目から吸収されて、その刺激&指令でメラニンが分泌されるというメカニズムがあるからで、とくに外を歩くときは要注意」
・「伊勢丹の下着売り場の試着室って、照明とか三面鏡の角度の容赦なさによって、ふだん見ないで済んでいるものが、ぜんぶ見えてしまうのよ。(中略)しかしわれわれはひとりではない! 伊勢丹の下着売り場のみなさまは、も、まったくのプロフェッショナルで、こう、全力で型に嵌めにくるというか、すごいんである」
・「おめかしの喜びとは、トライ&エラーの果てにやってくる、『つかのまの完璧なフィット感』なのかもしれません」
・「『おしゃれ』と『おめかし』にあえて違いを見つけるとしたら、『おしゃれ』ってやっぱり他人の評価が入っている気がするんですよね。(中略)でも『おめかし』には、主体性がある。自分にしかわからないおめかしもありますよね」

 未映子さんのエッセイはその文体も楽しめて、例えば、「無根拠な、でもそうでないといけないようなこの感覚って何に似てるのかと無理やりに考えてみると、まさかの貞操観念めいていて、気が滅入る。気になって調べたら財布はベタに女性器の象徴であるらしく(BYフロイト)、うんざりだ! ああ、それが何を意味するのかについては保留したい。なむ」といった文章も多く見られました。
 楽しい本を読みたい方にはオススメです。

加藤泰監督『宮本武蔵』その4

2017-02-17 04:56:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
沢庵「何で人を殺すのか?」武蔵「関ケ原までは、顔を知らぬ主人のため虫けらのように死んでいた。今では自分なりの生涯を作りたい」「なぜ小次郎との勝負を避けた? お前、小次郎が怖いんだろう? それでよいのじゃ」「私は登ってばかりで、絶壁の途中です。もう一度千年杉に吊るしてください。悟りを得たいのです」「わしも悟りの“さ”の字も分からんというのに、たわけたことを。剣の道に悟りなどない。さっさと小次郎に斬られてしまえ。宮本村ではお通が待っておるぞ」。
“作州・宮本村”の字幕。雨。「お婆様、お通でございます」お杉「わしゃ、もう目が見えんけえ、ここじゃ、ここじゃ」「こんなにやつれてしもうて、いつお戻りに?」「おとといの晩。足を棒にして全国を歩き回り、疲れ果てた」「又八さんは?」「途中で逃げてしもうた。お通、お前は何しに?」「一人で戻られて、ひどく難儀をしていると聞いたので。おかゆでも作りましょう」「その前に水を一杯くれんね。お前もわしを恨んでくれたんだろうな。こうして助けに来てくれて、ありがたや、ゴホ、ゴホ」「このうちは隙間風が。一緒に暮らしましょう。このようになったのは私のせいです。一生かけて償うので一緒に」「武蔵のことは諦めたんか?」「もうこの村に帰らないでしょう。これからは嫁と思ってください」「おのれ、よくも家名に泥を塗ってくれたな! 今ここで仇を取る。覚悟じゃ!」。逃げるお通。戸板が外れ、雨嵐が室内に。外に出て、お通の首を絞めるお杉。お通、意識を失う。笑うお杉。「又八、仇の片割れをこの婆が取ってやった。あとは武蔵じゃ。居場所も分かったぞ。小次郎と決闘じゃ」。
沢庵、又八に、「黙って付いて来い」。橋の下で赤ん坊をあやす朱美。又八「随分変わったのう」「私も今大津の家にいる。武蔵は堺の港へ、小次郎と決闘しに」「では今朝この橋の上を通った訳か? その赤ん坊は?」「この目、この鼻、馬鹿、分かんないのかい?」「俺の子? 和尚、このかわいい顔。知らぬ間に似てて親に。私は今日を限りに還俗します。女房と子のために」「お前は武蔵より先に悟ったな。まぎれもない人間だ。武蔵には分からん。だから馬鹿の馬鹿だ」。
“武蔵、小次郎の対決は、慶長17年(1612)4月13日 辰の刻(午前8時)、関門海峡の船島に於いてと決まった”“小倉”の字幕。「なんで船島でやるんだろう?」。
“船島”の字幕。待つ小次郎。(中略)
 “門司”の字幕。又八「おい、朱美、めし食うか? わざわざ京から武蔵に会いに来たんだ。武蔵とは肝胆相照らす仲だ。生まれた時からの」
 小次郎「鷹をここへ。城へ帰れ」と鷹を放つ。(中略)
 「そろそろお時刻です。お召し物は揃えてあります」。木刀を削る武蔵。「ご主人、そろそろ引き潮か?」「まだです。巳の刻になるかと」「船の用意は?」「とびきり速いのを」(中略)「ここに観音像がある。これを形見代わりに。今晩も世間話ができればいいように祈っていてくれ」。
 「お通さん」「武蔵さん」「こんなところで一人で?」「はい」「村に戻っているのか?」「お婆様が亡くなりました」「又八は知ってるのか?」「はい」。泣く武蔵。「許せ。(お通に)お通、お前、わしの妻じゃと? 言うてはかえって味気ないもの。武士の女房なら出陣の時、笑って送ってくれるものぞ。これきりかもしれん。では」。お通、追う。「武蔵さん」。お辞儀をするお通。
 雨。船の上。武蔵「だいぶ遅れたな」船頭「巳の刻すぎかも」「あれは」「彦島です」。彦島に控える門弟たち。
 荒れる海。小次郎「岸間殿、藩の指南役として、細川家と個人、どちらにしても負ける訳にはいかん。必ず倒す」。「来たー」。「手出しは無用」。武蔵の船頭「どの辺りへ」「まっすぐに」。高いところから見物する者たち。武蔵、浅瀬に入る前に海に飛び込む。見物する者たちの中に又八と朱美。小次郎「待ちかねたぞ。武蔵を斬るのは佐々木小次郎だ」。小次郎は刀を抜くとさやを捨てる。武蔵「勝つならなぜさやを捨てる? 小次郎、負けたり!」。一瞬の間で勝負は決し、武蔵の額から血が流れ、小次郎は口から血を出して倒れる。小次郎にとどめをさした武蔵は、一目散に船に向かう。船頭「なーに、誰も追いつくもんですか」。又八と赤ん坊をあやす朱美。又八「もしもの時、骨を拾うつもりだったが、ついに会えんかったのう。武やん、これからどうなっていくんじゃ?」。歌が流れ始め、真剣な武蔵の表情のアップで映画は終わる。

 この映画も、武蔵の剣の道を描いているようで、本筋は男女の愛を描いた作品でした。シナリオの第一稿には、武蔵とお通のセックスシーンまであったということです。作品の長さ(2時間28分)もテーマも『人生劇場 青春・愛欲・残侠篇』(2時間47分)や『花と龍 青春・愛憎・怒涛篇』(2時間48分)と共通するものがあると思いました。

加藤泰監督『宮本武蔵』その3

2017-02-16 04:35:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
 「若先生のお帰りだ」「一介の浪人が。どこに?」「もうおりませぬ」「探し出せ」「伝七郎様にも伝えた方が」「道場主は俺だ。伝七郎になど伝えなくてよい!」。
 決闘を告げる立札。「武蔵さん」とお通。又八、お通を見つける。「お通さん、変わらんのう。おい、怒っとんのか?」「もう忘れてしまったけん」「頼む、またより戻してくれ」「うちが探してるのはあんたじゃない」お杉「お通、覚悟!」と刀を振り回す。逃げ出すお通。「又八、お前も何で斬らんのだ? 武蔵はお通と駆け落ちしたんだ。2人の首を取らにゃ村には帰れん」「武蔵の野郎」と又八。(中略)
 草鞋を履く武蔵。「大層世話になった」「気をつけて」。「武蔵、覚悟!」「おばばか?」「無念じゃ。せがれの仇なのに。わしを殺せ」「又八はどこ?」「勘当した」。つばを吐かれた武蔵は、それがつばでなく針であることを知る。去る武蔵。
 笛の音。「お通さん」「武蔵さん」「国へは帰ってなかったのか?」「武蔵さんの噂を聞いて、~様のお世話になって、どんなに会いたかったか」「許してくれたか」「ううん。一条寺の下り松へ行くんでしょ? 武蔵さんが死んだら、私も生きておらん」「そんなバカな。お通さん、本当のことを言う。そなたが好きだ。一日とも忘れたことはなかった」「死なないで」「行かにゃならん」「今日の名目人は十三歳でしょ?」「でも後へは引けん」「村に帰りましょう」「今帰れば真実勝ったことにならない。剣に生きようと心に決めた男なんだ。恨んでくれ。さらばだ。お通さん、会えて良かった」。武蔵、去る。涙をつたわせるお通。「でもあんたが死んだら私も死ぬ。それは私が決める」。
 「集まったのは六十名ばかり」「まあ少ないがいいだろう。源次郎、心配するな。下り松の下を動くでないぞ。お前たち、鉄砲や弓矢のような飛び道具は卑怯千万。止めなさい」。
 水で体を清める武蔵。あえて願はかけない。
 「遅いな。武蔵」「あっ」。竹林から現れた武蔵は源次郎の首をはねると、すぐにまた竹林に逃げる。追う門弟たち。延々と逃げながら、敵を斬る武蔵。
 音楽。逃げ延びた武蔵。
 “休憩”の字幕。
 “奈良”“宝蔵院流に挑む”の字幕。相手は槍。相手が動き出した瞬間に隙を狙い、打ち勝つ武蔵。
 “秩父 宍戸梅軒と対決”の字幕。梅軒(戸浦六宏)の鎖鎌に雨の中で勝つ武蔵。
 “江戸 柳生流に挑戦”の字幕。(中略)
 「なぜ対戦していただけないんです? 格が違うということですか?」「天下を治める剣です。殺生剣とは違います。将軍家のため、国のため、人のため、死ぬことを心得るのです」。
 「死ぬるための剣? 誰のために?」。
 研ぎ屋(汐路章)で武蔵「刀研ぎを頼む」「拝見しましょう。この刀をどう研げと?」「切れるように」「できません。
よそで頼んで下さい。表の看板をご覧ください。侍の魂はお研ぎしますが、これだけ刃こぼれした人を殺すだけの刀は……。刀は世を鎮めるためのものです。この刀をご覧ください。いかがです?」「斬れる。殺気に満ちている。だが刀こぼれが一切ない。これほどの大きな刀をどうやって?」「肩に背負っているそうです。岩間の佐々木小次郎という方のものです」。
 御前試合。小次郎、相手(沼田曜一)に勝つ。岩間(加藤武)は上機嫌。「長岡が宮本武蔵を推してる」小次郎「武蔵が細川家の仕官など。武蔵などと比べられるものとは」「お光、~」お光(仁科明子)、現れる。小次郎「考え直しましょう」。(中略)
岩間「そちは武蔵をどう見る?」小次郎「武芸者としては一目置かねばなりませんが、人物としては何ほどでもない。頭はいいです」「三人も売名に必要だったのか。武蔵の剣は?」「名人です。世渡りの名人です。驚く奇策を弄します」。武蔵、現れ、「拝顔できて光栄です」岩間「今、そちの噂をしとったところだ。逃げの達人だと」「世評は様々です」「細川家の士官については?」小次郎「天下一の死に場所です」。武蔵、答えず。岩間「天下一が二人じゃ困る」武蔵「実は仕官を望んでいません」岩間「どっちにしてもいつか日時制限して対決してもらおう」武蔵「いずれ」小次郎「立ち合いに時節はあるのか? お主は勝てる相手しか相手にしていない」「やる気ならいつでも」。
又八とお通がいるところへお杉、お通に「頼むから討たせてくれ」。
 “大津 祟徳寺”の字幕。武蔵「沢庵様にお取次ぎ願いたい」又八「一体どうしてここへ?」「沢庵様は?」「江戸に。俺は朱美と大阪で所帯を持ち、スイカ売りなどしていたが、やがて酒びたりになり、朱美に愛想をつかされ、悪い仕事に手を出し、沢庵様に助けられた罪深い男さ」と泣く。「泣くな。ここで心のやすらぎを得れば」「禅寺の修行は厳しい」「くじけるな。わしも苦しみ抜いて」。沢庵、現れ、「とうとう来たか。鼻たれ坊主」。(また明日へ続きます……) 

加藤泰監督『宮本武蔵』その2

2017-02-15 07:20:00 | ノンジャンル
 昨日、WOWOWライブで放映されたグラミー賞の授賞式を見ました。リベラリストの総決起集会といった感じで、それだけでも素晴らしかったし、ニール・ダイヤモンドを中心に会場中で『スウィート・キャロライン』を合唱したのも涙ものだったし、CDを出さず、無料のストリーム配信だけという形で最優秀新人賞と最優秀ラップアルバムをチャンス・ザ・ラッパーが受賞した場面の盛り上がり方も尋常じゃなかったのですが、実際に演奏される音楽はバラード、ヒップホップ、カントリー、それに少しのブルースとヘビメタといった感じで、私が好きなメロディアスでポップな曲は1曲もありませんでした。あえて言えば、結成40周年ということで行われたビージーズへのトリビュート・コーナーと、昨年一年に亡くなった人を追悼するコーナーでデビー・レイノルズ、レオン・ラッセル、モハメド・アリ(ってボクサーじゃなくて歌手だったんですか? あえて兵役拒否をした勇気ある人として掲揚しただけかもしれないのですが……)の名前が呼ばれたことが私的には価値あるものだったのかもしれません。

 さて、昨日の続きです。
 待ち伏せをする吉岡道場の門弟たち。武蔵が現れると、店主「先ほどから何回も吉岡様の方々がいらっしゃってます。それから一人酒癖の悪い方が」。「おお、武やん」「おお、又やん」「俺たちは竹馬の友じゃけん。今は後家の慰み者だ」「村を出た時の気概で、もう一度やり直せ」「ここに何のために来たと思う? お前を殺すためじゃ。手ぶらでは帰れない」「お通は?」「武やん、お通を返してくれ。あの純な胸に。お前、裏切ったな?」「わしゃ、お通の居所は知らん」「お前の後を追って京にいる。武やん、やっぱお前、お通に惚れとる。顔が赤うなった。明日は果し合い。わしがついてるけえ、骨ぐらいは拾ったる」。
 朱美、清十郎に襲われる。「体はあたしのもの」。抵抗するが、殴られる。両親「ンフフフフ。これでどうやら成仏しそう」。帰ってきた又八「この妖婦め。畜生。ババア」と朱美を助けに行こうとする。朱美の着物をはぎ取る清十郎。又八、朱美の両親に追い出される。犯される朱美。泣く又八。
 ろうそくの灯り。ことが終わり、死んだように横たわる朱美。「許せ。それほどお前に惚れていた。男は大抵こうしたものだ。いずれ分かる」「嫌い。けだもの。たけぞうに殺されてしまえ」「たけぞう?」。
 川で体を清める朱美。「風邪をひくぞ」と止める又八。泣く朱美。「いっそ死んでしまいたい」「あのお甲が鬼なんだ。大阪に逃げよう。汚く稼いで面白おかしく暮らそう」「どこでもついて行く」。抱き合う2人。「俺が出世したら、おふくろだって許してくれるだろう」。
 決戦の場。清十郎、待っている。「試合が始まりました」と野次馬。清十郎、武蔵に肩を打たれて倒れる。立ち去る武蔵。道で立ちふさがる小次郎(田宮二郎)。武蔵「吉岡道場の者か?」。首を振る小次郎。2人すれ違う。
 清十郎「痛い! 右の肩から腋にかけて。片腕を切り落とせ」「肩の骨がぐじゃぐじゃになってる」。そこへ小次郎、現れる。「岩国の住人、佐々木小次郎だ。戸板で帰ったら世間の物笑いだぞ。歩いたらどうだ?」「分かった。おい、腕の付け根から斬れ」たじろぐ門弟に小次郎「私で良ければ」「頼もう」「このままでは肩の血が頭に回ってしまう」。腕の付け根を縛り、片腕を斬り落とす。清十郎、立ち上がり、門弟たちに「放せ」と言い、一人で歩いて行こうとするが、途中で倒れてしまう。
 馬を駆る伝七郎(佐藤充)。
 壬生源左衛門(石山健二郎)に、床についている清十郎「私が思い上がっていたのです。亡き父の名声を自分のことであるかのごとく。家名に傷がつく。なぜ死ななかったんでしょう?」「舎弟様が」。伝七郎、現れる。「どうした、兄上」清十郎「お前もそろそろ屋敷に落ち着き、吉岡の家名を継いでくれ」「汚名は晴らす。居所は?」「思い違いをするな。お前では勝てん」「馬鹿をおっしゃい」「お前までやられたら道場が亡きものとなる」「兄上は線が細い」源左衛門「頼むぞ、伝七郎」。
 伝七郎「今日からこの道場は俺のものだ。ただちに果たし状を届けろ。決闘の場を跡目披露とする。そしてこの道場に軟弱な空気を入れた祇園藤次は破門とする」「そんな」「出ていかぬと斬り殺す」。
 雪の夜。「武蔵が来た!」「一対一の勝負だ。敵をあなどるな。皆下がれ」。武蔵、現れる。「遅いぞ」「木太刀か、真剣か?」「真剣勝負じゃ」。伝七郎、斬り殺される。
 立札をみる町人「三度目の果し合いだってよ。あさっての朝。一条寺のふもとの下り松。名目人は壬生伝次郎。清十郎の叔父、源左衛門のせがれだ。当年とって十三歳。まだ年端もゆかぬ子供ゆえ、門弟たちが助太刀だ。よってたかって」「始めからそうすればよかったんだ」。(また明日へ続きます……