病む妻やとゞこほる雲鬼すすき 太宰治
この春、妻が頸椎の手術をして、一人家を守
った。家事全般を司る妻に入院されると、家
事を行うにも相当の覚悟というものがいる。
太宰もまた妻に寝込まれて、おろおろとする
ばかりで、家事にも手を出せない様子が、句
から想像できる。
太宰治に『竹青』という短編がある。題に
「新曲聊斎志異」という副題がつけてある。
原本の『聊斎志異』に収められている「竹青」
は、カラスと人間の異婚譚である。太宰はこ
の怪異譚を翻案して、神の鳥である竹青に夫
婦愛の真実を教えられるという筋書きである。
貧書生の魚容という男がいた。科挙の地方試
験に落第して、途方にくれて呉王廟で、眠っ
ていると、烏の群れの一員になってしまう。
夢のなかの出来事か、現実か、はっきりしな
いまま物語は進む。そこで出会うのが、雌の
烏の竹青である。烏になって、餌を得たり、
空を飛んで洞庭湖から漢陽へ飛んだり、ある
時は、烏から人間に姿を変えながら話は進む。
この小説は昭和20年4月1日発行の「文芸」に
発表された。