みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

続「東京都青少年健全育成条例改正」問題/藤本由香里さんの「意見書」/「(財)日本図書館協会」の要請

2010-03-18 09:39:00 | 「ジェンダー図書排除」事件
一昨日のブログでアップした、東京都の3月議会に上程されている
「東京都青少年健全育成条例」問題についての、続編です。

東京都青少年健全育成条例改正案/18歳未満の性描写を禁止
~「表現の自由の侵害」条例案に反対の声明(2010-03-16)



きょうの午後、条例改正案が付託された総務委員会があるようですが、
現時点では、民主党などの反対で「継続審査」となる見込みとのこと。

性描写規制案 先送りへ 都議会 民主、批判に配慮
2010年3月18日 朝刊

 子どもを性的な対象に描いた漫画やアニメを規制する東京都の青少年健全育成条例改正案は、都議会総務委員会で賛成か反対かの採決が先送りされる公算になった。最大会派の民主党は「審議時間が足りない」として継続審査とする方向で各派と調整、継続審査動議を提案して可決される見通し。
 共産党や生活者ネットワーク・みらいも継続審査に同調する見込み。民主を含むこの三会派で委員の過半数を占める勢力になり、十九日の採決で決まる。
 自民、公明は改正案に賛成する方針を固めている。
 改正案では、十八歳未満として描かれている漫画の登場人物を「非実在青少年」と表現。こうしたキャラクターへの性暴力を誇張して描いた作品を、十八歳未満の子どもに販売しないようにする規制を盛り込んだ。
 民主党幹部は「条例の趣旨は賛成だが、懸念が多く寄せられており、払しょくする必要がある」と説明している。
 条例改正案をめぐっては、最大会派の民主だけでなく、自民、公明や議会局などにも「表現の自由を損なう」などとして反対する手紙や電子メールが全国から殺到。特に議会局には十六日からメールが急増し、一日二千通以上が押し寄せた。二月は約六十件、三月は十五日までに約三百件の意見が届いていたが、大きく報道されてから急増した。ただ、漫画全体が規制されるといった誤解もあるという。
 漫画家のちばてつやさんらが十五日、反対のアピールを表明。日本雑誌協会、日本書籍出版協会など四団体でつくる出版倫理協議会も十七日、「当局の恣意(しい)的な判断によって、検閲や弾圧につながる恐れがある」などとする反対声明を発表した。



都の漫画・アニメ規制案 出版4団体が緊急反対表明
2010年3月17日23時39分 朝日新聞

出版業界の4団体で構成する出版倫理協議会は17日、漫画やアニメなどに登場する18歳未満と判断される架空の人物の性描写を規制対象にする東京都の青少年健全育成条例の改正案に対し、「緊急反対表明」を発表した。協議会は「年齢制限のマークをつけたりシール止めを施し、書店やコンビニでの区分陳列や対面販売など、自主規制に努めてきた」とし、改正案は「業界の自主規制の努力をないがしろにするもの。当局の恣意(しい)的な判断で検閲や弾圧につながる」と批判している。
 出版倫理協議会は、日本雑誌協会、日本書籍出版協会、日本出版取次協会、日本書店商業組合連合会で構成されている。出版社から流通企業、書店まで、業界全体にかかわる団体が名を連ねており、日本雑誌協会は「出版業界全体が反対ということ」と話す。


わたしも、ここ数日、この問題に関するニュース等を追ってきましたので、
もっと詳細な情報を知りたい方は、P-WANセレクトニュース
にアップしてありますのでご覧ください。

 
●『民主都議は反対を』 子ども性描写漫画規制案(2010年3月17日 東京新聞)他
●「非実在青少年問題」イベントレポート! 規制が孕む問題とは?
(2010年3月17日 インフォシーク)他

●漫画の性描写、都規制案 結論先送りの方向
(2010年3月17日 朝日新聞)他

●ネット事業者らが一斉反対--東京都「青少年健全育成条例」改正は何をもたらすか
(2010/03/16 CNET japan)他
 

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この問題については、マスコミのミスリードもあるようですが、
日本マンガ学会理事で、今回、いち早く「考える会」を立ち上げて動かれた、
藤本由香里さんの「意見書」に問題点がきちんと整理されているので、
ご本人の了解を得て、転載させていただきます。

     「東京都青少年健全育成条例」の改正案に対する意見書
                                  2010年3月15日
                       明治大学国際日本学部 准教授
                                  藤本由香里

・・・・(略)・・・・・
 出版文化に長く携わり、同時に、マンガ文化・ジェンダーと表象を専門分野とする研究者としての観点から、今回の改正案について意見を述べさせていただきます。

1、 まず、今回の改正案では、「非実在青少年」という新しい用語を導入し、第7条2項「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満もの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性 に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」としているわけですが、このうち、「~として表現されていると認識される」、および「青少年の性 に関する健全な判断能力の形成を阻害…するおそれがあるもの」という規定のされ方、つまり「~に見える」とか「健全な」という言い方は、いくらでも恣意的に判断されるものであり、いくら自主規制とはいえ、対象となる範囲が広すぎるものと思います。

2、上の条文は、日常的な言語に直せば、「18歳未満に見えるキャラクターの性的な行為を肯定的に描写することは、青少年の性に関する判断能力に悪影響を与えるので自主規制せよ」ということになります。「18歳未満」には当然、高校生も含まれますし、女性は16歳で結婚することもできます。現在、高校生の何割かが実際に性体験を持っていることは、統計などからも明らかであり、年齢ごとの発達段階を考慮せずに、3歳も17歳もいっしょくたにして定義する、こうした規定は、<「子供(18歳未満*)」を守る>役割を果たすというより、<青少年の知る権利を奪い、性を自分の問題として考えるための道を閉ざす>「純潔教育」を推し進めようとする規定だと言わざるを得ません。
*児童ポルノもそうですが、わが国の「児童」の定義は「18歳未満」であることには注意が必要です。

3、 こうした規定により、「18歳未満にみえるキャラクターによる肯定的な性描写」があるという一点において、優れた作品が自主規制の対象となることはあってはならないことだと考えます(事実、「児童ポルノ法」に「画像」も含まれるらしい、という噂が流れたとき、書店による過剰な自主規制が実際に起こっています)。そうした自主規制が、わが国のコンテンツ産業に与える打撃は、想像以上に大きいものです。
 かつて隆盛を誇っていたアメリカン・コミックスが、「コミック・コード」と呼ばれる表現規制が引き金となって凋落に向かっていったのと同じことが、日本にも起こらないとは言えないのです。しかも、マンガ・アニメ・ゲームというポップカルチャーの分野において、「いい作品」と「悪い作品」はパッキリと二つに分けられるものではありません。「東京国際アニメフェア」を主催する東京都が、そうした表現規制を行うにあたっては、慎重の上にも慎重でなければならないのではないでしょうか。

4、もしかすると、上のような条文は「自主規制」であって、都が「不健全図書」に指定するのは「強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもの」に限っている(新8条二項(8条一項))という説明がなされるかもしれません。
 しかし、改正案だけを見るとそう見えるかもしれませんが、「不健全図書」の規定には、すでにその前項が存在しており、そこには「図書類又は映画等で、その内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し…青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」(8条一項)と定められています。つまり、もっと包括的に「不健全図書」指定ができる条文がすでにあり、今までもそれに基づいた摘発が行われています。
 つまり実際には、新8条二項の規定には意味はないのであり、いかにも「非実在青少年」の取締りの範囲を限定しているように見せるための目くらまし、として入れているとすら解釈することができます。
 以上のことからもわかるように、今回の改正案は、「氾濫する過激な性表現」を取り締まろうとするものではなく(それに関してはすでに規定があり、現に取り締まられています)、「18歳未満に見えるキャラクターの肯定的な性表現」を取り締まろうとするものです。そのことはきちんと認識していただきたいと思います。

5、次に、「非実在青少年」規制というのは、児童ポルノ法に、画像を含めようとする流れの中で出てきたものだと考えられます。意思に反した、あるいは判断能力を失った状態で撮影された、現実の被害児童が存在する実写の児童ポルノ映像を根絶するよう務めるのは当然のことですが、そこに、実際の被害児童が存在しない画像まで含めようとするのは、はたして本当に児童を守ることになるのかどうか、真に慎重な議論が必要だと思われます。なぜなら、わが国の実際の性犯罪率は、性描写が広く行われてくるにつれて総体的には減る傾向にあると考えられ、表現に非常に厳しい規制をしいているアメリカの性犯罪率は、わが国の数倍に及ぶからです。

6、最後に、出版社ほか、ほとんどのメディアが東京に集まっている現状では、東京での規制は全国規制とほとんど同じ意味を持ちます。
 にもかかわらず、今回の条例案が出されてから成立までのスケジュールは、異常とも言えるほど短く、当該の改正案が発表されたのは、2月24日、意見表明期間は25日一日のみ、3月3日に代表質問、4日に一般質問、質問は事前提出と、議員にも数日の猶予しか許されない日程で、18日の総務部委員会で事実上賛否が決定し、3月末に投票→成立というスケジュールです。
 しかも、ジャーナリストでさえ、こうした条例改正案が出されていることをほとんど知らず、世間の目から隠され、論議もないままに急いで可決されてしまおうとしています。
 民主主義の大原則に照らして、このような決め方に問題が大きいのは明らかです。

 国の論議の場で問題点が指摘され、成立しないでいる表現規制(児童ポルノ法に画像を含めるかどうかの議論と単純所持の問題)を、東京都が先取りして実質的に決めてしまおうとする、これほど影響が広範囲に及ぶ条例が、このような手続きで決められていいはずがありません。この改正案を、今回、ほとんど議論が封じられた状態で成立させてしまうことは、民主主義の根幹を裏切ることだという認識を、どの会派の方々にも持っていただきたいと思います。都議会議員の方々の良識に期待します。 


日本図書館協会も、いわゆる「児童ポルノ」をめぐるこれまでの議論を説明、
「子どもの性に対する判断能力の形成は、親が一義的に責任をもつもの」と
「子どもの権利条約」の条文をあげて、改正条例案を拙速に可決しないように、
都知事と都議会議長に、「要請」文を提出しています。


「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」について( 要 請 )

                            2010日図協第32号
                            2010年3月17日
東京都知事   殿
東京都議会議長 殿
                            社団法人日本図書館協会理事長  塩 見  昇

     「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」について(要請)


平成22年2月24日に東京都知事が都議会に提出した「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例案」(以下、「条例案」という。)につきましては、都民の有する表現の自由と知る権利を侵害することが懸念されます。
つきましては、今会期内に採決を急ぐことなく、ひろく都民および言論、出版はじめ関係団体の意見を聴取し、慎重にご審議下さいますよう要請します。

要請の理由

一.条例案は、「児童ポルノの根絶に向けた気運の醸成及び環境の整備」を掲げていますが、既に「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下、「児童ポルノ禁止法」という。)に基づく規制が行われており、屋上屋を重ねる過剰な規制となることが危惧されます。

二.いわゆる児童ポルノを規制する保護法益は、「児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害していることの重大性にかんがみ、児童の権利の擁護に資する」(平成11年4月27日、第145回国会法務委員会における同法案発議者、林芳正議員の趣旨説明)です。青少年の健全育成を目的として青少年の知る自由を制約する「東京都青少年の健全な育成に関する条例」は、いわゆる児童ポルノを規制することには馴染まないと懸念されます。

三.児童ポルノ禁止法における「児童ポルノ」の規定が主観的かつ曖昧であることは平成21年6月26日の衆院法務委員会でも指摘されています。私たちは国会における論議、さらには国民的論議を注視する段階にあると考えます。

四.条例案は、曖昧かつ広範な規定として論議されているいわゆる児童ポルノに該当しない「青少年を性的対象として扱う図書類」を「青少年性的視覚描写物」と名付け、その「まん延抑止」を東京都の「責務」とし、図書類の頒布を業とする事業者にそのために「適切な措置をとる」義務を課しています。都民に対しては「青少年が容易にこれらを閲覧又は観覧することのないように努める」としています。
  このことは、青少年と性を扱う図書類一般を、公立図書館を含め社会から排除することになりかねず、深く危惧されます。

五.条例案は、都民に対し「児童ポルノをみだりに所持しない責務」を定めています(第18条の6の4)。これは単純所持を規制するものであり、現行の児童ポルノ禁止法が過剰な規制を抑制するために採用していない規制であって、条例案から削除されるべき規定です。
  条例案には、「非実在青少年」として、コミックなど創作物も不健全図書として規制できるとしています(第7条の2ほか)。これは先に引用した児童ポルノ禁止法の保護法益とは無縁な規制であり、現行の児童ポルノ禁止法が過剰な規制を抑制するために採用していない規制であって、条例案から削除されるべき規定です。

六.条例案は、「青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく阻害するおそれ」(第7条の2ほか)を不健全図書の指定基準に新設しています。
  子どもの性に対する判断能力の形成は、親が一義的に責任をもつものであって、行政や警察ではありません。「子どもの権利条約」第18条の1「締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合により法定保護者は、児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。」を尊重し、当該基準は削除されるべきです。
以上



公立図書館からのBL図書排除の問題では、わたしたちも、憲法、地方自治法、
「子どもの権利条約」違反の観点から、2008年に
「堺市立図書館における特定図書排除に関する申し入れ書」を提出しています。

藤本由香里さんは、この「ジェンダー図書」排除究明原告団のメンバーでもあります。

「東京都青少年健全育成条例改正」問題は、とりあえず、3月議会では継続審査になりそうですが、推進側も必死です。
わたしも微力ながら、今後も情報発信を続けたいと思っています。


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東京都青少年健全育成条例改正案/18歳未満の性描写を禁止~「表現の自由の侵害」条例案に反対の声明

2010-03-16 09:36:25 | 「ジェンダー図書排除」事件
東京都の3月議会に上程されている青少年健全育成条例改正案について、
「青少年の保護育成」という立場から、漫画やアニメに登場する
18歳未満と思われるキャラクターを「非実在青少年」と定義し、
「性表現を含んでいる」「性的に描かれている」ものはすべて
不健全図書に指定される可能性もあるということなどが、問題になっています。

今日の朝日新聞の一面と、二面の「時々刻々」でもこの問題を取り上げています。

    

この問題は当初、web上で議論が巻き起こり、13日に共同通信が配信し、
今回、反対の声明が出されたことで、問題が整理されて争点化されて、
新聞各紙でも取り上げられるようになりました。


この問題は当初、web上で議論が巻き起こり、13日に共同通信が配信し、
今回、反対の声明が出されたことで、問題が争点化されて表面化したことで、
新聞各紙でも取り上げられるようになりました。

わたしは、堺市図書館のBL本排除事件や福井県の図書排除事件などの
「ジェンダー図書排除究明原告団」の事務局をしていることもあって、
この問題の行方に、強い関心を持って情報収集してきました。

関連情報については随時、「市民と政治をつなぐP-WAN」のセレクトニュースにアップしてあります。
記事の最後にリンクしましたので、もっと詳しく知りたい方はご覧になってください。

朝日新聞記事
アニメ・漫画・ゲームの児童ポルノ規制 都が条例改正案
2010年3月16日0時25分 朝日新聞

 東京都がアニメなどに登場する18歳未満と判断される架空の人物の性描写を規制対象にする、青少年健全育成条例の改正案を都議会に提出している。都は「対象は著しく社会規範に反する表現に限る」としているが、指定の基準にはあいまいな部分があり、出版界などは「表現の自由が侵される」と批判。15日は漫画家らが記者会見して規制への反対を表明した。
 条例の改正案では、アニメのほか漫画やゲームなどで18歳未満の実在しない人物が登場し、強姦(ごうかん)など著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写した作品について、第三者でつくる都の審議会が「不健全図書」に指定。18歳未満には売らないことを販売者に義務づけることなどを定めている。最終的に従わなかった場合は、罰金(30万円以下)が科される。可決されれば10月から施行される。
 刑法(わいせつ物頒布罪)の対象は実写に近い精密な性描写に限られ、児童買春・児童ポルノ禁止法は実在の子どもを扱った作品を対象としており、漫画のキャラクターなどを規制対象に明記した法律や条例は初めてだという。
 これに対し、記者会見した漫画家の里中満智子さんは「ある作品への感想は個々人で異なる。一つの見方だけで規制をかけるのは危険だ」と批判。日本出版労働組合連合会も「創作活動の場で過剰な自粛が行われ、表現活動が萎縮(いしゅく)する」などとして、改正案に反対するよう求める要請文を都議会各会派に提出した。
 一方、都小学校PTA協議会は「目をふさぎたくなるような漫画などが書店に置かれている」として改正案成立を各会派に要望した。


東京新聞記事
『子ども』性描写 都規制案に賛否 漫画家『表現の自由損なう』
東京新聞 2010年3月16日 朝刊

 子どもを性的対象に描いた漫画やアニメを規制する東京都の青少年健全育成条例改正案をめぐって十五日、漫画界やPTAが相次いで賛否の意見を表明、都議会審議が注目を集め始めた。「表現の自由を損なう」とする漫画家たちに対し、PTAは「子どもが健やかに育つために規制は必要」。改正案は、十九日の都議会総務委員会で採決される。
 漫画家有志のちばてつやさんや里中満智子さん、永井豪さん、竹宮恵子さんらが十五日、都庁で記者会見し「表現の自由を著しく損なう」として、改正反対の緊急アピールをした。
 里中さんは「(行政が条例を)いかようにも解釈して封じ込められる。作者の発想力から生まれたキャラクターにまで規制の網を掛けるなんて恐ろしいこと」と批判。
 ちばさんも「表現の規制は文化に元気を失わせる。日本の漫画界は危ない」と訴えた。
 少年愛をテーマにした作品も手掛けた竹宮さんは「私自身、漫画で表現をしたことがある。条例が成立すると、すぐに規制対象になりうると危惧(きぐ)を抱いた」と話した。
 改正案では、描かれた服装や所持品から十八歳未満とみられる実在しない登場人物への性行為を描写した漫画やアニメ、ゲームソフトなどを青少年に販売しないよう業界に自主規制を求める。
 中でも、強姦(ごうかん)など反社会的な行為を描写した作品は、都が「不健全図書」に指定して、十八歳未満への販売や閲覧を禁止する。
 改正案に反対する団体は「条例の文言があいまいすぎて、規制の対象をいくらでも恣意(しい)的に解釈できてしまう。審議時間も短すぎる」と反発している。
 これに対し、都は「そのような図書類の創作や出版自体を禁じるものではなく、成人への流通も対象にならない。自由な創作活動に影響はない」と説明している。
 石原慎太郎知事は取材に「先進国であの手のものが堂々とまかり通っている国は日本以外にないんじゃないか」と述べる一方、「私も表現者の一人だから、それなりの良心と常識で(規制が適切に行われるかどうか)判断しようと思う」と話した。
 改正案は十八日の総務委員会で質疑があり、十九日に同委員会で採決、最終的には三十日の本会議採決で決定する。


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京都新聞記事
漫画性表現規制「議論慎重に」
精華大学部長ら 都の民主会派に意見書

Kyoto Shimbun 2010年03月15日(月)

 漫画やアニメの18歳未満のキャラクターの性的表現を規制対象にする東京都の青少年健全育成条例改正案について、京都精華大マンガ学部の教授たちが15日午前、「表現の自由を侵害する恐れがある」として慎重な議論を求める意見書を都議会民主党会派に提出した。
 京都精華大の竹宮惠子マンガ学部長たち教授5人が同日午前11時半に都議会を訪れ、民主党会派の都議に意見書を配った。また漫画家のちばてつやさんや里中満智子さんも同行し、ちばさんは「ルールは守らなければならないが、法律で決めるものではない」と訴えた。
 提出後の会見で竹宮学部長は「改正案が成立すると自分の漫画も規制されかねず、危険を感じている」と述べた。
 意見書は都の条例改正案について、18歳未満にみえる登場人物を「非実在青少年」として性的表現を規制する根拠が不明確だ▽出版社は東京に多く影響が全国に及ぶ-などと指摘している。


都の青少年健全育成条例改正、グーグルやMS、楽天なども反対意見
2010/3/15 15:33 INTERNET Watch

 ネットビジネスイノベーション研究コンソーシアムは12日、東京都議会に提出されている青少年健全育成条例の改正案について反対意見を表明した。
 同コンソーシアムは、ディー・エヌ・エー、グーグル、マイクロソフト、ヤフー、楽天が幹事を務め、ケンコーコムや、慶應義塾大学の國領二郎氏(総合政策学部長)、同じく金正勲氏(政策・メディア研究科特別研究准教授)らもメンバーとして参加している。国の政策決定について課題を検討するなどの活動を行っており、2008年には一般医薬品のネット販売規制についての反対声明を出したことがある。
 今回、コンソーシアムが反対している条例改正案では、「インターネット利用環境の整備等に関する規定を改めるほか、規定を整備する必要がある」(改正案)として、フィルタリングの水準に言及した規定や、青少年が利用するのに適した携帯電話端末を都知事が推奨する制度の導入、保護者が携帯フィルタリングを解除する際に「理由書」の提出を求める規定などを盛り込んだ。

 コンソーシアムでは改正案について、「インターネットを基盤とする社会・文化・産業全般のイノベーション及び将来においてそれを担う青少年の育成に対する重大な阻害要因を含んでいる」と指摘。以下の4項目について、条例に盛り込むべきではないとしている。

東京都知事による、インターネットを利用して「有害な行為」、「被害」の「誘発」等を行った青少年の保護者に対する指導、助言及び調査等

「自己若しくは他人の尊前を傷つけ、違法若しくは有害な行為を行い、又は犯罪若しくは被害を誘発することを容易にする情報」等の曖昧・広範な文言による、フィルタリングサービスの水準の規定

東京都知事が特定の携帯電話を推奨する制度

フィルタリング解除を認めるべき正当事由の限定

 このうち「フィルタリングサービスの水準」は、フィルタリングソフト開発事業者やフィルタリングサービスの提供事業者に対して、努力義務として課すものだが、「それを背景に東京都が指導等を強め、表現内容に介入する危険性がある。すなわち、表現の自由・知る権利等を侵害する可能性がある」と指摘する。
 例えば、学校名や顔写真がWebサイトに掲載されただけで「犯罪」を「誘発」しているとみなされたり、「バカ」「あほ」などの冗談なのかどうか判別が難しい言葉も「尊厳を傷つけ」ていると判断されるケースも生じる可能性があるという。
 さらに、民間で進めている自主的取り組みに対して、「東京都が介入する下地を作り、Webサイト運営等への萎縮効果を与える」、子どもにどのような携帯電話を持たせるべきか、フィルタリングを解除するか否かといった「保護者の監護権に対し東京都が介入するもの」と指摘している。
 楽天では、コンソーシアムの発表とは別に自社でも見解を発表。フィルタリングの水準の規定が事実上、都による「検閲」のおそれがあることや、健全サイトまでもが制約されかねず、正当な表現活動も阻害されてしまうおそれがあることなどの問題点を指摘している。
(永沢 茂)
2010/3/15 15:33 INTERNET Watch


共同通信
ちばてつやさんらが反対アピール 都の児童性描写規制案に

 東京都が漫画やアニメの児童の性行為描写を規制するため、定例議会に提出した青少年健全育成条例の改正案に対し、漫画家のちばてつやさんや里中満智子さん、永井豪さんらが15日、都庁を訪れ反対をアピールした。
 ちばさんらは午後、都庁で記者会見。里中さんは「(規制案は)表現の自由にかかわることで、いかようにも解釈できる。生身の人が傷つくわけではないのに、(漫画の)キャラクターにまで網をかけることに恐ろしくなった」と主張。
 ちばさんは午前、都議会最大会派の民主党の会議であいさつし「規制することで文化の元気がなくなる例を見ている。(規制は)読者の気持ちで決めてもらいたい」と述べた。
 改正案は19日の都議会総務委員会で採決される。
 改正案は、漫画などで服装や学年などから18歳未満と判断される子供を「非実在青少年」と定義。こうした子供への性行為を描写した作品は、青少年に販売しないよう業界に自主規制を求める。
 これらのうち、強姦など著しく反社会的な内容の作品は、青少年への販売・閲覧を禁止する不健全図書に指定すると規定した。
2010/03/15 13:20 【共同通信】
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野放しの漫画児童ポルノを規制へ 都条例改正案、反対論も

東京都は12日までに、18歳未満と判断される子供への性行為を描写した漫画やアニメ、ゲームソフトを業界の自主規制の対象にした上で、反社会的な内容の商品は青少年への販売、閲覧を禁止する青少年健全育成条例の改正案を定例議会に提出した。19日の総務委員会で採決される。
 都によると、「野放し状態」となっている漫画やアニメの児童ポルノ的な描写を規制するのが目的で、全国でも初めての試みという。一方、識者からは「表現の自由が侵害されかねない」などの反対意見も出ている。
 改正案では、漫画などで、服装や所持品、学年などから18歳未満と判断される子供を「非実在青少年」と定義。こうした子供への性行為を描写した商品を、青少年に販売しないよう業界に自主規制を求めた。
 そのうち、強姦など著しく悪質な内容の商品は不健全図書に都が指定するとした。
 藤本由香里・明治大准教授は「18歳未満とか、何が健全なのかの判断は、いくらでも恣意的に解釈できる」と危惧している。
2010/03/12 17:57 【共同通信】


●P-WANセレクトニュース :
東京都青少年健全育成条例に反対、民間団体と有識者が意見表明 (2010/3/12 ケータイ Watch)他

●P-WANセレクトニュース :
漫画性表現規制の都条例に声明 京都精華大研究センター[/(京都新聞 2010年03月13日)他

●P-WANセレクトニュース :
都青少年健全育成条例:改正案、都議会で審議 「フィルタリング」に重点/東京(毎日新聞 2010年3月15日)他

●P-WANセレクトニュース :
アニメ・漫画・ゲームの児童ポルノ規制 都が条例改正案(2010年3月16日 朝日新聞)他

●P-WANセレクトニュース :
『子ども』性描写 都規制案に賛否 漫画家『表現の自由損なう』(2010年3月16日 東京新聞)他


堺市立図書館でのBL図書排除事件のときもそうでしたが、
このような「青少年健全育成」と「ジェンダー」がからみあうことについては、
デリケートな問題もあって、人によっては判断が分かれます。
とはいえ、このような規制の動きが、東京から全国の自治体に広がるのではないかと危惧しています。

わたし自身は、いかなる理由があろうとも、図書の排除には反対です。
上位法に抵触する条例は作れませんから、わたしはこの改正条例自体が
「憲法違反」ではないかと思っています。


追伸・続編記事
続「東京都青少年健全育成条例改正」問題/藤本由香里さんの「意見書」
/「(財)日本図書館協会」の要請(2010-03-18)


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堺市でなぜ特定図書排除が起きたのか(呉羽まゆみ『地方自治 職員研修』)

2009-05-11 14:37:52 | 「ジェンダー図書排除」事件
庭のサツマイモの畝は、ともちゃんの仕事の手が離せなかったので、
けっきょく、自分でエッチラオッチラ、
ブロックを運んで、土を運んで夕方までに完成しました。

高畝がよいとはいえ、車止めかわりのブロックを並べると、
花壇にしたほうがよさそうで・・・サツマイモ畑にはもったいないような出来。


あたらしい花壇も、花苗を植えたら何とかサマになりました。
まんなかの大きなまあるいミツマタがアクセントになっています。


東を見ると、わが家でいちばん遅く咲く黄もくれん「キンジュ」が、
今年はいっぱい花をつけて、けっこう長いこと咲いています。






東の家の二階の倍くらいの背丈になって10メートルくらいはあるでしょうか。
うえのほうの花はよく見えないし、木全体を写すことは不可能にちかい。
一昨年、2階のベランダから大工さんに切ってもらったのですが、
いまだ成長は止まらず。いったいどこまで大きくなるのでしょう。

落葉高木とはいえ、他のもくれんの自然樹形と比べると
「こぶし」に近い、上に伸びる性質があるようです。
  

末恐ろしいキンジュちゃんですが、わたしはこのお花がだいすきなので、
できれば、このまま大きく育ってほしいのです(笑)。


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話は変わりますが、
『む・しの音通信』69号の後半は、前号につづいて、
堺市立図書館の特定図書排除事件に関する記事。


まず、月刊『地方自治 職員研修』2月号(「公職研」発行)
に書かれた呉羽まゆみさんの「堺市でなぜ特定図書排除が起きたのか」。

呉羽さんは、以前からHP「木津未来会議」というホームページをつくってみえたのですが、
今回、ぜひブログもつくったら、とすすめて、
ブログ「くれはまゆみのページ」を開設。

で、昨夜はこの記事の画像やリンクのアップの仕方を
経験者として実地でアドバイス。
くれはさんのページもぜひのぞいてみてください。

呉羽さんの許諾を得て、全文を転載させていただきます。

 

 堺市でなぜ特定図書排除が起きたのか
  木津川市・呉羽まゆみ


 京都府最南端の市で議員をしている私の元に堺市立図書館の事件が伝わってきたのは、9月5日。その内容は「BL(ボーイズラブ)(1)関連の書籍が開架を中止し書架に移され、処分される予定」「冊数5499冊、購入金額366万8883円」(市のホームページ「市民の声」)というもので、「『ジェンダー図書排除』究明原告団」の事務局の寺町みどり氏からの連絡であった。  
福井県、北海道に続いての事件に、私は「女性センターではなく図書館が狙われ、『青少年にとって悪影響』ともっともらしい理由をつけるとは、バックラッシュの人たちはなんとも巧妙だ」と感じるばかりだった。

堺市立図書館で起こったこと
 まず、「原告団」14人で堺市教育委員会が排除した図書リスト、会議記録などを情報公開請求した。堺市情報公開条例は、何人も公文書の公開を請求することができるとなっており、市民でなくとも情報公開請求ができる。
 寺町みどり氏の手元に届いた公文書と「バックラッシュ」側のインターネット掲示板の書き込みを時系列を追って見ると、事件の全容がよくわかった。
 発端は7月24日、利用者が北図書館へかけた一本の電話。「「BL図書は、セクハラではないのか。子どもへの影響を図書館はどう考えているのか。購入、開架の基準は何か公表してほしい」というものであった。さらに翌日、同一人物と思われる男性から南図書館への「(BL本が)普通の本と並んでたくさんある。子どもを行かせたくない」という電話に続き、同日市会議員から中央図書館に問い合わせがあったことが、公文書から明らかである。
 同日開かれた第2回図書館事業調整会議では「BL資料の扱いについて」が案件として取り上げられ、BL図書の各館開架状況が呈示され、購入、開架していることについて図書館の公式見解を早急にまとめる必要があると協議されている。
 また、7月30日、31日には、47歳の男性から市へ「特定図書排除を求める」匿名のメールが届いている。前者は「大量に開架している本について」であり、後者は「BL図書を購入した趣旨や目的、またこれまでに購入した冊数及び購入費を教えてください」という内容である。  
 この匿名メールなどを受け、8月8日の定例館長会議では「BL図書を全て閉架(書庫入)とする、今後は収集しない、青少年には貸出さない」と決定され、8月20日の第3回図書館事業調整会議では、匿名メールである「市民の声」の説明、今後の方針の確認がされている。
 その方針とは「資料購入に際しては今後厳密な内容確認を実施する、収集基準の改定も必要である、開架は配慮不足であり書庫入れとする、青少年へは提供を禁止する」であった。これらは「BL資料の取り扱いについて(案)」としてまとめられ、9月3日に各図書館長宛に通知された。
 た、この頃、市ホームページ「市民の声」Q&A(図書館)に「BL図書の購入~冊数及び購入費を教えてください」という市民の声と、それに対する市の考え方が掲載された。この時点で初めて特定図書排除問題が市のホームページという公式な場所で公開されたのである。

今回の図書排除の問題点
 そもそも図書館とは、国民の知る自由を守り、広げていくことを責務として、あらゆる資料の要求に答えるべく、みずからの責任において作成した収集方針に基づいて資料を収集し、提供する自由を有するとされる。その際、個人・組織・団体からの圧力や干渉に屈してはならないと「図書館の自由に関する宣言」(日本図書館協会・1954採択)にうたわれている。
 堺市図書館に対して私が直感的に感じた疑問は、「BL本がなぜそんなに多くあったのか」ではなく「なぜそんなに急に処分が決まったのか」であった。図書館側は「掲示板」の存在を知らないで、市民の意見に真面目に丁寧に対応していたのであろう。公文書には「有害図書?をどういう観点から購入しているのか」という議員からの問い合わせが記され、同時期の匿名市民本人が書いたと思われる「掲示板」には、「市議会議員さんに、このBLの一件を伝えた」「その議員さんが動いてくれ」「市会議員さんからも、結果について連絡があり~BLを書庫へ収納するとのこと」とある。個人もしくは議員の圧力に屈し、短期間に方向転換をした図書館の混乱ぶりが明白となった。
 そもそも、「堺市立図書館資料収集方針」に基づき図書館が対応していたなら、問題はこのように拡大しなかったはずである。しかしながら、今回の問題点は、最初は匿名市民(市民かどうかは不明)からの電話で始まったものの、議員の介入があり、図書館が個人や議員の圧力に混乱したことにあると思われる。また、Web上でこれらの経過や報告が一種煽動的に扱われ、組織的な図書排除運動が展開されていることが明らかとなるにつれ、図書館本来のあり方が問われる問題に発展しているにもかかわらず、堺市のその意識は希薄であったといえる。

排除を受けて、市民の抗議
 「宣言」前文3には、「図書館は権力の介入または社会的圧力に左右されることなく」「自らの責任にもとづき」「図書館の総力をあげて、収集した資料と整備された施設を国民の利用に供する」とある。しっかりとした収集基準を持つ堺市でこのような混乱が起こったことから、我がまちでも充分に同様の事態が起こりえる、これはほってはおけないという思いを私たちは持っていた。
 そこで、福井事件でも行ったように、不当な公金の処分の差し止めを求め、住民監査請求を「原告団」で行うことになった。本件図書館の図書は「市民の貴重な税金で購入され、相応の目的と手続きを経て、取得し図書館で管理されてきた」ものであり、「図書選定基準等に従って購入した図書を合理的な理由や必要性もなく」「突如、一律に利用者の目に触れない閉架場所に排除したこと」は、「図書本来の目的を無にするもの」で「今回の不当な圧力に起因する思いつきの閉架扱いは、著しく恣意的で管理者あるいは職員らに許された裁量を著しく逸脱した違法な行為」であるから、その行為の差し止めを求めるというものである。
 民監査請求は、市民1人からできる法的手法。共感する堺市民が必要だった。ちょうどその頃、この事件を知り、なんとかせねばとの思いの市民の方が事務局の寺町みどり氏に連絡してきたことで、請求することができた。
 また、私たちはこれとは別に、堺市長・教育長に「堺市立図書館における特定図書排除に関する申し入れ」をすることにした。福井事件で図書排除を迫ったK氏が「政治家の力で図書が撤去できた」と言っていたのと同じ構造であることから、議員の介入に抗議することとした。知り合いの議員にも呼びかけ申し入れ人は、41人の議員(元・前職含む)と2団体となった。
 問題が報道されるにつれ、私も何かしたいと思いを寄せる方もいて、第2次申し入れは市民も含めて行った。申し入れ人総数は、市民97名・議員46名・7団体。代表の上野千鶴子・東京大学大学院教授に届いた堺市教育長の回答は、「廃棄が前提の処置ではない」と明記され、ひとまず廃棄は食い止められた。

特定図書排除はなぜ起きるか、特定図書排除を防ぐには
 08年10月28日付けの『世界日報』で「堺市図書館に大量の同性愛小説5500冊、過激なイラストも」とセンセーショナルな題字で報じられたことからも明らかなように、今回の特定図書排除も福井事件同様「ジェンダー図書排除」であり、ジェンダーバッシングに他ならない。今年、堺市で予定されている「全国女性会議」を意識しての運動と思われる。
 基準に従って収集したものは、図書館が総力を挙げて守る。「図書館の自由」のため、いかなる外圧に対しても毅然とそして粛々と闘うこと、が必要であり当然なことであろう。
※(1)男性同士の同性愛を題材とした女性向けの小説や漫画のジャンルのこと。 
(月刊『地方自治 職員研修』2月号から転載)
(『む・しの音通信』69号)



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堺市立図書館、BL本5500冊排除騒動の顛末『創』5月号(上野千鶴子)~『at』15号~ケアの社会学

2009-04-19 09:39:44 | 「ジェンダー図書排除」事件
谷汲に花桃を見にいったとき、
桜と花桃と新緑を同時に愛でる、という幸運にめぐり合わせました。

あまりの美しさに感動!しばしぼうぜん!


 





花桃には少し早かったのですが、素敵なお花見になりました。


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堺市立図書館の特定図書排除事件について、
2月に東京で、月刊『創』の取材があり、5月号に記事が載りました。


月刊『創』2009年5月号
インタビューは、上野さんがメーンですが、わたしも事務局としてちょっとだけ登場します。
大きな書店には置いてあると思いますので、ぜひお買い求めください。

◆なぜBL(ボーイズラブ)が狙い撃ちにされたのか
  堺市立図書館、BL本5500冊排除騒動の顛末 上野千鶴子









この事件の経過については、以下に詳しく書きました。

 堺市立図書館で「特定図書排除」事件はなぜ起きたのか?
(寺町みどり)(2008.1.210)



『季刊at』に連載中の「ケアの社会学」のコピーも上野さんから届きました。

最新15号は「第三部結び 次世代福祉社会の構想」、いよいよ最終章です。

【連載】「ケアの社会学  第三部結び 次世代福祉社会の構想」
 第十三章 当事者とは誰か? (上野千鶴子)
 

岐阜ではなかなか見つからないので紹介が遅くなりましたが、
    やっと入手しました。
『季刊at』15号

今号の「第十三章 当事者とは誰か?」は、「はじめに」から始まり
「ニーズとは何か?」「潜在能力アプローチ」「当事者とは誰か?」
「第三者のニーズ?」「当事者主権という思想」と続き、「おわりに」まで。
今月号の最後のことばがこころに残ってます。 

 ・・・・・・・・・・・・
「理想の介護とは個別ケアです」。
「高齢者の尊厳を存置要する介護」とか、「高齢者の自立を支援する介護」とかの答えを予想していたらしいインタビュアーに、この答えは「理想の介護」は答えがない、と言ったも同然だった。そう、その通り。理想の介護には答えもマニュアルもない。「どうしてほしいかは、当事者に聞いてほしい」--これしか答えはない。当事者が百人いれば百通り、ひとりの当時社会通念でもそのときどきの状況に応じて千変万化するだろう。つまり、ケアとは対人関係そのものなのだ。そしてこのことは、何度強調してもしすぎるということはない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(『季刊at』15号、P150)


次号は7月発行の予定。
あと1回で「ケアの社会学」の連載は終わり、とのことです。

関心のある方は、ぜひお手にとってお読みください。





  


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堺市立図書館問題、『週刊金曜日』に掲載/『密やかな教育-〈やおい・ボーイズラブ〉前史』(石田美紀著)

2009-02-06 07:29:48 | 「ジェンダー図書排除」事件
先週発行の『週刊金曜日』に、堺市立図書館問題の
記事が掲載されたということで、友人がFAXを送ってくれました。

堺市立図書館がBL本5500冊を撤去
撤去要求の背景に反男女共同参画バックラッシュ

(週刊金曜日 2009.1.30 736号)
 

上野さんを監査請求の「代表」と書く(正しくは「代理人代表」です)など、
いくつか気になるところはありますが、よくまとまった記事です。

この問題の関係者としては、やっとまともな記事が出た、という感想です。

特に、『知る自由の保障と図書館』(塩見 昇 編著 川崎 良孝 編著 
京都大学図書館情報学研究会 版)ほかたくさんの本を書かれている
「図書館の自由」の専門家である川崎良孝さん(京大)の
「図書の排除は検閲」の説明は、とても納得できるもので一読の価値があります。

 川崎良孝京都大学大学院教授(図書館情報学)によると、米国では図書館資料に対する苦情は検閲と位置づけられている。口頭やメールでの苦情は受け付け図、『イラストの描写が過激だから』と一部分だけ取り上げたクレームは通らない」。苦情を申し立てた人は、名前、住所を明らかにし、特定したジャンル全体を検討したかなど理由を所定の書面で説明しなければならず、検閲に対して厳格な一線を隠している。・・・・・川崎教授は「堺市立図書館が、一般図書を電話で抗議されただけで撤去したことは理解しがたい。過剰反応で、お粗末な対応だ」と批判する。・・・・

記事中の、アメリカの「図書館の自由宣言」については、
この本の川崎さんの論文に詳しいです。

京都大学図書館情報学研究会

  

今回の事件で、わたしが岐阜県図書館で借りて来て、参考に読んだ本には、
川崎良孝さんや京都大学図書館情報学研究会の本が多いです。


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関連で、2月1日の朝日新聞と読売新聞の書評です。
やおい・ボーイズラブに関するほんとのこと、
紹介されてる本を読んでみたいと思います。


 『密やかな教育--〈やおい・ボーイズラブ〉前史』 石田美紀
発行元 : 洛北出版  2008年11月8日発行
 「やおい・ボーイズラブ」というジャンルも、その愛好者を指す「腐女子」という分類もなかった70年代……
 少女マンガと小説の場に出現した「女性がつくり楽しむ男性同士の性愛物語」は、旧い教養(三島由紀夫、ヘッセ、稲垣足穂、ヴィスコンティ…)をどん欲に取り入れ、エンターテインメント教養ともいうべき独自の体系へと成長していった。
 本書は、この性愛表現が誕生し、80年代に充足してゆくまでの軌跡に光をあてる。
 「女こども」とみなされていた女性の創作者たちは、なにを糧とし、いかなる葛藤に直面し、どのように次世代へとリレーしていったのだろうか。
 


『密やかな教育--〈やおい・ボーイズラブ〉前史』 石田美紀 出版社:洛北出版
無視できないジャンル  評・三浦しをん(作家)


 主に女性の作者による、主に女性の読者のための「男性同士の性愛物語」を描いた漫画や小説は、現在「ボーイズラブ」という一つのジャンルを築いている。愛読者も相当数いるが、作品をほとんど読まずに見当違いな(と私には思える)批評をするひともいる。
 そういう現状のなかで、本書はきわめて有意義な評論だ。「女性がつくり楽しむ男性同士の性愛物語」は、ボーイズラブから突然はじまったのではない。それ以前には少女漫画家や雑誌「JUNE」の、試行錯誤と質の高い作品があった。先行の文学や映画を取り入れながら、独自の美と表現を指向する熱い思いがあった。
 「三島(由紀夫)の死以降、『男が男の体で政治を語る』姿勢が奇妙奇天烈(きてれつ)な振る舞いとなってしまった」という著者の指摘は、とても重要だろう。一九七〇年あたりを境にして、男性が男性身体を表立って賛美することは少なくなり、かわりに「男性同士の性愛物語」を女性が表現しはじめた。その流れは、いまもつづいている。本書は、竹宮惠子や栗本薫の作品を丁寧に分析し、「男性身体へのエロティックな関心を積極的に肯定」することの意味や、彼女たちが抱いている信念を浮き彫りにする。
 竹宮惠子、少女漫画黄金期を築いた漫画家に大きな影響を与えた増山法恵、「JUNE」編集長だった佐川俊彦へのインタビューは、現在のボーイズラブとそれ以前の作品との相違を示唆し、当時の状況と実作者たちの思いを知ることのできる、非常に貴重な証言だ。
 女性による女性のための「男性同士の性愛物語」は、もっと作品本位の正当な批評がなされるべき質と歴史を持っているし、いずれは性別に関係なく作者や読者が広がるだろう可能性を秘めている。社会と文化と人間を考えるうえでも、無視したり見下したりしていいジャンルでは決してない。本書のように鋭く誠実な研究が、今後ますます増えることを心から願う。
◇いしだ・みのり=1972年生まれ。新潟大学准教授・映像文化論。共著に『入門・現代ハリウッド映画講義』など。
評・三浦しをん(作家)
(2009年2月2日 読売新聞)  


男色(なんしょく)の景色 ―いはねばこそあれ― [著]丹尾安典
[評者]唐沢俊一(作家)■隠されてきた日本文化の美意識

[掲載]2009年2月1日 朝日新聞

 堺市の図書館にBL(ボーイズラブ)と呼ばれる少年愛小説が多数収められていることが、つい最近、問題になった。図書館にこのような書籍を置くことには賛否両論あるだろうが、たとえ否定的な意見の持ち主でも「川端康成の『伊豆の踊子』も廃棄せよ」とは、まさか言い出すまい。
 しかし、本書によればこの作品の原型は川端が大正11年に執筆した『湯ケ島での思ひ出』という作品の前半部分であり、後半には川端が中学校のときに初恋におちた、清野という少年のことが描かれている(この部分は、後に『少年』という作品になる)。
 そして、純粋な少女への憧憬(しょうけい)を描いた作品としてとらえられがちな『伊豆の踊子』にも、その裏に踊り子の兄の栄吉と主人公の同性愛的な感情がサブテーマとして描かれているという。今まで思い描いてきた作品のイメージが根底からくつがえされる、という読者も多いだろう。
 著者の筆は「万葉集」から男性の同性愛誌「薔薇(ばら)族」まで縦横に駆け巡り、日本文化において男色というものがどれだけ大きなファクターであったかを指摘する。ある部分では、日本文化の通奏低音として隠されてきたこの美意識を思うとき、それがBL小説などにいかに影響を与え、かつ変容してしまったかも思い合わせられる気がする。
(朝日新聞 2009.2.1)



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堺市住民監査請求の解説と評価/特定図書リストについての分析-補足

2009-01-06 09:32:08 | 「ジェンダー図書排除」事件
年末に届いた「監査結果」について、行政の仕事はじめの昨日、
堺市政記者クラブに監査請求の代理人の解説と評価を送りました。

監査請求は昨年11月4日に提出し、「60日以内」の期限が1月2日なので、
12月28日付で届いていたものです。

「特定図書排除に関する住民監査請求書 (堺市職員措置請求書)」PDF版

堺市「特定図書排除に関する住民監査請求書」の
監査結果が届きました。(2008-12-30)



            堺市住民監査請求・代理人事務局の解説と評価
                                    
                     2009年1月5日 寺町知正
             特定図書排除に関する住民監査請求書 
 2008年11月4日に提出した「堺市の特定図書排除に関する住民監査請求」の監査結果が同年12月28日付けで発せられた。全25ページであるが、大部分が私たちの住民監査請求書をそのまま再掲し、監査としては最後の約5ページである。
 監査結果の要点は次のように整理できる。

○「特定分野の図書であることを理由とした除籍及び廃棄は、行われていないし、監査請求の対象とされている図書が廃棄されていないことは監査委員においてもこの事実を確認している。」
○「本件図書は9月3日以降、18歳末満の者への閲覧及び貸し出しが制限されていたが、11月14日にはこれらの制限が解除された。」
○「以上のことから、請求人が住民監査請求の対象とした事実は、存在しなくなったものと認められる。」。
○「3 結 論   以上のとおり、請求人が住民監査請求の対象とした事実は存在しなくなったと判断される以上、本件の住民監査請求は主張の前提を欠くこととなり、請求人の主張を検討するまでもなく理由がないものと判断される。」

 この監査結果を平たく言えば、住民監査請求のときには市民が心配した状況は存在した、しかし、それら懸念される事態は、その後、なくなったので請求は「棄却」する、ということである。
 裏返せば、住民監査請求しなければ、「特定図書の排除、廃棄」という懸念された事態がんどん進行していったという可能性が極めて高いといわざるを得ない。

 なぜなら、監査委員が時系列で経過をまとめているように、館長会議などで「BL図書に該当すると思われるものについて、閉架(書庫入れ)し、今後は収集しない、18歳未満の者には貸出ししない」と正式に意思決定していたからだ。

 しかも、司書らの主観による極めて曖昧な「BL図書に該当すると思われる」と特定した5千数百冊を一括してその扱いにしていくことも固まっていたと考えられる。

 従前の図書館側の説明では、「やおい小説の取り扱い基準」に従ってBL図書を書庫にいれただけという旨だった。その後、「館長会議において、これまで書庫内の一定の書棚にまとめていた図書は、一般図書として取り扱うことを確認」ということで収まった。
つまり、図書館において、実質的に「やおい小説」「ボーイズラブ」等という概念や認識をなくし、一般図書と同様に扱うことにしたということになる。

 今回の経過と監査結果について、私たちは、当初の期待通りの内容であり、住民監査請求は形としては「棄却」だったが、特定図書の排除が反省され、見直されたのだから、住民監査請求を提起した所期の目的は達せられた。

 つまり、「(監査の)結果は負け」であるが「(全体の)結論では勝った」。

---------------------------------------------------
       堺市住民監査請求・代理人代表の住民監査請求の際のコメントの再掲

 どんな理由があれ、公共の図書館における図書の排除や検閲はゆるされない。
情報公開と表現の自由は民主主義の基本だ。
 たとえ反対意見であってもそれを発表する自由を守るというのが、「表現の自由」だ。
 わたしたちは福井県の図書排除事件以来、情報公開と表現の自由のために闘ってきた。
 日本中、どこで同じようなことがあっても、闘うだろう。
 図書排除の要求をした関係者の図書館行政への不当な介入と、その要求を受けいれた堺市の不見識とに猛省を促したい。

2008年11月4日        
                  上野千鶴子  東京大学大学院教授
                  「ジェンダー図書排除」究明原告団・代表

《以上、本件住民監査請求関係の問い合わせや連絡先》
寺町知正 Tel/fax 0581-22-4989)



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「特定図書排除に関する住民監査請求」について、12月9日の陳述で
図書リストを分析した「補充書(意見書)」を提出したのですが、
提出に間に合わなかった意見が届きましたので、
補足として、以下に紹介します。

特定図書リストについての分析-1(12/31)

特定図書リストについての分析-2(12/31)

特定図書リストについての分析-3(12/31)


上記、 特定図書リストについての分析の続き(補足)です。

(特定図書リストについての分析-補足)
特定図書排除に関する住民監査請求  補充書・補足

 11月の住民監査請求補充書に対し、提出後にお寄せいただいたご意見を補足でしるしておく。
 基本的には、補充書の第3節の項目に対応させて分類した。
 前回の補充書では、該当する項目がなかったものは、「補足」として項目番号をつけている。口頭でいただいたご意見は、ご本人の了承を得て、熱田がまとめなおしている。

 <選定基準に一貫性が無い> 
補足1・90年代前半以前にハードカバーで出版された「耽美」・「BL」書籍が全く指定されていない
 

 「90年代前半より以前に,ハードカバーで出版された耽美・BL書籍」が、ほとんど指定されていない。具体例を挙げれば、吉原理恵子『間の楔』(1990年、光風社出版)、栗本薫『翼あるもの』(上下巻ともに1981年出版、文芸春秋)、栗本薫ほか共著の『紫音と綺羅』(上下巻ともに1990年、光風社出版)等が指定されてない。いずれも、男性同性愛を取り扱っているだけではなく、比較的激しい性描写がある作品である。
(金田淳子様メール)

補足2・ハードカバー版では指定されず文庫版が指定されている本がある。 

 文章は全く同じで、出版社と出版形態が変化し、イラストがついたというだけで、指定された本がある。具体的には、栗本薫『元禄無頼』(1985年の光風社出版では指定外,1993年の角川ルビー文庫版で指定)である。
(金田淳子様メール)

<「BL」という無定義なジャンル概念を、無理に、恣意的な基準でくくろうとしたことによる問題> 
(10)「文学」は指定されず、「ライトノベルズ」など若者向けジャンルのみが指定されている

 同性愛のセックス描写が直接的だが、いわゆる「文学」として流通しているものが指定外になっている。
 比留間久夫『YES・YES・YES』、ウィリアム・バロウズ『裸のランチ』、ジョン・フォックス『潮騒の少年』などの作品である。
三島由紀夫,大江健三郎の作品で同性愛を取り扱い、性描写のあるものなども、指定外にされている。例えば三島『禁色』、大江『宙返り』など。

<「過激な性描写」を理由に「BL」を排除することの恣意性>  
(13)性描写の程度による振り分けがなされていない

 ルビー文庫の作品で、指定されてないが,同性愛のセックス描写の過激なものがある。
 尾鮭あさみ『舞え水仙花』(1992年),『悪名西遊記』(1994年)などである。おそらく、イラストだけを見ると、片方の男性キャラクターが女性キャラクターであるように見えて、男女のカップルであるように誤読されたからだと思われる。
また、桑原水菜『炎の蜃気楼』シリーズ(1990~、集英社コバルト文庫)が全部指定外となっている。男性どうしのカップルが大きな主題となり、性描写も克明に描かれた作品である。
(金田淳子様メール)

図 1・『舞え水仙花』表紙

 金田様がご指摘くださっている、『炎の蜃気楼』シリーズは、今回分析対象とした911リストの前段階、821リストで、外伝の『真皓(しろ)き残響‐夜叉誕生』(外伝1)のみが指定対象となっている。この指定は911でははずされた。しかし、『真皓き残響‐夜叉誕生』は、同シリーズの中でも、表紙、挿絵、本文ともに一切の男性同士の性描写がない作品である。(形状はソフトカバーの単行本で、他の作品がコバルト文庫の文庫形態をとっているのと少々異なる)
『炎の蜃気楼』シリーズでは、男性主人公と彼の家臣である男性の間の、性描写を伴う恋愛が描かれている。ただしこの性描写は、彼らの関係の進展にともなって徐々にその度合いを深めていくもので、全40巻(+外伝6巻)のシリーズ中盤以降にならないと、キスや、抱擁以上の性行為はでてこない。(主人公の過去のトラウマとして、被レイプ体験が断片的に語られる部分は若干ある)何故彼らが、執拗なまでに互いの気持ちを受け入れられないのかが、シリーズ前半の要となっているためである。反面、シリーズ後半では、官能的な描写が増えてくる。堺市図書館では、同シリーズを計73冊所蔵しており、無論、中には性描写のあるシリーズ後半作品も含まれる。(2008/12/10、堺市図書館蔵書検索調べ)
 何故、性描写のあるシリーズ後半作品が指定されず、この本が指定されたのか。また、何故この本が911リストからははずされて、補充書3節(6)(7)(8)などであげられたような、性描写のない他の作品がリストに登録されたままなのか。どちらの理由も全く不明である。(さらに言えば、8月21日リストよりもさらに精査されたのが9月21日リストであるならば、本書がはずれるかわりにシリーズ後半の性描写が濃厚な作品が入ってこなければおかしい)
 外伝の挿絵作家・ほたか乱氏が、「BL」的な同人誌を描いていることから(ほたか氏の作品が「過激な性描写」だということではない)、性描写のないこの本まで一度指定され、後ではずされたのだろうか? だとしたら、指定した人物は相当な「BL」通である。
もしくは、たんに、同書・同シリーズについて全く知識のない人物が、「男性二人が描かれた漫画絵」が表紙=BLである、という偏見に基づいて指定した結果の誤解なのかもしれない。
(口頭で複数のご協力者様から寄せられた意見を、熱田がまとめたもの)

図 2・『真皓き残響―夜叉誕生』表紙

(15)男女間の性描写がある、ヘテロ男性読者向けの本は性行為の度合いにかかわらず今回指定がない・補足 

 指定されているBLと同程度に「過激」な異性愛セックス描写については、全く野放しになっている。このような作品は枚挙にいとまがないが、たとえば菊地秀行による一連の作品群(『魔王伝』など)では、強姦、三人以上でのセックス、18歳未満の男女のセックスなどが、一冊の作品につき必ず複数回、描写されている。
また、セックス描写どころか、暴力的・強制的な身体改造にまで踏み込んだ作品として、沼正三『家畜人ヤプー』などがあるが、指定されていない。BLの排除理由に「子どもが衝撃を受ける」という仮定があるとしたら、男性の顔面を女性器に作り変える、人糞を人間に食べさせるというような描写が無数にある『ヤプー』のほうが、子どもが衝撃を受けると思われるが、どうか。
(金田淳子様)

 不思議なことに、今回、補充書3節・(10)であげた同性愛文学作品は、堺市では殆どが書庫などに置かれているのに対し、こうしたヘテロセクシュアル男性向けの「官能小説」(?) は、その多くが開架に置かれている。(2008/11/7、12/10堺市図書館蔵書検索調べ)(熱田)



今回、堺市は、わたしたちからの住民監査請求を受けて、
「やおい」「ボーイズラブ」という概念をはずして「一般図書」としました。

とはいえ、「表紙、挿絵、イラスト等で過激なもの」という基準はなくさず
5706冊を一冊ずつ精査したようですが、どの本を残して、どの本を開架に
移動した(戻した)かは、現時点では判明していません。

陳述時の図書館の説明によると、4500冊は元々閉架にあったそうで、
1000冊ほどが、貸し出しが多かったので書棚に出ていたとのこと。
年末の報道によると、「過激なもの」?は100冊程度と推測できますが、
残りは「一般図書」として開架に戻した、ということでしょうか。

図書館側は、すみわけをしたつもりかもしれませんが、
「表紙、挿絵、イラスト等で過激なもの」とするなら、
図書リストの分析のなかでも問題点を指摘しているように、
対象になる本は、異性愛も含めて、189万冊の蔵書にあると思います。

「過激なもの」の基準は、どこで線引きしたのでしょう。

すべての資料を精査するつもりなのでしょうか。
そうでなければ、特定図書だけを対象に線引き(ゾーニング)したことになり、
図書館の対応は矛盾し、さらに問題点は残ります。

ということで、
この問題は一件落着というわけにもいかないようです(笑)。

関係者のみなさま、今年もよろしくお願いします


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特定図書排除に関する住民監査請求 補充書(特定図書リストについての分析)-3

2008-12-31 11:00:52 | 「ジェンダー図書排除」事件
この記事は、「特定図書排除に関する住民監査請求」で
12月9日に陳述で提出した「補充書(意見書)」。
 特定図書リストについての分析-2からの続きです。

(特定図書リストについての分析-3)
特定図書排除に関する住民監査請求  補充書
特定図書リストについての分析-2からの続き

<「BL」という無定義なジャンル概念を、無理に、恣意的な基準でくくろうとしたことによる問題‐明らかに問題のある排除がおこなわれ暗黙の差別があらわになっている> 

(6)「BL」ではなく、男性同性愛の恋愛・性描写がないのに指定されている「少女小説」

3077/南図書館/図一般/304375041/保2/8/マエタ/前田珠子/孔雀の庭≪エシュラルト&ロキシム≫/スニーカーブックス/角川書店/

 通常、少女小説に分類される書き手。A5サイズのソフトカバーで、表紙は身体的接触もしていない着衣の男性二人。媒体もBLノベルズではなく、「BL」的描写も一切無い。何故選ばれたのかが完全に不明。おそらく、表紙に男性二人が描かれていることが原因と思われる。
 作中に、男性にストーカーする男性、女性を愛する女性がちょい役で登場するものの、男性同性愛の行為・心理描写は皆無。性行為描写にいたっては、男女のキスと、女性が女性の指を口に含むというシーンがあるのみ。(挿絵で性行為を暗示するのはこのキスシーンのみ)(熱田)

宮乃崎桜子/〔著〕 斎姫異聞 講談社X文庫 講談社
宮乃崎桜子/〔著〕 月光真珠≪斎姫異聞≫ 講談社X文庫 講談社

「斎姫異聞」は第何回だかわからないが、講談社ホワイトハート大賞だか佳作だかを受賞して和風ファンタジーで問題図書にされたとしたら審査員もびっくりだろう。主役である「斎姫」が実は両性具有であり、政略結婚の相手との初夜にそれがばれる、というシーンがちょっとあるけれど、性的描写の中に入れるのも疑問が残るぐらいのもの。(加納真紀さんメール)

(7)セクシュアル・マイノリティの日常を描いた本が指定されている

森奈津子/著 耽美なわしら 1 ASUKAノベルス 角川書店
森奈津子/著 耽美なわしら 2 ASUKAノベルス 角川書店
「耽美なわしら」は、ゲイやレズビアン、アセクシャル等の日常をかいたコメディであり、これをわかって指定したとしたらセクシャルマイノリティに対する差別としてしか考えられない。(加納真紀様メール)

作者はHPでバイセクシャルと自認しており、下ネタが多いことから来るバイアスではないだろうか。(加納真紀様メール)

(8)男性同性愛描写があるから指定された?

小沢淳/〔著〕 金色の少年≪ムーンライト・ホーン5≫ 講談社X文庫
講談社
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる≪誘惑≫ Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる 第3部 Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる 第4・5部 Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる Eclipsnovel 桜桃書房
かわい有美子/著 今、風が梢を渡る時 前編 パレット文庫 小学館
かわい有美子/著 今、風が梢を渡る時 後編 パレット文庫 小学館
小沢淳/〔著〕 茜の大陸≪ムーンライト・ホーン6≫ 講談社X文庫
小沢淳/〔著〕 神聖王国の虜≪ムーンライト・ホーン7≫ 講談社X文庫 講談社
小沢淳/〔著〕 密林の聖獣≪ムーンライト・ホーン8≫ 講談社X文庫 講談社

小沢淳のムーンライトシリーズは、国を亡くした王子と従者のゲイカップルが、旅をする話だが、どっちが受・攻かわからず、じれったい思いをしたことがある。
(直接的な描写はない)
あと王子が女好きの浮気性で女性と寝るシーンも少しあったと思うが、直接的ではない。

「僕は君のためにいる」は、作者による「自己流カラマーゾフの兄弟」で、実際にそんな感じ父親殺害をめぐる三兄弟+異母弟の葛藤が話の中心であり、性描写がメインなものではない。
最後に兄弟による性描写が少しあるが、直接的ではないはず。
徳田みどりによる表紙、挿絵が色っぽかったと思うので、そう判断されたのかもしれないが、ありえない。
かわい有美子がパレットに書いたものは青年同士の恋情のほのめかしはあっても基本、BLではない。(加納真紀様メール)

緑なす丘に我らは歌う(パレット文庫),ひかわ 玲子/著; 小学館,2005.4
花の告げし人を称えよ(パレット文庫),ひかわ 玲子/著; 小学館,2005.6
金の果実に祈りを捧げ(パレット文庫),ひかわ 玲子/著; 小学館,2005.8

パレット文庫は、「BL」として売られている作品もあるものの、通常は「少女小説」として売られている。ひかわ玲子は少女小説作家として大御所であり、指定された3作品(同一のシリーズ)も表紙は着衣の男性ばかりで、性描写を匂わせるものも無い。内容を見ていけば、男性同士のキスシーン、抱き合うシーンなどがあることから指定されたのだろうか。
前述の加納真紀さんのご指摘にもあるとおり、こうした性描写が非常に少ない作品も指定されている。男女の性行為であれば、キスシーンや抱擁シーンで有害指定されるとは考えにくい。(熱田)

(9)「BL」とそうでないものをノベルズやレーベル、文庫のシリーズ名で分けることは難しい

花丸ノベルスは初期はBLに特化しておらず、ファンタジーやSFも扱っており、性描写も少なかったはず。
BL作家でBLレーベルには、普通にBLを書く人でも混在するX文庫、パレット等には書かない作家もいる。

ASUKAノベルス/レモン文庫/新書館ウィングス文庫はBLレーベルではない、完全なジュブナイルレーベル。そういうテイストのものを混ぜるかもしれないが、性描写メインになるとは考えにくい。逆に言うと、そこまで子供を純粋培養して、どうするつもりなのか。

また新書館ディアプラス文庫はBLではあるが、性描写があっさりしているのを売りにしている。全くないものもある。特に菅野彰は少ないはず。(加納真紀さまメール)

(10)「文学」は指定されず、「ライトノベルズ」など若者向けジャンルのみが指定されている

 今回、指定されている図書の媒体・作家は、そのほとんどが若者・女性を読み手と想定しているものである。男性同士の恋愛・性行為描写が描かれた作品は、三島由紀夫や堀達夫などの一部の作品、比留間久夫や三浦しおんをあげるまでも無く、従来「文学」とされてきた分野でも枚挙にいとまない。(外国文学でも、ジョン・フォックス『潮騒の少年』、ジャン・ジュネ『葬儀』 、フォースター『モーリス』など…)しかしながら、こうした作品は一切指定されず、その内容や質的な際も議論・吟味されること無く、「BL」と認識された作品のみが有害と指定された。これは、本の貴賎を恣意的に観念されたジャンルによって決めるという、図書館がおこなうにふさわしくない行為ではないだろうか。
(熱田)

(11)書き手/想定される読み手の性別による選別が、暗黙裡におこなわれているのではないか
筋違いながら安堵致しましたのは、BLに紛れて90年代初頭にBLの萌芽に紛れる様にして紹介されたゲイ文学が排除されていなかった事です。(ぶどううり・くすこ様メール)

(10)との関連であるが、仮に、「ゲイ文学」と呼ばれる小説が指定されず、「BL」が指定される理由が、セクシュアル・マイノリティへの偏見ある表現があるかないかだとしよう。もちろん、BLの中にも、男性同性愛への偏見を含んだ描写のある作品があることは事実である。
しかしながら、その個別の表現が問題にされずに、「BL」というジャンルが有害とされることは、非常にナイーヴに、「ゲイ」という主体を本質化することだといえる。例えば、書き手が「ゲイ」であれば、セクシュアル・マイノリティへの偏見は作品に必ず表れないのだろうか。また、書き手が「ゲイ」でなければ、セクシュアル・マイノリティへの偏見があるということになるのだろうか。(熱田)

(12)「BL」を読んでいるのは女性読者のみとは限らない-読者を一定の範囲に定義するなどということはできない

BL雑誌の投稿欄に勇気を出して投稿して相談をして、幾許か救われた若いゲイの方も居たと言う事実があったとしても、彼等は冷笑をもって顔を背けるのでしょう。
ささやかながら資料の再確認をしている者の一人として、物悲しくなります。
(ぶどううり・くすこ様メール)

<「過激な性描写」を理由に「BL」を排除することの恣意性> 
 
(13)性描写の程度による振り分けがなされていない

西野花さんは、完全に18禁だと思います。綺月陣さんクラスですよ。
高遠 琉加/著 世界の果てで待っていて≪天使の傷痕≫は、同衾はしていますが、それは癒しあう行為のようなもので、これが入っているのは変です。(匿名メール-千田さん経由)

(14)「ストーリー」性や「文学」性があると思われる作家・作品が同性愛表現だというだけで排除されている

榎田尤利さん/BLに偏見持っている人には「夏の塩」シリーズを読んでみて欲しいです。この方は、とにかく人間の温かさということに重点を置かれてBLを書かれていると思います。

木原音瀬さん/人生の不条理ということを書かせたら一級です。三浦しをんさんも、木原さんの作品をBLでも直木賞候補に挙げたいと言っておられました。

英田サキさん/タイトな文体のハードボイルド。まるで映画を観ているようです。プロットの緻密さと甘さを排した内容は、BLという括りに入れて悪書と決め付けないで欲しいです。

栗本薫さん/大御所過ぎて、何もいえません(笑)。

花川戸菖蒲さん・鳩村衣杏さん・烏城あきらさんも、非常に良質な作品を書かれる方です。(匿名メール-千田さん経由)

秋月こおさん/Wikiより:1992年たつみや章名義で児童文学作家デビュー。2003年4月には熊本市議会議員選挙に立候補、初当選を果たしている。

本人も立派な方だし、BLでも芸術性・歴史性の高いお話を書かれる作家さんです。富士見二丁目などは、本当に音楽の薫香の高い作品です。
三浦しをんさんの、記事がありますので、参考にしてください↓。
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20060731bk0e.htm
(匿名メール-千田さん経由)

(15)男女の性描写がある、男性読者向けの本は性行為の度合いにかかわらず今回指定がない

堺市の図書館では、男女の性描写を扱い、表紙にも性描写を示すような絵や写真が使われている本を、開架で貸し出している。なかには、amazonなど、一般市場での流通においてはアダルトカテゴリーに配分され、18歳未満に対して警告が表示されるものもある。
こうした本を、置くなということではない。しかしながら、下記の実例を見れば、性描写の暗示の程度において、これらの本が「BL」よりも問題が無いと、どんな点から言うことができるのか。
また、仮に、こうした本が「官能小説」や「文学」であるという理由だとしたならば、「BL」というジャンルは「官能小説」や「文学」ではないとは、誰にもいえないということは、ここまでにあげた点から既に明らかであると思われる。(熱田)

下記に、2,3例を挙げておく。
異形の宴‐責め絵師伊藤晴雨奇伝/団 鬼六/著/朝日ソノラマ/2000.4/913.6 
1 北 202347233 8//タン/開架 図書一般  在庫
2中801178674 8//タン/開架 図書一般  貸出中

新編愛奴-外道の群れ外伝/団 鬼六/著/Paradigm human adult books/パラダイム/2001.4/913.6
1 南  304482979  8//タン/開架 図書一般 貸出中

※amazonではアダルト指定されている本
爛夢-官能アンソロジー/日本文芸家クラブ/編/藍川 京/〔ほか著〕/徳間文庫/徳間書店/2008.8/913.68
1東  401489752  8//ランム/   開架 図書一般 貸出中

(16)「BL」における性描写は恋愛を描くストーリー上、不可欠なものもある
 
仮に、性描写の「中身」が問題だとした場合に、下記のような意見もある。

かなり前に新聞でBLの特集があって、ある方が言っていましたが、男性向けの性描写とBLが決定的に違うのは、そこに『愛』があるかどうかだそうです。

男性向け性描写は、とにかく性的に興奮させることを目的としています。暴力もただの性的支配欲の表れです。

女性向けBLは、暴力やレイプがあっても、全ては愛に繋がっています。つまり、恋愛ごとの延長に全ての行為があるということです。

何故、女性にとって男同士の暴力はOKなのかというと、やはり弱者(女や子供)に暴力が振るわれる場面はリアル過ぎて引いてしまいます。男同士なら、暴力も所詮対岸の火事。そこでは何をやってもOKのある意味想像上の世界ですね。

そして、男同士の愛というものに、女性は男女間にない純粋な愛を夢見ているのかもしれません。
タブーの愛を貫く純愛というものに、心を動かされるのでしょうね。結婚というゴールのない、愛だけで成り立っている世界ですから。

女性向けBLではキャラの年齢が高いのも、特徴ですね。男性向けはとにかく若い娘優先ですから。BLでは、40歳だって立派な主人公です。ロマンチックな男性と違って、女性は現実的ということなのでしょうか。興味深いですね。
(匿名メール-千田さん経由)

参考文献 
Butler,Judith,1997,Excitable Speech: A Politics of the Performative , Routledge, London(=竹村和子訳2004『触発する言葉―言語・権力・行為体』岩波書店)

資料・著作が20冊以上排除図書に指定された作家の、作家別排除図書指定率

※網掛け:有害図書指定率が100%を超えている。何らかの理由で9月11日から蔵書数が減ったか、検索方法が違っていてでてこない可能性あり。
※下線(一件):同姓同名作家がいる可能性が考えられるが、特定できていない/元データの数値に疑問があるなどのケースで、数値が正確ではないのではないかと疑われるケース。また、同姓同名作家の存在の有無については、一部を除いて未対応。

【千田有紀さんの意見】 

 個人的には、表現の自由は、ある一定の制限のなかで、守られる価値であると思っている。ある一定の制限のなかで、という譲歩をつけるのは、表現は無制限に守られるべきものではなく、ある表象が他者を傷つけないかぎりにおいて守られるべきだと思うからである。

 つまりこのボーイズラブ排除が、性的マイノリティからのある種の表現にかんする抗議としてなされたのであるならば、無制限に表現の自由を主張することは、できないだろう。しかし、排除の理由が、「性的な表現が含まれるから」であるというのであれば、首を傾げざるを得ない。性的な表現は、図書館のなかに満ちており、それらは許容できるが、ボーイズラブだけが駄目であるとしたなら、問われるべきは、「同性愛表現を許容できない価値観」のほうだと思うからである。

 この前提を踏まえたうえで、リストをみたときの感想は、やはり排除の基準がよくわからないというものであった。例えばリストには、鹿住槇さんや桜木知沙子さんの作品が多く含まれているが、これらの作家は、どちらかといえば、かなりソフトな古典的少女漫画タッチの作品を書くことで知られている。桜木さんの『金の鎖が支配する』という作品もしっかりリストに入っているが、これも性描写が出ていて桜木さんにしては珍しい挑戦だと思った記憶があるほどで、その他の作品は、家族の絆や愛情や信頼とは何かを問いなおし、ときに息苦しいほど「倫理」をみつめようとする、どちらかといえば「保守」といえなくもない作品群である。これらの作品も排除されるのかと知って、正直にいえば、驚きを禁じえなかった。

 また鹿住槇さんは、昔の少女小説タッチのソフトな作品を量産される作家で、性表現の厳しいアメリカでも漫画化された作品が翻訳されている『ヤバイ気持ち』(英訳『Desire』)などは、相手への性的関心から先に関係を結んだ高校生が息苦しさを感じ、心の絆を結びなおすという、男女であったら性教育の教科書として使われてもおかしくないような作品である。その他の作品も総じてソフトで性表現も過激ではなく、鹿住さんの作品に男性同性愛が描かれている以外の排除される理由が見当たらない。

 また割を食っていると感じられたのが、榎田尤利さんである。
榎田さんは、ボーイズラブとファンタジーを描く作家でもあるのだが、どれもこれも駄目という状態である。『普通の男(ひと)』などは、自分のことを「普通」であると思っていた男が、同性を好きになるという「異常」な事態に驚き戸惑うという過程が丹念に描かれており、セクシュアリティの理論書のような趣がある本である。次作の『普通の恋』でふたりが結ばれ、『普通の男』にはほとんど性描写はなかった(ように記憶している)。これも駄目なのか。また、魚住くんシリーズも、排除されている。魚住くんシリーズは、傷つきやすい魚住くんが巻き起こす青春物語で、1巻ではまったく性描写は出てこない。
 なぜ1巻という限定をつけるかといえば、2巻以降は、あまりの高値に入手を諦めたからである。現在はすべて絶版であり、12月2日現在、某サイト(アマゾン)の中古品で、最終巻は最低でも3200円、最高額で5000円で取引されている。

 ボーイズラブのように消費財的に読まれ、あっとうい間に消えてしまう作品こそを保存することこそが、図書館の使命ではないのか。桜木さんの作品など、ほとんどを読んでいると思っていたが、排除リストに入っているものには、知らないものもたくさんあった。絶版となり、ネットの中古市場からも消えてしまった作品は、図書館がなければ、実際にはまったくといって入手不可能となっているのが現実である。男性同士の恋愛を描いているという理由で、排除するにはあたらないのではないか。

 また秋月こおさんの『フジミ』シリーズ、『要人警護』シリーズ、『ロマンセ』シリーズなどは、どれも排除の対象であった。権威主義的なことをいう気はないが、秋月さんは、別名で児童文学も書かれており、熊本市議も務められた方である。  『フジミ』シリーズは、わずかながら性描写こそあるものの、基本は優れた音楽家を目指す二人の成長譚であり、栗本薫さんは「少女マンガ的構造」をもつ物語であると論じている。この評価は同意できるものであり、決して過激なポルノなどではない。
 またロマンセシリーズなどは、性描写も少なく控えめであり、平安時代を舞台としたスリリングな作品に仕上がっている。他にも、たけうちりうとさんの『薔薇とボディガード』シリーズやごとうしのぶさんの『タクミ君』シリーズなど、すぐれた長編が排除の対象になっているのは、いかにも惜しい。

 製造業で働く男たちのロマンを中心にすえた、烏城あきらさんの『許可証をください』のシリーズも排除の対象であった。また人間味あるドラマを描くことで定評のある木原音瀬さんも、絶版になった作品も多いにもかかわらず、排除の対象である。
 これらの作品に性描写がないとはいわないが、軽い味付け程度のものであり、この程度が排除の対象であるというのだったら、ボーイズラブ以外のほとんどの作品が排除の対象となるのではないかと思われる。

 そもそも、ボーイズラブは作家買いが難しい珍しいジャンルである。というのは、どの出版社のどのノベルズから出るのかという、ノベルズに作品のテイストが大きく規定されるからである。堺市のリストを見ると、上位から、角川ルビー文庫、リーフノベルズ(倒産)、白泉社花丸文庫、講談社X文庫、Beboynovels、徳間書店キャラ文庫、小学館パレット文庫、集英社コバルト文庫と大手の出版社の性描写も大人しい作品ばかりであり、(個人的に)ポルノ的な作品が多いと思い浮かぶプリズム文庫などは、2冊(3冊?)にすぎない。つまりは購入の際に、購入図書がかなり吟味されたうえで、決定されていたことが伺える。

 これらの作品を、ただ男性同士の関係が描かれているという理由で、図書館から排除するのは、いかにも行き過ぎであると思われる。
                               以 上


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特定図書排除に関する住民監査請求 補充書(特定図書リストについての分析-2)

2008-12-31 09:22:16 | 「ジェンダー図書排除」事件
この記事は、「特定図書排除に関する住民監査請求」で
12月9日に陳述で提出した「補充書(意見書)」です。

 特定図書リストについての分析-1からの続きです。
「住民監査請求書の監査結果はこちら。 


(特定図書リストについての分析-2)
特定図書排除に関する住民監査請求  補充書
特定図書リストについての分析-1からの続き

<選定基準に一貫性が無い>


(1)「挿絵」がないハードカバーのシリーズが指定されている例
(2)同じ、「BL」とされる媒体でも指定されているものといないものがある
(3)同じ作家の「BL」作品で、媒体や出版社が変わると「BL」指定されなくなっている例
(4)同じ作家の続きもののシリーズの中で指定されているものといないものがある
(5)性描写がほとんどないか、まったくない本が指定されている

<「BL」という無定義なジャンル概念を、無理に、恣意的な基準でくくろうとしたことによる問題‐明らかに問題のある排除がおこなわれ暗黙裡の差別があらわになっている>

(6)「BL」ではなく、男性同性愛の恋愛・性描写がないのに指定されている「少女小説」
(7)セクシュアル・マイノリティの日常を描いた本が指定されている
(8)男性同性愛の描写があるから指定されたとしか思えない本がある
(9)「文学」は指定されず、「ライトノベルズ」など若者向けジャンルのみが指定されている
(10)「BL」とそうでないものをノベルズやレーベル、文庫のシリーズ名で分けることは難しい
(11)書き手/想定される読み手の性別による選別が、暗黙のうちにおこなわれているのではないか
(12)「BL」を読んでいるのは女性読者のみとは限らない-読者を一定の範囲に定義するなどということはできない

<「過激な性描写」を理由に「BL」を排除することの恣意性>


(13)性描写の程度による振り分けがなされていない
(14)「ストーリー」性や「文学」性があると思われる作家・作品が同性愛表現だというだけで排除されている
(15)男女の性描写がある、男性読者向けの本は性行為の度合いにかかわらず今回指定がない
(16)「BL」における性描写は恋愛を描くストーリー上、不可欠なものもある

<選定基準に一貫性が無い>

(1)「挿絵」がないハードカバーのシリーズが指定されている例


『耽美小説SERIES』
神崎春子/著 オイディプス・ソナタ 勁文社
神崎春子/著 心裂けても - 勁文社
神崎春子/著 被虐の荒野 - 勁文社
神崎春子/著 聖らかな夜の娼夫 勁文社
神崎春子/著 瞳に星降る - 勁文社
神崎春子/著 心裂けても - 勁文社
神崎春子/著 泪色した韋弯 - 勁文社
神崎春子/著 夢郭恋道行 - 勁文社
神崎春子/著 月に踊る - 勁文社
神崎春子/著 少年人形 - 勁文社

こちらにリストアップして戴きました分、全て『耽美小説SERIES』であると言う認識でよろしいかと思われます。挿絵は無いとお考え下さい。
装丁はハードカバーノベルズ版一段組となっております。申し添えますならばこの叢書は呼称こそ耽美小説でありますが全てのBL小説専用レーベルの先駆と認識して差し支え無きものか、と思われます。

又、神崎春子女史の作品で二見書房・VelvetRomanに収録された『センチメンタル・シティ』もリスト上に上がっているのを再確認しましたが、この二見書房・VelvetRomanも又『耽美小説SERIES』と装丁を同じくする叢書です。真珠光沢をかけたカバーが特徴であるこの叢書も又耽美小説専用レーベルとして存在しておりました。こちらにも挿絵はございません。(ぶどううり・くすこ様)

 上記にあがっている該当作品は、表紙も、図1、2に示したとおり、とくに過激な性描写を暗示するものは無い。シリーズ名が『耽美小説SERIES』であるから指定されたのか。
他にも、表紙にも挿絵にも、具体的な性描写のない作品が多く指定されている。(熱田)

(2)同じ、「BL」とされる媒体でも指定されているものといないものがある

・『耽美小説SERIES』及び二見書房『VelvetRoman』の例
先のメールで触れました勁文社の『耽美小説SERIES』及び二見書房『VelvetRoman』の他の蔵書が気に掛かりましたので。

結果から申し上げますと、両者共に911リストに掲載されていない蔵書が存在しました。
VelvetRomanで11点、耽美小説SERIESで13点です。
VelvetRomanに関しましては書名検索で抽出出来ますので擱くとしまして、問題は耽美小説SERIESです。
以下に当方が抽出したものを簡略に記します。

青の迷夢/森内景生
くれない焔鬼/森内景生
くれない炎舞/森内景生
くれない幻花/森内景生
残月/森内景生
紅かんざし/深沢梨絵
残照の瞬間/原田千尋
君が蒼き天涯の玻璃/原田千尋
華王伝説/神崎春子
青薔薇の街/小沢淳

又、耽美小説SERIESと銘打たれては居りませんが勁文社からは以下の書も発行されております。

黄昏のバイヨン/榊原姿保美
胡蝶の夢/榊原姿保美
さくらさくら/榊原姿保美
荊の冠 上・下/榊原姿保美

これらを視る限り、あのリスト上に上がっていた作品群を選別した基準はなんなのかと気に掛かる所です。勁文社で言えば江上冴子さんの『エデンを遠く離れて』もリストに掲載されておりますが、蔵書全てが網羅されている訳ではありません。差異が7冊ございます。
(ぶどううり・くすこ様メール)

Velvet romanで指定されているもの
保2 8 カ 神崎春子/著 ベイシティ・ブルース Velvetroman
二見書房 1992 1993/4/3
保2 8 ス 菅野彰/著 死にゆく夏の、喘ぎにも似て Velvetroman
二見書房 1994 1994/4/19
保2 8 カ 神崎春子/著 センチメンタル・シティ Velvetroman
二見書房 1993 1993/9/11
保2 8 マ 真野朋子/著 ナルシスたちの憂鬱 Velvetroman
二見書房 1993 1993/6/16
以上、4冊。

堺市で蔵書しているvelvet roman
1青の蠱惑/尾花 有理/著/二見書房 1994.5 913.6
2雨夜の月/今岳 華子/著 /二見書房 1993.10 913.6
3アラン 真夜中の少年/ジョゼフ・ハンセン/著 二見書房 1993.8 933
4クライ・オブ・ソウル/いちえん咲子/著 二見書房 1993.5 913.6
5死にゆく夏の、喘ぎにも似て/菅野彰/著 二見書房 1994.3 913.6
6 聖少年/森薔子/著 二見書房 1993.12 913.6
7 センチメンタル・シティ/神崎春子/著 二見書房 1993.7 913.6
8 抱きしめて、硝子の花/藍川京/著 二見書房 1992.12 913.6
9 ナルシスたちの憂鬱/真野朋子/著 二見書房 1993.3 913.6
10烏珠抄/七条沙耶/著 二見書房 1993.11 913.6
11背徳の召喚歌/朝松健/著 二見書房 1993.9 913.6
12花を買う男/有田 万里/著 二見書房 1993.6 913.6
13ベイシティ・ブルース/神崎 春子/著 二見書房 1992.12 913.6
14頬に風、唇に恋歌を/飛雁 有紀/著 二見書房 1993.2 913.6
15僕たちの夏時間/西蓮寺 佑/著 二見書房 1993.4
以上15冊。

ぶどううり・くすこさんによると、指定されたものとされていないものの間に、性描写の程度を含め、質的な差異は見出せないとのこと。(熱田)

> ぶどううり様の方では、リスト上に上がっていた作品と、あがっていなかった作品の間に、質的な差異は見出せないということでよろしいでしょうか?(熱田)

はい。
むしろリストから取りこぼした作品の方が扇情的である可能性を否定する事が出来ないと愚考します。(ぶどううり・くすこ様メール)

  また、同じ絵の表現でも、たとえば、項目(12)であげた成人男性向け官能・ポルノ小説の表紙が問題にならないのだとしたら、「BL」の表紙に使われている、いわゆる「漫画絵」に対する偏見があるのではないか。(熱田)

(3)同じ作家の作品で、媒体や出版社が変わると「BL」指定されなくなっている例‐野阿梓

このリスト中では野阿梓氏のBL作品は『ミッドナイト・コール』一点のみと言う事になっておりますが、実際には後4点(内1点は版型変更による既作)が中央公論社から刊行されております。
又、早川書房から刊行されたSF作品にもBL描写を含む作品がございます。
それらについてはしっかり回避されておりますね。
(ぶどううり・くすこ様メール)

すみません、この点、もう少し伺いたいのですが、つまり、野阿梓さんは、ルビー文庫以外の作品でも、「BL」と認定できるような作品を書かれているということでしょうか?
だとしたら、選別者は「BL」かどうかを、媒体で判断している(実質的にその本がBLかどうかではなく)ということで、それも大変恣意的と言えるのではないかと思うのですが...。 (仮に、とてもいい本がルビー文庫に入っていたとしても、ルビー文庫だと排除されてしまうというような)(熱田よりぶどううり・くすこ様へのメール)

さて、続きまして野阿梓氏の著作について。
お訊ねの通り、野阿梓氏はルビー文庫収録の『ミッドナイト・コール』以外にもBL(≒耽美)と認識できる著作を残されております。
なおそれらの作品は『ミッドナイト・コール』とは異なる物語でございます。
それ故看過された可能性もございますね。
又ご指摘の通り、選別者が媒体によってBLであるや否やを選別していた証左ともなり得るかと。

月光のイドラ 野阿梓/著 中央公論社1993.2
緑色研究上 野阿梓/著 中央公論社 1993.11
緑色研究下 野阿梓/著 中央公論社 1993.11

この3点の野阿梓氏の作品はBLである、と申し上げます。
『月光のイドラ』から『緑色研究』へ続くこの3冊は作品の世界観にSFとある種の主義が巧みに織り込まれておりますのでそれ故看過された可能性もございます。
版型はごく一般的な単行本と同じものとお考え下さい。

又、BL描写を含む作品としましては
少年サロメ 野阿梓/著 講談社 1998.12
バベルの薫り 野阿梓/著 早川書房 1991.1

当方が記憶する限りこの二点が該当するかと。
前者は短編集であり、後者は長編小説でございます。
(ぶどううり・くすこ様メール)

堺市所蔵野阿梓 作品リスト
黄昏郷  野阿梓/著    早川書房 1994.4
兇天使上 野阿梓/著    早川書房 1986.6
兇天使下 野阿梓/著   早川書房 1986.6
銀河赤道祭上 野阿梓/著  早川書房 1988.5
銀河赤道祭下 野阿梓/著 早川書房 1988.5
月光のイドラ 野阿梓/著 中央公論社1993.2
五月ゲーム  野阿梓/著 早川書房 1992.7
少年サロメ 野阿梓/著 講談社 1998.12
ソドムの林檎 野阿梓/著 早川書房 2001.9
花狩人  野阿梓/著 早川書房 1984.5
バベルの薫り 野阿梓/著 早川書房 1991.1
武装音楽祭  野阿梓/著 早川書房 1984.11
伯林星列 野阿梓/著 徳間書店 2008.1
ミッドナイト・コール 野阿梓/〔著〕 角川書店(角川ルビー文庫)1996.6
緑色研究上 野阿梓/著 中央公論社 1993.11
緑色研究下 野阿梓/著 中央公論社 1993.11

※「ミッドナイト・コール」は通常「BL」の媒体とされるルビー文庫だから指定された?

(4)同じ作家のシリーズで指定されているものといないものがある

宮乃崎桜子/〔著〕 斎姫異聞 講談社X文庫 講談社
宮乃崎桜子/〔著〕 月光真珠≪斎姫異聞≫ 講談社X文庫 講談社
宮乃崎桜子「斎姫異聞」シリーズは、堺市に16件所蔵されている。何故この2冊のみが指定され、他のものは指定されないのか。

堺市所蔵「斎姫異聞」シリーズ
1 図書 暁闇新皇(あかときやみのしんのう) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 1999.8 913.6
2 図書 貴人花葬(あてびとをはなにほうむる) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 2002.8 913.6
3 図書 天離(あまさかる)熾火 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 2001.5 913.6
4 図書 斎庭穂垂(いつきにわにほのたれる) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 2002.2 913.6
5 図書 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 1998.4 913.6
6 図書 うたかた 斎姫異聞外伝 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 2003.8 913.6
7 図書 陽炎羽交(かげろうにはねをかわす) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 2000.5 913.6
8 図書 月光真珠 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 1998.8 913.6
9 図書 幻月影睡(げんげつのかげにねむる) 斎姫異聞
 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 2003.5 913.6
10 図書 花衣(はなのえ)花戦 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 2000.9 913.6
11 図書 宝珠双璧(にたまをならぶ) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 2000.12 913.6
12 図書 満天星降(まんてんにほしのふる) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 1999.5 913.6
13 図書 夢幻調伏 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 1999.2 913.6
14 図書 六花風舞(かぜにまう) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 1998.11 913.6
15 図書 諒闇無明 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 2000.2 913.6
16 図書 燐火鎮魂 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 1999.11 913.6
(熱田)

(5)性描写がほとんどないか、まったくない本が指定されている

小沢淳/〔著〕 金色の少年≪ムーンライト・ホーン5≫ 講談社X文庫 講談社
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる≪誘惑≫ Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる 第3部 Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる 第4・5部 Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる Eclipsnovel 桜桃書房
かわい有美子/著 今、風が梢を渡る時 前編 パレット文庫 小学館
かわい有美子/著 今、風が梢を渡る時 後編 パレット文庫 小学館
小沢淳/〔著〕 茜の大陸≪ムーンライト・ホーン6≫ 講談社X文庫
小沢淳/〔著〕 神聖王国の虜≪ムーンライト・ホーン7≫ 講談社X文庫 講談社
小沢淳/〔著〕 密林の聖獣≪ムーンライト・ホーン8≫ 講談社X文庫 講談社

小沢淳のムーンライトシリーズは、国を亡くした王子と従者のゲイカップルが、旅をする話だが、どっちが受・攻かわからず、じれったい思いをしたことがある。
(直接的な描写はない)
あと王子が女好きの浮気性で女性と寝るシーンも少しあったと思うが、直接的ではない。

「僕は君のためにいる」は、作者による「自己流カラマーゾフの兄弟」で、実際にそんな感じ父親殺害をめぐる三兄弟+異母弟の葛藤が話の中心であり、性描写がメインなものではない。
最後に兄弟による性描写が少しあるが、直接的ではないはず。
徳田みどりによる表紙、挿絵が色っぽかったと思うので、そう判断されたのかもしれないが、ありえない。
かわい有美子がパレットに書いたものは青年同士の恋情のほのめかしはあっても基本、BLではない。(加納真紀様メール)


特定図書リストについての分析-3 につづく。


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特定図書排除に関する住民監査請求 補充書(特定図書リストについての分析-1)

2008-12-31 00:00:00 | 「ジェンダー図書排除」事件
「特定図書排除に関する住民監査請求」で
12月9日に陳述で提出した「補充書(意見書)」です。

わたしは、監査請求提出後の事実経過などを「補充書」として提出・説明し、
この意見書は寺町知正さんが説明しました。

排除された5706冊の「特定図書リストについての分析-1」で、
内容は研究者や当該書籍に詳しい人たちがリストを分析したもので
非常に詳細な講評です。
全部で25,000字ほどありますので3回に分けてアップします。
今日は大晦日なので、今年中に一挙公開です。

分量が多いですが、関心のある方はお読みになってください。


(特定図書リストについての分析-1)
特定図書排除に関する住民監査請求  補充書
2008.12.09

堺市から情報公開された今回の排除本のリスト(9月11日分)につき、恣意的なリストアップがされているので、研究者や当該書籍に詳しい人たちが分析した講評を補充の一部とする。
 自治体図書館が公費で取得した書籍等を、下記分析で明らかなように安易に「排除リスト」もしくは「排除すべきかどうか検討するリスト」として整理すること自体が財産の管理を怠る事実というべきである。
以下は、基本的には熱田敬子さんがご自身の意見や他の方の意見をまとめる形で構成されており、他の方の意見は氏名やペンネーム等を記載している。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以下、意見の本文)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※いただいたご意見に関して、熱田個人の意見とは異なるものも、原文ママで掲載し、それぞれの項目につけたタイトルで、その意見にから何が読み取れるかを示している。

※本文中作品名など以外で「」をつけている語句(例えば「BL」)については、その語句の示す範囲が極めて曖昧であり、本文の記述上便宜的にその後を用いるに過ぎないという認識を示す。

1. 選定基準の不明確さと非一貫性
 堺市のリストを確認した複数の意見を総合すると、本リストは統一された基準のもとに選ばれたのではないことがほぼあきらかである。
 個別の作品、シリーズを見ていくと、選別の基準とされたと推測可能なのは下記の通り。

・表紙と挿絵
・タイトルの与える印象
・ノベルズ・文庫
・作家(いわゆる「BL」作家とされているか否か)
・出版社
・性描写の程度や有無
・ジャンル(ライトノベルズか「文学」小説かなど)
・男性同性愛描写であるかないか(性描写の程度・有無と関係なし)
・女性読者向けであるかないかという、出版社の指定するターゲット・セグメント
・本の形態。ハードカバーかソフトカバーかなど。

 ただし、個々の基準はそれぞれ部分的に適用されているのみで、貫徹されているとは言いがたい(後の項目に実例を示したとおり)。
これらの基準が適用されたことにより、実際に問題のある排除が行われている例は後に示すが、すこし考えても次のような問題がある。

・表紙と挿絵…
今回のリストには、絵での性描写が全くないものも多い。
また、「BL」として指定された本の表紙や挿絵の描き手は、少女漫画やライトノベルズの挿絵との描き手と重なり合う部分がある。絵柄や画家での指定が難しいことは次の項目の作家と同様である。実際に、後の項目では、男性二人が表紙に描かれた少女小説が誤って排除されたと思われる事例(画家は波津彬子 )があがっている。(3節・項目(6))
また、同じ性行為描写を暗示する表紙があっても、3節の項目(15)にあげたような作品は、「有害」指定を受けない。「漫画」的絵画表現に対し、偏見があるのではないだろうか。

・作家…作家ごとに排除図書指定率を出してみると、蔵書が100%指定されている作家も数多く存在する 。ある作家の作品だから問題があるという発想だとすれば、表現の自由の抑圧以外の何者でもない。

・出版社…
 いわゆる「BL」を主力商品とする出版社が高い指定率を軒並み誇っている。同じ作家の男性同士の性行為描写を含む作品でも、出版社が変われば指定されていない例もある。(3節項目(3))ある出版社からでている本だから、図書館に置かない/開架に置かないという指定がされるとしたら、それは検閲に等しいのではないか。

などなど…。
そして、上記のような多様な要素が「BL」を判断する基準として、用いられ、その適用のされ方に統一した基準が無い中で図書を排除することが許されれば、非常に多くの本を恣意的に「BL」として排除することも可能になってしまう。実際に、今回のリストでは、排除された理由さえ分からない本が多数ある。3節に具体例を挙げてあるが、図書館はそれぞれの作品に関して、何故この作品を指定したのかを説明する必要があるのではないだろうか。

2. 「BL」を定義すること自体の恣意性

 「BL」という本の範囲を決めることは、一体誰に可能なのだろうか。今回、TV番組「ムーブ」(大阪・朝日放送、2008年11月20日)に見られるように、「BL」をゾーニングすることが問題の解決になるという意見もあるようだが、「BL」というジャンルは、そのようなゾーニングを問題なくおこなえるほど、はっきりした定義を持っているのだろうか。「文学」の範囲に関する誰もが納得する定義が未だおこなわれていないのと同じく、「BL」に関しても定義は難しい問題だ。今回のリストを検討した結果、この定義の曖昧さが引起す、様々な問題が明らかになっている。(3節で詳述)

しかも、今回は、従来の猥褻表現に関する議論とは異なり、個別の本、個別の表現に関して問題が提起されたのではない。「BL」というジャンル自体が問題とされたのである。「BL」に関しては、「文学」よりもはるかに批評が少なく、表現に関する議論がつくされていない。それにしては、堺市における「BL」定義の仕方はあまりにもナイーヴであり、少女小説、同性愛を描いた文学作品、ライトノベルズなどの若者向け小説、官能小説など、隣接する様々な分野の表現までを抑圧する可能性に満ちている。「BL」とされる作品、今回のリストに掲載された作品の書き手、挿絵画家、出版社などは、こうした隣接分野と弁図のように重なり合っている。ある作品は「BL」であって、「少女小説」ではないという基準はなんだろうか。

例えば、「男性同士の性行為描写を描いた、女性向けの作品」を排除したのだとしよう。しかし、「男性同士の性行為描写」があればすべて排除されているというわけではないことは、後に載せる項目(6) (4) (9) (10) (14)からわかる。この差異は何によるものなのか。項目(6)であげた作品など、少女小説の中にも、同性同士の思わせぶりな仲のよさを描く、いわゆる「耽美的」とされる描写が存在する。今回のリストを見る限り、「BL」が、性表現のほぼ皆無な作品までリストアップされ、「耽美的」描写が不問にふされる理由は不明である。

もちろん、「男性同士の性行為描写」をもって本が排除されるとしたら、これはセクシュアル・マイノリティへの差別に他ならないことは、項目(7) (8) (12) (14)、また千田有紀さんの具体的な作品に基づいたご意見からも明らかだ。また、「女性向け」という部分を持って排除したとすれば、図書館が本の読者層を規定する行為であり、やはりするべきではないだろう。

 また、今回、性行為描写の「過激さ」の程度によって「BL」が問題とされたのではないことは、項目(2) (3) (9)(10)(13)(15)から分かる。ほとんど性行為描写の無い作品も、作家・ノベルズ・シリーズなどで判断されて、もしくは「男性同性愛」である、図書館の想定する読者層が女性であるという理由で排除されているとしか思えない事例がある。

 これは、リストを精査していないことによる一時的な混乱、混同なのであろうか? そうではない、と信じる理由がある。仮に、性行為描写が問題なのであれば、それこそ(12)にあるような男女の性描写も問題とするべきであろう。また、「文学」の性表現を問題の無いものとし、若者向け・女性向けとされる小説の性表現のみを問題とする、ジャンル差別が今回のリストからは透けて見える(項目(10))。ジャンル差別をおこなわないのであれば、「文学」の男性同士の性表現も問題とされるはずである。しかし、そのように、「BL」・「ポルノ」…と図書館が本に「有害」レッテルを張り、書庫にしまいこんでいくことが、「表現の自由」を侵すことは明らかであるはずだ。

 このような恣意的としか言いようの無いリストに対し、図書館の言う、「内容に踏み込んだ」精査が仮に今後おこなわれるとすれば、その「内容」とはなんだろう。「性表現」を基準に作中の行為者の性別や、出版社、ノベルズ名などを問わず「精査」するのだろうか。その際に、その性表現が作中のストーリーに不可欠なものであったとしたらどうなのだろう。3節の項目(14)や、千田有紀さんご意見では、男性同士の性行為表現がストーリー上不可欠と思われる事例が挙げられている。しかし、こうした「不可欠かどうか」の判断は、常に読み手にゆだねられるべきではないか。その本に性行為描写を必要とする、ストーリー性や文学性があるかどうかを、図書館が判断するのだろうか? (例えば、渡辺淳一の『失楽園』や『愛の流刑地』のsex描写はストーリー上不可欠で、「BL」のsex描写はストーリー上不可欠ではないのだろうか。)

また、図書館の使命の一つであるはずの、資料収集についても、後に掲載する千田有紀さんが述べておられるように、「BL」という消費され、消え去ってしまう本を、資料として留めることは必要であろう。同時代的に評価されない作品が、時間の経過とともに資料的価値を高める場合が少なくないことは、大宅荘一文庫などの例を挙げるまでも無い。

今回の、堺市での「BL」本排除に関して最大の問題は、この「BL」というジャンルを、図書館が一貫性を持たず、公の議論も経ていない、独自の基準によって、恣意的に定義し、かつそれを排斥したということにあると思われる。「BL」作品の中に、問題の無い表現が無いわけではない。男性同性愛を描きながら、書き手の同性愛嫌悪と受け取れる表現を含んでいる事例や、既存の極めて保守的で抑圧的な結婚・恋愛観を再生産していると受け取れる表現も存在する。こうした表現については、個別に取りあげて議論をおこなうことが必要であるかもしれない。しかし、「BL」作品の表現について、生産的で実りある議論をするためには、作品が誰にとってもアクセス可能であることが必須条件であろう。(Butler1997=2004)
ジャンル自体をいわば、「禁書」にするという発想、そして3節で詳述するリストを検討していた際に明らかになった問題群からは、大変残念なことに、今回のリストを作成した者の(おそらく無自覚な)偏見や差別意識が透けて見える。

3. 今回のリストに見られる具体的な問題例

下記、16項目にわたり、リストをご覧になった方からの実例を挙げた問題点の指摘や、ご意見をまとめておく。今回の分析にあたっては、ぶどううり・くすこさん、加納真紀さん、匿名のご協力者の方のご意見を参照させていただいた。それぞれの方のご意見については、ご本人に了解を取った上で、誰の発言かが分かるよう表記している。
また、社会学者の千田有紀さんからもご意見をお寄せいただいたが、これは一つのまとまりある主張となっていたために、切り張りはせず、末尾に掲載した。図書館の役割や、指定された作品の背後にある思想や主張を問わず、リストが作られている状況へのご批判など、大変貴重なご指摘がある。参照されたい。



特定図書リストについての分析-2につづく。

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堺市「特定図書排除に関する住民監査請求書」の監査結果が届きました。

2008-12-30 12:00:00 | 「ジェンダー図書排除」事件
昨日堺市監査委員に出していた
「特定図書排除に関する住民監査請求書」の監査結果が届きました。



この監査請求については、12月9日に、堺市役所に陳述に行きました。
堺市監査委員(堺市HP)は、代表監査委員の木戸唯博氏、小杉茂雄氏、
議員選出委員は、西村昭三議員と松本光治議員の4人です。

監査結果の結論は、
「請求人が住民監査請求の対象とした事実は存在しなくなったと
判断される以上、本件の住民監査請求は主張の前提を欠くこととなり、
請求人の主張を検討するまでもなく理由がないものと判断される。」

監査はしたけれど「訴えの事実がなくなったと判断」。

つまり、住民監査請求としては「棄却」で負けたけれど、
監査請求をしたから「対象の事実がなくなった」、
「現状がわたしたちの訴えどおりに見直された」ともいえます。

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●監査結果は、19ページまでがこちらの住民監査請求書の転記です。

監査結果の本文は、以下のとおりです。


監査請求に係る監査結果について(通知)

(P1からP19まで省略)
「監査結果」ワード版 80KB
「監査結果」印刷用 PDF版 170KB

 第2 監査の実施 
1 要件審査及び請求の受理
 
  本件請求は、地方自治法第242条第1項に規定する要件を具備しているものと認め、平成20年11月13日にこれを受理した。 
 
2 請求人の証拠の提出及び陳述
  地方自治法第242条第6項の規定に基づき、平成20年12月9日、堺市役所高層館19階・監査室において請求人及び堺市住民監査請求代理人に対し証拠の提出及び陳述の機会を設けた。
  この陳述においては、請求人等から新たな説明資料の提出があり、本市図書館が一部の市民の不当な要求を受けてBL図書という特定分野の図書を選別し、廃棄しようとしたことは不適切であり、またBL図書の選別基準も不明確・不統一であるなど、請求人の主張についての補充説明が行われた。

3 監査対象部局
 教育委員会事務局(中央図書館)
               
4 監査対象部局からの事情聴取等
  本件について、教育長に対して請求に係る意見書の提出を求めるとともに、平成20年12月9日、監査対象部局の職員から、本件請求に関する事実及び意見について事情を聴取した。その概要は以下のとおりである。
(1)事情を聴取した者
  教育次長(管理担当)、中央図書館館長、中央図書館副館長兼総務課長、中央図書館総務課参事 ほか

(2)本件請求に関する意見等
 ア 堺市立図書館の役割について
本市図書館については、図書館法に定められている「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする・施設」であると認識している。
  本市図書館は、市民が利用しやすい図書館として基本杓な図書館サービスを確実・柔軟に提供し、社会経済情勢の変化に的確に対応した運営を心がけ、市民及び利用者の読書や情報に対するニーズ、意見、要望等を適切に受け止め、常に業務やサービスを見直し、閑係法令等に照らし、図書館行政を推進している。

イ 図書(資料)の取り扱いについて
 ① 収集
本市図書館における図書(資料)は、図書館法に定められている「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーショシ等に資すること」を目的とし、「堺市立図書館資料収集方針」に基づき収集している。 
本市図書館の図書(資料)は、「多様な、対立する意見のある問題については、それぞれの観点に立つ資料を幅広く収集する。」、「著者の思想的・宗教的・党派的立場にとらわれて、その著作を排除しない。」、「図書館員の個人的な関心や、好みによって選択しない。」、「個人・組織・団体からの圧力や干渉によって、資料収集の自由を放棄したり、紛糾を恐れて自己規制したりしない。思想・信条の自由は最大限に生かすことを確認する。」とする収集方針にある基本的な観点に立ち選択し収集している。
 ② 保存・管理
   本市図書館の所蔵の図書(資料)は、「堺市立図書館資料保存基準」に基づき保存している。また、図書の管理についても、市民のニーズや図書の新鮮度、蔵書構成など総合的な観点から判断して開架(閲覧室)及び閉架(書庫)で保存・管理している。
   収集図書のうち、表紙、挿し絵、イラスト等で特に過激な性的描写等のある図書については、青少年に配慮する観点から、開架せず書庫に収蔵し、請求があった場合に、閲覧及び貸出しに対応している。
 ③ 廃棄
 本市図書館所蔵の図書(資料)は、適切な維持・管理を図るために「堺市立図書館資料除籍基準」に基づき、常に全図書館の所蔵状況、出版事情を十分検討し、一冊一冊よく吟味して、将来の利用にも支障のないよう配慮しながら廃棄を行っている。
除籍基準における廃棄する主な事由は、「著しい汚損、破損または書きこみ等があり補修が不可能なもの」、「科学技術の進歩等により、記述内容が時代に合わなくなったもの」、「同一内容で更新(買い替え)されたもの」や「出版事情、蔵書構成、利用者の需要及び資料の保存価値を総合的に判断して保存する必要がない」ことなどとしている。

ウ 請求人の主張に対する意見
  請求人の「特定の図書を開架から排除し廃棄処分しようとしている」 という主張については、本市図書館は他の図書の取扱いと同様に「堺市立図書館資料保存基準」及び「堺市立図書館資料除籍基準」に基づき取り扱うため、廃棄していない。よって、請求人の・「廃棄処分しようとしている」という主張には当たらない。
 また、今年7月に「市民の声」における問題提起を受け、青少年に配慮するため、表紙、挿し絵、イラスト等で特に過激な性的描写のある図書について、従来通り書庫に入れ、9月3日以降、18歳末満の青少年への貸出しも、いったん停止し、調査・検討を行ってきたが、未成年の利用実態がほとんどなく、年齢制限にも法的根拠がないため、11月14日から青少年への貸出制限を解除した。
  現在のところ、表紙、挿し給、イラスト等で特に過激な性的描写のある図書の取り扱いについては、自由な読書活動を尊重しつつ青少年に配慮するため、関架せずに閲覧室の延長線上にある書庫に収蔵し、請求があった場合には、閲覧、貸出に対応している。よって、請求人の「貸し出し不可能な閉鎖状態で保管することは著しく恣意的」という主張にも当たらない。
  なお、今年7月に寄せられた「市民の声」で、一部の特定分野の図書の購入冊数や購入金額を明らかにするように求められ8月に冊数等を公表したことについて、この特定分野の図書の分類・定義や判断基準が曖昧で明確でないにもかかわらず、調査・検討のために、それに該当するものと思われるものを抜き出したもので、すべてが過激な性的描写があるものではない。この補足説明を加えずに、選定集計を公表したことは適切ではなかった。


第3 監査の結果
1 本件の監査対象事項

  請求人が本件において主張する事実は、堺市の図書館が所蔵する特定分  野の図書の廃棄処分を行い又は行おうとし、あるいは貸し出し不可能な閉 鎖状態で保管しているとの事実であり、請求人はこれらの事実を住民覧査請求の対象である当該行為又は怠る事実としていると解される。
  よって、①請求人の主張する事実が存在するかどうか、及び②事実があるとすれば、その事実が違法若しくは不当な当該行為又は怠る事実といえるかどうかを、本件の監査対象事項とした。

2 請求人の主張する事実について
(1)請求人が主張する事実を確認するため、主張に関連する事実経過を整理すると、次のとおりであった。
 ① 平成20年7月24日 北図書館に対し、市民から電話でBL図書の所蔵等についての問題提起があった。
 ② 平成20年7月25日 南図書館に対し、市民から北図書館と同様の問題提起があった。
 ③ 平成20年7月25日 平成20年度第2回図書館事業調整会議において、昨日からの経過報告とともに、BL図書と称される図書の取り扱いについて各図書館の状況と見解を聴取し、今後の取り扱い方針等を検討した。
 ④ 平成20年7月30日 本市ホームページの「市民の声」Q&Aにおいて、一般にBL図書と称される図書を公費で購入した趣旨、目的、購入冊数、購入費用に関する市民からの質問を受け付けた。
 ⑤ 平成20年7月31日 中央図書館はBL図書と称される図書の冊数を集計等する必要から、各図書館に対し、BL図書に該当すると思われるものを特定し、開架されているものを書庫等に集めることを指示した。(BL図書かどうかの判断基準は明確ではなかったが、書店などで分類されている著者、シリーズ名、出版社などを参考に、BL図書に該当すると思われるものを各図書館の複数の司書が判断することとしていたとのことである。)
 ⑥ 平成20年8月8日 館長会議において、BL図書に該当すると思われるものについて、 すべて閉架(書庫入れ)とすること  今後は収集しないこと、 18歳未満の者には貸出ししないこと、を決定した。
 ⑦ 平成20年8月13日 中央図書館は、各図書館に対し、BL図書に該当すると思われるものについて、表紙及び本文のイラスト・文章表現で性描写の表現が激しいものがないかどうかの内容確認を指示した。
 ⑧ 平成20年8月20日 平成20年度第3回図書館事業調整会議において、8月8日の館長会議で決定された事項について確認し、書庫入れの作業手順等を検討した。
 ⑨ 平成20年8月22日 中央図書館総務課は7月30日に受け付けた「市民の声」Q&Aについて回答を行った。この回答は9月2日、本市ホームページに掲載された。
 ⑩ 平成20年8月29日 館長会議において、BL図書に該当すると思われるものについて、18歳末満の者へ閲覧・貸出しをしないことや書庫内の一定の書棚にまとめて保管すること等を内容とする「BL資料の取扱いについて」を決定した。
 ⑪ 平成20年9月3日 8月29日の館長会議の決定内容について、「BL(ボーイズラブ)資料の取扱いについて」と題する文書を中央図書館総務課長から各図書館長あてに通知した。
 ⑫ 平成20年11月4日 本件住民監査請求が提出された。
 ⑬ 平成20年11月14日 館長会議において、9月3日付けの「BL資料の取扱いについて」を変更し,18歳末満の者への閲覧・貸出しは制限しないことを決定した。同日、中央図書館総務課長から各図書館長あてに、変更内容について、11月14日から実施することを通知した。
 ⑭ 平成20年11月28日 館長会議において、これまで書庫内の一定の書棚にまとめていた図書は、一般図書として取り扱うことを確認した。

(2)ア 請求人の主張する事実のうち、図書の廃棄処分を行い又は行おうとした事実について、監査対象部局からの意見書及び事情聴取等によると、堺市立図書館における図書は、図書の保存・整理等に関する事務(以下「図書整理事務」という。)を担当する複数の司書が、図書館資料の適切な維持・管理を図るために制定された「堺市立図  書館資料保存基準」及び「堺市立図書館資料除籍基準」(以下「本市除籍基準」という。)に該当するかどうかを、図書の保存・整理等に関する司書の専門的見地及び経験をふまえて判断し、本市除籍基準等に該当する図書について除籍を行った後に廃棄している。

イ 本市除籍基準における除籍事由は、a-1著しい汚損、破損または書きこみ等があり補修が不可能なもの、a-2科学技術の進歩等により、記述内容が時代に合わなくなったもの、a-3同一内容で更新(買い替え)されたもの、a-4複本で保存の必要のないもの、a-5類書で保存の必要のないもの、a-6その他、出版事情、蔵書構成、利用者の需要及び資料の保存価値を総合的に判断して保存する必要がないと認められるものについて行う廃棄による除籍のほか、b亡失等の資料について行う事故等による除籍、C合本・製本による除籍、d他の図書館への移管による除籍となっており、特定分野の図書であることを理由とした除籍及び廃棄は含まれていない。
ウ 以上のことから、特定分野の図書であることを理由とした除籍及び廃棄は、堺市立図書館における図書整理事務として行われていないと判断される。
 また、(1)に前述した事実経過において、本件住民監査請求の対象 とされている図書が廃棄されていないことについても、監査対象部 局の意見書及び事情聴取等において明言しており、監査委員におい てもこの事実を確認している。
エ 次に、貸し出し不可能な閉鎖状態で保管しているとの事実についてみると、本件図書の保管については、本件図書は平成20年9月3日以降、これまで閲覧室に開架されていたものが書庫内の一定の書棚にまとめられ、18歳末満の者への閲覧及び貸し出しが制限されていたが、平成20年11月14日にはこれらの制限が解除され、閲覧及び貸し出しの請求があった場合にはこれに応ずることとされたことが、(1)に前述した事実経過から確認されている。
オ 以上のことから、請求人が住民監査請求の対象とした事実は、存在しなくなったものと認められる。

3 結 論
 以上のとおり、請求人が住民監査請求の対象とした事実は存在しなくなったと判断される以上、本件の住民監査請求は主張の前提を欠くこととなり、請求人の主張を検討するまでもなく理由がないものと判断される。

                                   以 上


堺市の問題に関しては、以下に経過などを書きました。
堺市立図書館で「特定図書排除」事件はなぜ起きたのか?(寺町みどり)


監査請求の陳述に関しては、図書リストの補充書(意見書)についても、
公開する予定です。


12/31追伸・
特定図書リストを分析した補充書(意見書)です。
特定図書リストについての分析-1

特定図書リストについての分析-2

特定図書リストについての分析-3



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コメント (3)
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