季節を感じさせるのは花ばかりではない。静岡に住む妹から、朝掘りの筍が届いた。包み紙にした新聞紙は、筍から出た水分ですっかり濡れている。早速皮を剥くが、皮すらみずみずしく、はがれ難い。少し力を入れると、途中から切れてしまう。筍が新鮮である証しだ。真竹や笹竹もおいしいが、一番春を感じさせるのは孟宗竹である。竹林のなかで、ほんの少し頭をのぞかせているのが、おいしい筍掘るコツだ。
筍のひかり放ってむかれたり 渡辺 水巴
糠を入れて湯がき、一晩おいて妻が作った筍づくしは、タケノコ寿司、筍の味噌汁。細かく刻んだ筍の佃煮(熱いご飯に入れて混ぜれば筍飯)。皮以外には捨てるところのない食材である。かっては本当においしい筍は、京都の長岡にしろ、九州にしろ産地まで出かけてなかれば味わえないことになっていた。ところが、最近の流通、特にトラック便の普及で、朝掘りの筍が産地を出て翌日には手元に届く幸せな時代になっている。京都の料亭の味を、家で味わえるという贅沢を可能にしている。