天童温泉にある温泉神社に、高浜虚子の句碑
がある。大きな御影石に虚子自筆の文字が刻
まれている。句は
天童のでゆや蟇なく夜もすがら 虚子
である。高浜虚子は、昭和31年に芭蕉の奥の
ほそ道を訪ねる旅で、天童温泉に投宿してこ
の句を詠んだ。もう田植えの終わった田の蛙
の大合唱は、虚子の宿の部屋にまで響いたの
であろう。元禄2年の夏、芭蕉は尾花沢に逗
留し「這出よかひやが下のひきの声」の句を
詠んだのを思い出して、虚子もこの旅の記念
に蟇を詠んだと推測できる。この年、虚子は
81歳であった。すでに高齢で目も不自由であ
ったのか
大いなる蟻這ふといふわれはみえず 虚子
という句も詠んでいる。すでに『虚子自伝』
を上梓し、人生の大団円を迎えようとしてい
た。