高山に生育する花を、庭に植えて上手に咲かせている人がいる。このシラネアオイもお寺の庭先に咲いていた。高山の環境で育っている植物は、低地の庭ではなかなか管理は難しく大抵枯らしてしまう。お寺の庭のように、広く日影や池など変化に富んだ環境が、こんな瑞々しい花を咲かせているのであろうか。堰の水を引き入れた池には、ちょうど水芭蕉もきれいに咲いていた。
尾崎喜八『山の絵本』から。
あんなに高い山の肩に朝日があたっている。燃えるようなミツバツツジ。踏んで行く沢筋の岩の間にはチゴユリ、チダケサシ、イカリソウ、イチリンソウ。それに可憐なクワガタソウが目につく。ゆっくり植物採集に来たいと思う。「限りなく美しき五月の月に」!肩にルックサックの適度の重さを感じながら、朗らかに幽邃な朝を口笛を吹きながら私たちは登る。
そして、尾崎喜八は樹林帯の沢筋の草むらのなかに、このやさしい花びらを咲かせるシラネアオイの床しい群れを見つけるだろう。