寒くなって恋しくなるのはなべ物である。な
かでも、豆腐や大根を煮込んだお田は、冬の
定番といってよい。江戸の街では、お田の引
き売りが、「お田燗酒、甘いと辛い」と大き
な声を出して客を呼び込んだ。反対の方から
は、「石焼いも~、石焼いも~」の呼び声。
豆腐を串にさして味噌をつけて焼いたものが
田楽の始まりだが、白袴をはいて高足に乗っ
て舞う田楽法師の姿から連想された名である。
おを付けるのは、昔の女房言葉で、お田楽の
楽は略されている。
お田に限らず、なべ物はいい。湯豆腐、タラ
チリ、芋煮にすき焼き。腹の底から温まって
熱燗で過ごすひととき、私には至福の時間だ。